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ベタの町での休息3

「こんにちは、ココアさん。」

有紀が話しかける。俺が話しかけると取り巻きの目が怖いからだ。

「あら、こんにちは!今日は休みなのね。」

「ええ、まあ。」

ココアさんと有紀は椅子に腰かけ、テーブルを挟んで向かい合ってる。俺は有紀の後ろで立ってるし、取り巻きはココアさんの周りに立ってる。

この取り巻き達、女性には優しいらしく、有紀にはちゃんと席を譲る紳士っぷりを見せたけど俺には露骨に壁を作ってくる。ただ、壁を作るといっても「フレンドリーではない」というだけで、別に嫌悪してるわけじゃないく(目が怖いけど)、俺が今飲んでいる2杯目のコーヒーは取り巻き達が俺達に気を利かせて奢ってくれたものだ。

「実は」と有紀が3ヶ月前に起きた召喚と召喚された者達が今何をしているかココアさんに質問を始めた。

「・・・なるほど。」

ココアさんは意外と鋭いのだ。俺は昨日まで姫ちゃんだと思ってたし、ぶっちゃけ今も思ってるけど。

恐らく俺達、もしくは俺も召喚された人間なんだと気づいたと思う。有紀は顔つきがアルカ村の子だからわからんけど。

ただ、ココアさんは気づいてもスルーしてくれるあたり、ちょっとただの姫ちゃんじゃないんだなって分かる。そりゃ高ランクの取り巻きもできますわ。


情報は1ヶ月前に入ってきた情報らしい。

30数人に及ぶ異世界人は王都で世界の知識や武器防具の扱いについて教育を受けてから近隣の初級ダンジョンで訓練を積んでいるが、最近になり数人が離脱した、ということだ。

離脱・・・?

「そう、離脱。あ、理由はしらないよー?そこまで細かい情報こないもんね。」

ココアさんは姫キャラのまま話するからなんていうか、重い話にも思えない。

て、まあ実際重い話でもないか。

そりゃね、うちのクラスは全員仲良しって訳でもないし、ウマが合わなきゃ離れもするからね。


結局1ヶ月前の時点では

①王都付近の初級ダンジョンで修行を続けているのが大半

②戦闘向けではない人は後方支援のための技術を学んでいる

③この集団生活に嫌気がさしたと思われる数人が脱退

こういうことらしい。

「戦闘向けではない・・・てのはどういうことなんだ?」

「拠点で待機するタイプだね。例えば結界を作成したり回復したり・・・これは戦闘向けの人でも使うけど拠点に結界を張るだけの魔力が残ってないと困るでしょ?だから予め拠点を設定して、そこに結界を張り続けたり、戻ってきたメンバーの回復をしたりする人が必要なんだよ。」

有紀の説明で何となく分かった。俺達と違って向こうは人数に余裕があるから手分けするということが出来るわけだな。

他にも荷物運搬(恐らく収納使えるんだろうけど)、武器・防具メンテナンス、食事など後方支援役の仕事は多岐に及ぶが、ダンジョンの内部にクランが護衛してる施設がないような環境だと(ベタ東ダンジョンがそれだけど)、これらの仕事を専門にする人の存在はありがたい。

とりあえず王都からダンジョンに行ってるようだし、王都に向かうという目標はそのままで大丈夫そうだ。


それよりも離脱した人が居るって言うのがなあ。

女神達からの召喚は何か目的があって行われているみたいだけど、最終的にその目的が到達されるのであれば、多少の離脱は問題ないのかもしれない。俺や有紀も召喚の際に漏れたわけだし。

ただこっちのグループはどこにいるのかサッパリ分からないし、偶然遭遇したら良いけど、別にムリに探す必要もないな。面倒くさいし。

ちなみに離脱組に関する情報は何も入ってきていない。女神の加護がある以上、通常よりもチート性能が付与されていると思ったんだけどなあ。

「女神の加護は確かに普通よりも遥かに凄い能力を得られるけど、素の能力が1の人に10倍になる性能渡しても10でしょ?高ランクのほうが今のクラスメイトより強いんじゃないかなあ?」

有紀が言う。

要するに使いこなせるようにするためにダンジョンに赴くわけだな。

中途半端に脱退した人もまだ「普通の冒険者」と同じ程度の実力しかない状態とも言える。

それなら俺が置いて行かれてるわけでもなさそうだし、安心かな。


それはそうと、とココアさん。

「お金に困ってない?良い話あるよ~?」

キャハ!って感じなのがちょっと怖いんだけど・・・。

「まあ、多少は。」

有紀ではなく、俺が答える。ココアさんと取り巻きにジロリと見られるが、ココアさんは直ぐに有紀に向き直ってニッコリする。あれ?俺に聞いたんじゃないの?

「実はね、良い仕事あるのよ。冒険者の依頼範囲じゃないからギルドの依頼に乗らないんだけど、私個人に依頼がくるのよねー。」

有紀に言うってことは、()()()()()()なんだろうな。

「有紀ちゃん、可愛いしさ、絶対沢山もらえるよ!ちょっとおじ様達をいい気分にさせるだけでいいんだよ~!どうかな?」

売春の斡旋だった。有紀も気づいてたみたいで特に驚く様子も無い。

「大丈夫、私が紹介するのはちゃんと私が有紀ちゃんに見合った顧客にするから、怖いこととか危ないことは無いようにするし。現にお金に困ってた新人ちゃんに紹介して、良い装備そろえて冒険者としてまた旅立ってもらってるんだ。」

本来なら東ダンジョンの1・2層を初心者向けに開放すべきだが、そこをココア冒険者組合が占領して依頼を受けさせないようにしているし、3層以降は古いマップしかないので初心者には難しいし。

となると、西のダンジョンから始めないといけないが、向こうは中級ダンジョンだ。初心者や少し慣れてきた程度ではパーティーでも1層すら厳しかったりする。

もちろん人が集まるダンジョンだし、そこそこ腕が立つ冒険者による手伝いも見込めるが、初心者パーティーでやるにせよ、腕の立つ冒険者を雇うにせよ、資金が必要だ。そこでココアさんは女性冒険者に売春斡旋して資金稼ぎを促すわけだな。

このシステムはもし3層以降に別のクランが占拠するようになったら崩れるシステムではあるが、ココア冒険者組合の取り巻きは高ランクが多いということもあって、そんな正面から喧嘩吹っかけられるクランはそうそうないし、だからこのシステムは維持され続けている。

でも有紀の答えは決まってる。

「お断りかな。」

「ええー!どうしてー!?」

「理由は2つ。まず、ボクらは確かにお金がないけども、3層以降に潜れるからココアさん達が受けない依頼をこなせるでしょ?なら東ダンジョンに潜って資金集めが出来る。それともうひとつ。ボクは接客業が死ぬほど苦手なんだ・・・。」

「簡単だよー?オジ様に笑顔向けるだけでいいん・・・」

「その、笑顔向けるのが苦手なんだ。分かってほしい。」

有紀がココアさんから目を逸らす。情けないから見ないで、みたいな雰囲気だ。

「・・・そっか、じゃあしかたないねー!」

ココアさんも引き下がる。

「あ、でも、有紀ちゃん。私は別に貴女に冒険者を辞めさせるためにこんな提案したわけじゃないからね?」

「分かってるよ。」

売春にしても、不特定多数に対する斡旋ではなくて、ココアさんの場合は恐らく金持ちを相手にしたものだから1対1でのマッチングだろうし、尚且つトラブルがあっても高ランク冒険者による応援があるわけだから、路上で買ってくれる人を求めたりするよりは遥かに低リスクだと思う。

思うってのは、まあ俺は売春とか斡旋しないし、当然されたことがないから予測なんだけども。

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