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初夜

※別に18禁じゃないです、そんな覚悟もてる二人じゃないんだなあ・・・


6畳程の部屋にベッドが一つ、テーブルが一つ、椅子は二つ。

ここに俺たち二人が泊まるわけだ。

男女二人だよ?大丈夫なの?

さっきから心臓の音が凄い、よく漫画でこういう表現あるけど、マジなんだな。

チラ・・・と隣を見る。

同じ反応してた。

「えっと、取り合えず、荷物置かない?」

何とか声を出す。

「ハ、ハイ、よろしくお願いします!」

なにがよろしくなのか・・・。

目の焦点が定まってないし、汗すごいな。

有紀は魔女としてこの世界を数百年も生きてた。

けど「生きてきた」だけで実際には「ダンジョンはソロ狩り」だし、俺達の世界に転生しても友人は俺だけというコミュ障っぷりだった。

この態度からして、ガチだわ。ガチでダンジョン引きこもりの人見知りだわ。

うわぁ・・・この子・・・俺よりやばいんじゃない?なんて思ったら冷静になってきた。

そうだな、ここは男の俺がリード(?)して見せねば。

「って言っても荷物は、そのポーチぐらいか?」

「うん、はい、そうです・・・。いや、そうだよ。」

「はは、混乱しすぎだよ、有紀。俺達昔から一緒に寝てただろう?」

一緒に寝てたって言ったのは有紀だったし、それは「向こうの世界で男二人で」という状態だったけども。

「そうだね、うん、そうだそうだ。」

俺が落ち着いてる(ように見える)からか、その空気で有紀も落ち着いてきたようだ。

彼女は空間からアイテムを取り出せるので、申し訳程度に腰に巻きつけているポーチを置くだけで良い。

一方、俺は武器もあるし、バックパックもポーチも持ち歩いている。

ただ今はほとんどアイテムを入れていないので重量は然程ないが、それでも荷物を置くだけで結構大変だったりする。

「あ、修司、手伝うよ。」

戦闘のたびに荷物が揺れればバランス崩れるのでキツく締めているせいで苦戦していると、有紀が正面からバックパックのベルトを外してくれた。

確かに外すの大変だったから助かるけど、ちょっとお嬢ちゃん、その腰のポーチはいいよ・・・。

しゃがまれると絵的にね。

「ありがとう、もう大丈夫だ。」

と手伝いを断って、自分で外す。バックパックさえ下ろせば後は外すのに苦戦しないからね。

ちなみに戦闘から逃げないといけないケースなんかは、キツイベルトのせいで外せない、と言うことになる。こういうときには手持ちのナイフでベルトを切って逃げるわけだ。

どうせバッグの中も荒らされたり、他人に拾われたりするわけだから、回収して再利用なんて考えない。

全部有紀に渡せば身軽になるけど、なんかそれ在りきというのも申し訳ない。

せめて普通の冒険者と同じ装備と同じ動きが出来るようにならないとな・・・。

思考を続けていたおかげで俺はだいぶ落ち着いた。

有紀は?と見てみると、彼女は俺の剣を見てた。

緑の虹彩・・・龍眼だ。

「剣見ているけど、何かあったのか?」

「そのショートソードは冒険者ギルドから支給されたものでしょ?そろそろ買い替えかな・・・、って考えていたんだ。」

「そう?まだ使えると思うけど。」

「もうあちこち亀裂入ってるね。魔力の流れは物質にもあるのだけど、この剣はその亀裂のせいで魔力の流れがおかしい。」

このバックラーも・・・と盾のほうも見る。

どちらもギルドの支給品で元々鍛冶師見習いが練習で作ったものだから、質は良くない。

逆に良く今まで耐えてきたな・・・って所かね。

「ただ買い替えとなると、金足りるかな?」

「うーん、明日武器屋さん行ってみようか。入手できるものが無かったら、ボクが何とかするよ。」

なんだろう?何とかするって・・・魔女だから特殊な仕事が出来るとか?


宿は泊まることを目的とした場所で、食事を取りたいときは宿の隣の酒場に向かう。

この酒場、一応15歳で成人のこの世界で酒を飲むのはおかしな話ではない。

まだ駆け出しの初心者でも酒を飲んでいるし、俺もアルカ村の宿では酒を飲んだこともある。

「ステーキ、ライス二人分で、飲み物は水でお願いします、水でね!」

3層は猪肉が取れるので専ら肉料理が美味い、と考えステーキを頼む。

「あれ?水でいいの?」

「いや、明日も武器入手した後はギルドの依頼受けるだろ?それに疲れてるときにはアルコール避けたくてね。」

「真面目だね、修司。」

以前酒を飲んだとき、二日酔いで倒れているところを有紀の魔術で酔い醒ましをしてもらったことがある。

恐らく今回も酒飲んでいても何とかしてくれるだろう。

でもね、本心はそこじゃない。

思い出せ、有紀、俺達は今日二人同室だぞ!間違いがあったらまずいだろ。

「ボクは酔わないから、普通にエール頼むよ。」

魔女はすごいな、酔いが状態異常だとして、彼女は状態異常にかからないという特性がある。

「歳もとらず、傷も治る、状態異常にもかからないし、どんな環境でも生存できる・・・っていうのは、逆に『変化できない』とも言えるね。それが良いこととは限らないんだよ。」

俺にはうらやましいと思う特性だけど、やっぱ長寿だと色々あるのかねえ。

そんな話をしながら、食事を取る。


このフロアには元々風呂と言うのは存在していなかったが、クランのマスターが「衛生の向上」を重視した結果、大衆向けの風呂場が出来た。

ここのマスター有能すぎない?有能でしょ・・・。

一応生活用の魔術・魔法というのが存在して、清潔を保つ、着火するといった生活に役立つスキルもある。

ただ使えない人は使えないし、こういった風呂の存在はありがたい。

当然有紀もそういう魔術は使えるが、やはり日本人としては湯船につかりたい。

俺達は風呂へ向かう、混浴かと思ったら普通に男女別だった。そこまで細かく配慮できるのもこのクランがどれだけ優秀かを示しているように思える。

男達の裸を見ても別に興奮することは無かったが、まだ冒険者として駆け出しなので俺とそんなに体格に差はないな。

一部「筋肉すごくない?」とか「この傷は戦闘の跡かな?」と思うような人もいる。なんていうか強そうな存在だね。

今ここで裸の男を並べたら、自分は中の下ぐらいじゃないかな?モテるかどうかって言われたら、一番話に出てこない位置だよな。

もちろん今までもその位置だったし、今更気になることではないけどね。


風呂から上がり、フロアで涼んでいたら有紀も来た。

服は・・・やっぱりシャツにハーフパンツだ。

「浴衣じゃないんだな」とつい口にしてしまった。

「修司そんなこと考えてたのか、変態なのかな?」

ちょっと冗談ぽく笑われた、風呂上りの火照った顔でそれはヤバイって。

「いいいいや、他の冒険者も俺もそうだけど、基本的に同じ服装だよな、と思ったんだよ。」

慌てて弁解する。

「そりゃね、荷物増やすわけにも行かないでしょ?たまに女の冒険者で荷物を男達が持つ、というパーティーもあるけど、そういう『姫ちゃん』ぐらいはいろんな衣装持ってるかも。」

おや?ちょっと棘がある言い方だな。

「姫ちゃんキャラはね、ボクを敵視してくるんだよ。取り巻きの男がこっちに目移りしてしまうらしくて・・・。だから関わりたくないタイプだし、そもそも人と話すのもあまり得意じゃないんだよ。」

修司を除いてね、と言ってくれたのは嬉しい。

こいつが女だから、ってわけじゃなくて単純に人間として信頼されてるのを実感できて嬉し

い。

「いい感じに体も温まったし、寝るか。」

俺はやんわり言い、宿に歩きだす。

「そうだねー。」

風呂上りのご機嫌有紀もついてくる。


あ、そうだった・・・ベッド一つじゃん・・・

宿についてから思い出す。俺の記憶力は鳥並みか?

「俺、床で寝るから、有紀ベッド使いなよ。」

「いやいや、修司。明日から大変なのはボクじゃなくて君のほうだよ?ベッドで寝なさい。」

お互い譲り合いの精神を発揮するハメになる。

やっぱ意識しちゃうよなー、しちゃわない?

俺彼女居た事ないんだよ?女と二人で寝るってハードル高すぎない?

ただ、俺は気まずいという精神論で床で寝ることを主張するのに対し、有紀は翌日以降の俺の体力維持という実利を上げてベッドで眠らせようとするので説得という意味では不利だ。

このまま押し問答しても負けるのは目に見えてる。

「わかった、こうしよう。」

俺の焦りは思わぬ提案を招いてしまった。

「ベッドの右半分は俺が使う、左半分は有紀が使う、このベッドの中央にテープ貼り付けておくから、この線を越えないこと。」

「ふぁ!?」

「お互いの主張が平行線なんだから、こうするしかない。別に密着するわけじゃないから恥ずくないしな、俺は。」

()()を強調して言ったら、有紀も・・・

「まあね、これだけ隙間あれば一人で寝るのと同じだし、ボクもなんとも思わないな。」

と乗ってくる。

「じゃ、お休み、修司!」

あ、先手取られた!

これ後からベッド入るほうが緊張するんだぞ・・・。

モゾモゾとベッドに入る、あれ?これ、布団共有じゃん・・・。意識するとヤバイ。

意識するな・・・と念じると逆に有紀のニオイが感じられる。

ステイ、ステイだぞ・・・いいな?俺・・・

なんて自分を戒めてみたけど、仮に戒めなくても手を出すようなそんな度胸はないんだ。

でもこの緊張を抑えないと眠れないぞ・・・どうしよう?

いやいや、どうしようっていうと有紀が寝ぼけて抱きついてきたらどうしよう?

どうしようどうしよう・・・って思ってたが肉体的にも頭のほうも疲れがピークだったのか、気づいたら寝てた・・・。

起きたときには有紀はベッドから出てたし、あれ?何もイベントなかったね?

こうして二人同室の夜は何も無く終わったのだった。

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