アルカ村ダンジョン2層
結論から言うと2層は温かった。
そもそも1層よりも冒険者が多い時点でモンスターが見当たらない。
キツネを運よく?見つけて戦ってみたけど、ネズミより大きいだけで基本行動はほとんど同じだった。
このくらいの威力ならバックラーでガードしてそのまま壁にぶつけることも出来る。
ミストも大いに役立った。
嗅覚も音もある程度ごまかせるらしく、背後から奇襲することも出来た。
防御力は然程ないようで、ショートソードで全力一振りで倒せる。
それともうひとつ・・・
「ちょっとストップ・・・この通路曲がったところに一匹・・・、修司準備しておいてね。」
有紀がこそこそと声をかける。
くすぐったい・・・。
彼女の目は普段茶色の虹彩をしているが、このときは緑の虹彩に変わる。
最初見たときは「あれ?コンタクト変えた?」なんて言ってしまった。
「これはボクの魔女としての綽名はこの目に由来しているんだ。」
綽名・・・
魔女は大抵特殊な才能を持って覚醒するらしい。
「ボクをシゴ・・・んん、面倒見てくれた先輩魔女は3人居てね。一人は魔女の頂点『次元の魔女』、ボクは修司の居る世界に転生したのも彼女の能力で魂だけ次元を超えることが出来たからなんだよ。そして二人目は脳筋の『陽光の魔女』、大型の魔術と同じ威力を拳一発で出してくるおっかない魔女だよ・・・、連発されるとボクの魔法防御が紙クズみたいに消し飛ぶんだ・・・」
ああ、シゴいたのはこの陽光さんか・・・、有紀が避けたい魔女の一人なのは良く分かった。
今度チクっとこうと思ったけど、有紀が居なくなったら困るな、俺が・・・。
「そうなんだな、綽名なぁ・・・、有紀は?」
「ボクは『龍眼の魔女』だよ、中二病ぽい綽名だけどね」
うん中二だと思う、でもカッコイイし、良いんじゃない?
有紀の目には魔力の流れを見る力がある、ただそれだけじゃモンスターの有無は分からないよね?
それを言うと・・・
「うん、流れを見るだけなら『翡翠の魔女』とかも居るからね。ボクの場合はそれを応用して魔力の流れの差異からモンスターの配置や移動についても見ることが出来たり、ちょっと凄いんだよ?」
ドヤ顔された。
ともあれ、有紀の目はレーダーとして役立つ。
モンスターが近づいてるのが分かれば前もってミストを展開して、戦闘準備できる・・・一手分こちらが有利になる。
2層から龍眼を解禁した結果、1層より楽になってしまった、という話。
「でも、修司が怪我するほうが問題でしょ!?」
この過保護魔女っ子め・・・!
<有紀の目線>
2層はモンスターの能力から、修司には簡単なのは分かっていたし、だから3層を提案した。
けどもし彼が大きな怪我したら?
昔から修司はボクを守ろうとしてくれてたけど、君が怪我するたびにボクは心苦しかったんだよ?
1層駆け出しのころは仕方なかった・・・擦り傷沢山作らせてしまったけど、これは仕方がない話、冒険者に必要なことだから。
2層も、多少なら仕方が無いって目をつぶる。
でも奇襲されて、ひどい怪我を負わせてしまったら・・・魔術で治すことは可能だし、治せるけども。
本当は奇襲に対応をさせるためにスパルタ方式じゃないとダメなんだろう。
ごめんね修司、もっと強くなってもらわないといけないのに、ボクは君が怪我をするたびに心が痛いよ。
だから龍眼を使ってしまった。
2層の簡易休憩所・・・3層の施設を護衛しているクランの一部が2層に出て運営しているこの空間で、ボクらは休憩を取ることにした。
二人とも疲れてないけど、お腹は空くからね。
簡易休憩所は結界が張られている。
結界は2通りある。
一つはボクの使う魔術、もう一つは神官の『奇跡』と呼ばれるもの。
結界を作成する手法は異なるけど、結果は同じどちらも『サンクチュアリ』と呼ばれる。
多分これは部屋の隅で冒険者の擦り傷の手当てをしている神官が維持させてるのかな。
「有紀、飯食おう。」
修司から声をかけられる。
そうだった。
ボクは『次元の魔女』ではないけど、アイテムを別の空間から出し入れするぐらいはできる。
ファンタジーモノなら「アイテム収納」っていうのかな?
そこから汲みたての水と朝とは別の具が挟まったサンドイッチを取り出す。
温かいものも食べたいけど、匂うと変に注目を浴びてしまうから、迷惑かからないように質素に済ます。
もし、ボク一人だったら、きっと周囲の冒険者はナンパしてきたと思う。
過去にも数え切れないほどあったことだから。
コミュ障じゃないけど、やっぱり話をするのは大変なんだ、コミュ障じゃないけど。
「ち、冒険者カップルか」とか「俺もあんな可愛い子と過ごしたいな」なんて声は聞こえてくるけど、これは我慢しよう。
話しかけられないというのは幸せなのだ。
モンスターから修司を守るけど、修司はナンパから守ってくれてる、とも言えるよね。
「ん?何かついてる?」
「え?何でも無いよ!」
あ、じーっと見つめてしまったみたいだ。
散々修司には「チラっと見る程度にしてくれ」と言ったのに、自分はマジマジと見てしまった・・・。
「この後3層行けば今日は終わりかな?」
「そうだね、1層で稼いだ資金があるから無理に依頼をこなす必要はないからね。3層もギルドの出張所があるから、明日からはそこで依頼を受けようか。」
あ・・・そうだ・・・
「キツネのドロップ品は皮だよね?1層でも3層でも依頼出ているはずだから、その依頼受けて納品しておけば多少の稼ぎにはなるよ。」
ただ初心者さんはしばらくしたら2層メインで動くせいで、1層ネズミ退治と報酬に差がないどころか、日によっては下回ることがあるから、本当に「多少の稼ぎ」なんだけどね。
<佐野修司の視点>
うわあ、カップルって言われちゃったよ。
まじで?モテない男にそんな評価しちゃう?
周りの声聞こえちゃったよ・・・有紀はどう思ってるんだろう?
と有紀をチラっと見てみると・・・めっちゃガン見してた。
「ん?何かついてる?」
「え?何でも無いよ!」
慌てて顔を背ける有紀。
理由は分からないが、こっち見るのに集中してたなら周囲の声聞いてなかったかもな。
食後は少しぼーっとして、1時間後に3層に向けて出発することにした。
2層は相変わらず冒険者がキツネ退治してるもんだから、あんまり俺が手を出すチャンスがなかった。
3層はそんなことないと信じたい。