ベタ東ダンジョン10層
ここに来てから1ヶ月、あっという間に経過してしまった。
学校生活の頃はこんなに時間が過ぎるの早くなかったんだけどな…。
試験が迫って「勉強しなきゃ」って気持ちに駆り立てられてたからかもしれないけど。
ここでは狩る、食べる、寝るみたいな生活だからか、時間が流れるのが早い。
ただ日々の生活は確実に俺を強くしてくれていた。
来たばかりの時には苦戦した大ウサギも、今ではフロアでの戦闘でも目がちゃんと追いついてくれる。
ウサギが地面を蹴り左右に翻弄してくるが、ウルフよりも曲線的な動きではなかったのが一つの発見だった。
素早く動くが、必ず地面を強く蹴り、軽くジャンプしているような状態で動くわけだ。
ならその着地点にバインドを仕込むだけで足を拘束できるし、その隙にアーツを叩き込めば良い。
アーツ…俺の変質した魔力の影響も出てるかな?と思ったがそんなことは無かった。
絶炎剣みたいに炎が出てたらカッコよかったんだけどね。
ただ急所攻撃が的確に出来るようになったのは大きな収穫だった。
急所っていうか首なんだけど、身をよじっても確実に首を狙って攻撃することが出来るようになった。
8層…9層は特に問題なしというか、9層に到ってはフレイムで燃やすだけだった。
動きも鈍いが体力があるトレントだが、見た目の通り炎に弱いみたい。
絶炎剣は黒い炎を纏っているけど別にこれは本物の炎ではないため、燃えない。
魔族たちは9層のモンスターの弱点となるスキルを持っていなかったのでそこそこ苦戦してたみたいだ。
一撃必殺型の彼らは「一撃で倒せない」ときの対応をこの9層で学ぶぐらいには倒すのに時間をかける。
「炎の魔術だと?そんなものがあるとは、この世界はそんな術があるのか…。」
長老がこの話を聞いたときに非常にびっくりしていたのを覚えている。
彼らもテクニカの中に遠距離攻撃はあるが、属性というものは存在していない。
ビームを放つようなものならあるけど、炎や水、石を投げつけるような魔法と同じものは存在していない。
「我々も使えるか試したい」と言われたけど、俺も「こうやるんですよ」というような指導はできないんだよな…。
教えられる人はやっぱり基礎から魔力の扱いを学んでる人であって、俺のような焼きつけ刃的に習得した人間では他人に伝えられるだけの知識はない。
有紀に到ってはそもそも魔法使えないし…。
あ!
「有紀、例の方法使って魔術を伝授したら?」
俺に魔術を教えるときのアレだ。
アレなら恐らく魔術を使えるかどうかは試せるんじゃないか?
「ボク、簡単に楽して習得するのはどうかと思うな~。」
あれ?
「いや、でも俺のときは…。」
「修司のときは別だよ?キミは戦う手段を持ってなかったんだから、皆と合流するためにもズルするしかなかったんだよ。」
「そ、そっか…なるほどね。」
「ごめん、素直に言うと、修司以外とああいう風な触れ方するのはめちゃくちゃ恥ずかしいんだ…。」
肌の触れ合いは俺はいいけど他の人はダメっていういうのが有紀の気持ちなんだな。
何となく優越感がある。
「いや、それじゃあ仕方ないよな!」
仕方ない…と言ったけど、これも俺の付いた嘘だ。
正直、持ってる優越感を崩したくなかったっていうのもある。
いや、男だったら「甘えるなよ」ってなるけど、有紀は多分男目線で見たらモテるほうなんだよ。人によるかもしれないけど顔立ちとか肉付きとかさ。
そんな子にこんなこといわれたら、ねえ?
「まあ、彼らは自分のスキルを持ってるし。魔術の使い方伝授しても、使えるかどうかわからないしな。」
俺がそう言って先ほどの提案を引き下げた。
冒険者カードでは分からない項目というのは実は多い。
例えばどれだけ筋力があっても、的確な一撃があてられなければ意味がない。
命中率と言えばいいのかな、そういったサブステータス的なものは載らないし自分達も分からないわけだ。
どちらにせよ、俺は戦う数をこなさなきゃいけないわけだけど。
良くRPGで雑魚狩りをする理由が今では凄く分かる。
Lv上げと言う分かりやすい目的でやっていた行為だけど、実際には戦闘を通じて自己の体の動きを最適化させてるわけだ。
Lv1でも倒せるようなモンスターを倒してLv99でラスボスに挑む、というのも雑魚狩りによるステータスアップと共に自分の体を効率よく使いこなせる主人公ならば成しえるかもしれない。
実際には「ありえない」けどね、そんな極端な話は。
それだけでは圧倒的に足りないのが戦闘知識なわけで、例えばラスボスが初期モンスターと同じ行動を取るなら初期モンスターだけを狩ってればいずれラスボスも倒せるだろうけども、そんなことはゲームでも実戦でもあるわけが無い。
多種多様な動き、モンスターの体つきからどのような行動をとるか推測したり、そういう戦闘知識を以って挑む必要がある。だからゲームでは初期モンスターだけでLvをあげてラスボス討伐は出来るけど、現実では無理だろうな。
そして、俺はそろそろこの拠点を旅立とうと考えている。
「有紀俺はそろそろ10層のボス倒そうと思う。」
有紀に打ち明けると、彼女も同じことを考えている時期だったんだろう。
「言うと思ったよ。」
とニッコリ笑った。
俺達2人は特に打ち合わせる必要も無く、方針も決まった。
明日、明後日か…長老の許可を貰い次第10層へチャレンジだ。