魔族との邂逅2
6層の残りはラウノさんが地図を見せてくれた。
というか、7層以降は全てマッピング済みだったので、こちらも1~5層の情報を提供する。
4層だけは未完成だが…。
「この4層のウルフってのは厄介だな。数も多いんだろう?瘴気が無い空間で狩りも出来ないしな。」
ダンジョンで何十年も生活って難しくない?と思うのだが、案外そうでもないみたいだ。
ヒルメルは穢れた世界と言われている。
瘴気と言われるものが漂ってるが、それだけではない。
「やたら広い土地が深い亀裂により分断されているため、地域交流が殆どない。この亀裂は周期的に閉じることがあるのでその期間だけ交流を持てるんだそうだ。それも、友好とは限らないだろう?戦うハメになるなら、このダンジョンで生活するほうがずっとマシさ。」
また、魔物の存在もある。魔物はモンスターと比べると凶悪かつ巨大な生き物なんだとか。
ただ向こうでは食料源の一つでもあるので一族総出、もしくは近隣のグループと手を結んで討伐する。
当然死ぬこともあるわけで…それに比べたらここのほうが死ぬほどの凶悪性のあるモンスターが居ないから過ごしやすい、ということになる。
「まあ、我々の住居の2個下…つまり10層はも凄く強いモンスターが居るね。そこだけは子供の魔物と同じくらいの強さらしくて、長老も油断はするなとおっしゃっていた。」
ボスモンスターが子供の魔物と同程度か。
10層は彼らにより「腐朽の妖樹」と名づけられた樹木が存在し、それがこのダンジョンのボスモンスターと言うことになる。
彼らであっても容易には10層には行かない。というか「そもそもドロップも役に立たない」から行く意味がないとラウノさんは説明する。
この3人の中ではラウノさんのみ倒したことがある。
「あれは男が結婚するときにその意思を証明するために挑むモンスターだ。ヴィヴィは女だからその試練は受けられないし、ヤミはまだ若いから無理だな。」
このダンジョンのボスは恐らくそんなに簡単なモンスターではないと思うんだけど、難易度の高さと相まってイベント化されてしまったようだ。
ちなみに9層にも木のモンスターが居るが、10層は動かないのに対して、9層は普通のモンスターのように徘徊する。
このモンスターから取れる木材が建築にも使われるし、火を燃やす燃料としても用いられるようで、ここでの暮らしは別に不自由という訳でもないらしい。
7層に降りると瘴気が濃くなる。
まあ、俺は結界張ってもらってるわけだから、濃度とか気にならないわけだけど。
6層までは薄暗かったが、7層は普通に明るい、というか明るすぎない?
一瞬俺は自分の世界に戻ったのかと勘違いしたぐらいに明るい。見てみると所々岩がLEDランプ並みに光っていた。
持ち帰れば一儲けできるな…と思ったけど、ラウノさんが止めた。
「その岩は、ツルハシで採れるには採れたんだが、しばらくすると光らなくなってしまってね。採るだけ労力の無駄だ。」
なるほど、既にお試しでしたか。
この岩からの光を受けて、周辺に草花が生えていて、まるで室内で植物を育ててるような、そんな雰囲気がする。
そのうちの一種類をヴィヴィさんが採集始めた。
「この草は葉の部分には酸味が、茎には甘みがあるので食を楽しむのに向いているのよ。」
なるほど…ということで俺達も摘んでおく。根は微妙らしい。
「根はダメだけど、その代わりそっちに生えてるツルを引っ張ってみて。」
言われたとおりに俺はツルを引っ張るとズボボボと芋が採れた。
「その芋は甘みがあって美味しいので、そちらも持ち帰りましょ。」
ヴィヴィさんはこの辺りの草に詳しい。
「ここで生活してるから当たり前よ」と彼女は言うが、ラウノさんは明らかに「そうなんだ」て顔をしている。
「いや、私はほら、戦闘専門だから植物知識がなくても良いんだ。」
ダンディなおっさんが焦って言い訳してるのを見ると何ともほほえましくなるな。
進むとモンスターが現れる。
「ウサギか…、ウサギか?」
見た目はウサギそのものだ。アルカ村でも食べたことのある肉だけども…でかい!
アルカ村の倍以上のでかさだ。
「私は戦闘専門と言ったろ?今見せてあげよう。」
ラウノさんが手に瘴気を集中させたからか、両手がボボボと黒い炎を纏う。カッコいいんじゃあ~~。
「ふっ」
息を吐くと同時に一気にモンスターへ接近する。
ウサギのモンスター…もう大ウサギでいいか、大ウサギもかわそうと横に飛ぶ。
「はやっ」
俺の目には影しか見えなかったが、ラウノさんはちゃんと目で追えていた。
素早く反転し、大ウサギに触れる。
そして触れただけで勝負は着いた。
ボゴンという低い爆発音と共にウサギの触れられた場所が飛散し、大ウサギは消滅した。
倒した場所には肉塊が置いてある。ドロップのウサギ肉だ。
「と、私の場合は剣を用いなくても拳でこんな芸当もできるんだ。」
すごい…カッコいい。俺の手もあんなふうに炎を纏えたらかっこよく見えるけどなー。
ちなみに拳に瘴気を集めて放つ「爆裂掌」は剣による絶炎剣よりも威力は低いが、体内の瘴気の消費も少ない。元々は瘴気がないエリア(ヒルメルにも存在する)での戦闘を行うために開発された技ではあるが、基本的に彼らの世界では「体内の瘴気が消える」なんてことは殆どありえない話だったこともあり、細かいコントロールを必要とするこの技は不人気なんだとか。
つまり瘴気の配分を行う技能を持ってるラウノさんは地表でも自衛程度の戦闘が可能な数少ない魔族と言うことになる。
「さあ8層に行こう。」
ラウノさんの先導で更に進んでいく。




