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ベタ東ダンジョン4層2

現状の確認。

俺は右足・右腕に噛み傷あり。体力は少し回復したが息切れ気味だ。長期戦は無理そう。

ウルフB、こいつは健全。

ウルフC、フレイムを受けて防御の要となる毛は焼き払われて、かつ火傷のダメージを受けている。

ヤツらは機動力が高い嗅覚も優れている。ただこの薄明かりの下とは言え、近距離では視力に頼ってるので奇襲的な動きには弱いようだ。

それと魔力の感知はあのモフモフの毛が行っていて、毛先に触れる空気中の魔力の変化を感じてる。

これは俺が3層に居るときに立てた仮定で、多分正しい。

有紀を見ると入り口付近で立ってる。

俺の勝利を信じ・・・あれ?すげえオドオドしてんだけど、俺負けるって思ってる!?

大丈夫だよ!

ウルフ達が警戒してる間に色々情報をまとめる。

短期勝負、かつ限定的に1対1の場を作るのが良いな。

よし・・・とりあえず呼吸は整った。


俺は火傷のあるウルフCを倒すことに決め、駆け出す。当然ヤツは迎撃の態勢を取るが・・・

(ブラインド!)

魔力の感知能力が消えてるため簡単に視界を奪うことに成功した。

急に真っ暗になれば向こうもびっくりしてるようで頭を振り回したり後ずさったりと、目の前の暗闇を取ろうと努力しているが、無駄だ!

更に勢いをつけてパワースラッシュを撃ち込みに行く。

もちろん・・・後方からウルフBが俺の首を狙って駆け出してるのも把握済みだ。

2匹いることは頭に入れるが倒す目標をしっかり決めてそいつとのタイマンに集中する、これが俺がここで勝つ方法だ。

そして「2匹いる」ことのメリットはついさっきの戦闘でも利用したが・・・

(アヴォイド)

後方からの攻撃を前方に「避ける」。

自分で動く以上の急加速でウルフCに迫ることが出来、今この場は完全に1対1の状況になった。

ブラインドが消える前に・・・

「うおおおおおおお!!」

魔力を込め、剣を横薙ぎに振るパワースラッシュを発動させる。

キャンという短い鳴き声とザン!という切断音がフロアに響き、そのモンスターは消えた。

直ぐにウルフBへ向き直ると、ヤツは迂闊に近づかず距離を取りながら俺を見ている。

「あと1匹だ。」

距離を取る・・・というのは向こうにとっては咄嗟の行動への備えだろうけど、俺にとってもありがたい。

思考を回すことができるしね。


もう一度現状の確認。

俺は有紀からもらった触媒(ミサンガ)のお陰でハードスキンを維持しながらの戦闘でもここまで戦闘を続けられてるしマジックポーションもある。

魔力部分は余裕あるけど体力部分はまずいな。アドレナリンが出てるからか傷の痛みはないものの、出血が止まっているわけではない。もちろん出血量は交感神経の働きで少量ではあるけど、確実に流れてるわけだし、このままじゃ良くないよな。

キープ(ウォール)はあと2回ある。

狙いとしてはウォールで弾く→フレイム→パワースラッシュのコンボを決めたい。

膠着状態では俺が不利になるだけなので、攻めに出る!

まず、ウルフの後足にブラスト。

当然感知され、前方に駆け出すが、これが俺の狙いだ。同時に俺も前に出る。

左手にはバックラーがあるのでアイツは避けても俺に攻撃できない。

アイツの思考を盗んだわけじゃないが、今までのウルフとの戦闘経験やついさっきの動きを踏まえて次は俺の右側に出るように動く。

予想の通り、ウルフBは俺が前に出てきているのを見てやや右にそれるような形で避け・・・俺の腕にまた噛み付こうと飛び掛る。

俺はややしゃがみ、相対的にウルフが上から圧し掛かるような形になるように調整する。

ウォールは敵を弾く。下から上に飛び掛られるとそのまま地面に弾き返すだけなのでコンボが決まりにくいというかコイツの場合は決まらないな。

なので今のシチュエーションで浮かせるには俺のほうがしゃがんで低い位置になるようにしなきゃいけない。

条件はそろった。

勝ち確定だが、油断せずに決める。舐めプはしない主義だからな!

「リリース・ウォール!」

見えない壁を作り出し、そこにウルフが触れて上方に弾かれる。

着地までに終わらせる。

俺はしゃがんだ姿勢から起き上がり、フレイムをぶつける。

やはり炎は脅威のようで、キャンと鳴き声をあげるが、ヤツには消す手段がなく、あっという間に首周りの毛は焼き払われる。

よし・・・いける!

ダッシュして最後の一撃を決めにいく。もうお前しか見えないぜ!

集中しきってるせいか、ウルフの動きがゆっくりに見える。着地の瞬間もスローモーションで見えるぐらいに!

(バインド!)

着地の瞬間にバインドを発動させ、ウルフの身を封じる。ダメ押しの一手だ。

「終わりだ!!!!」

俺は叫びつつパワースラッシュを撃ち込み、ウルフはその姿を消した。


3匹のうち、1匹は先制攻撃による奇襲。2匹目は少しずつ攻めて、3匹目は完全なタイマン勝負にもっていけて勝利。

集団攻撃の手段を持ってない俺はこうやって攻めるしかないよな・・・。

「でも、勝利だ。」

気を抜いた瞬間。ズキン!と痛みが襲って俺はその場に倒れた。

くっそ痛いじゃん!なにこれ!

しかも呼吸!集中しすぎると酸素足りなかったの気づけないのか。

「ぜえ!ぜえ!」

先の戦闘中に整えた呼吸が一気に乱れる。あぶねえ、酸欠直前だった。

「修司!!」

有紀が駆け寄ってくる。

いやあ、ちと今はしゃべれねえっす・・・。

「修司ぃぃ!」

俺を抱き起こし、ぎゅうっと抱きしめられる。

あ、胸当たってますよ有紀さん。気持ちいいわー。

なんて思ったけど口に出さない、ていうか喋る余裕が無い。

「はあ、はあ・・・、有・・・有紀、回復・・・き、傷の。」

かすれ声で言う。集中切れたことで出血量がまた増えてる気がする。

「う、うん!うん!」

抱きしめられたまま、有紀の魔力が流れてくるのを感じる。と、痛みが和らいでいき、傷も塞がっているのを感じる。

おや・・・?

「有紀、また、泣いてるのか。」

思っただけだったけど口に出てしまった。

口に出るって事は呼吸も戻ってきてるな。

「そ、そりゃ心配だったからね!!」

有紀がそういいながら慌てて俺から離れる。急に俺を支えていたものがなくなり、ゴン!と地面に頭をぶつける。

「いってえええええ!!」

頭を抱えてのたうちまわる。

「ご、ごめん、修司。」

直ぐに頭に回復を貰って痛みも消えたけど、いやあまさか味方から奇襲を受けるとはね。

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