ベタの町
ベタの町は「村」よりも遥かに規模が大きい。
中心部は住居も商業も栄えており人が多くて、貴族や金持ちのエリアが中央よりやや北側に位置している。
当たり前だけど俺達はその辺りには行かない。情報収集なら行くべき場所ではあるけど、人ごみ苦手な二人が行ってもかえって情報収集できないからだ。
町の東西にダンジョンがあり、東が初級ダンジョン、西が中級ダンジョン(塔)となる。
西側に大半の冒険者が拠点を置いて活動しており、東側はノンビリとした環境だ。
当然俺達は東を拠点とする。
「ただ、ちょっと冒険者が居なすぎるね」と有紀。確かに東側にもダンジョンはあるわけだから閑散としていてもそれなりに冒険者は居るべきだと思うのだけど、殆ど見かけない。
この理由は後で知ることになる。
ちなみに、治安に関しては町の殆どのエリアで治安が良い。
金持ちの多い北部や町の中心部は国から兵士が派遣されているし、東、南、西はベタの町出身の元冒険者による自警団がその治安維持に努めている。
もちろん犯罪ゼロというのは無理な話ではあるのだけど、俺が想像してたようなスラム街の雰囲気は存在していない。
「東側も別に人が少ないだけで建物は普通だし道路も清潔だよな。」
「この町は管理が行き届いてるねえ。お金持ちが居るエリアもあるし、結構経済豊かだからかな。」
ダンジョンがないけど流通の関係で「町」として発展してきたところは経済に偏りが生じて、貧富の差が目立つんだとか。恐らく俺が想像するスラムはこっちならあるんじゃないかなと有紀に言われた。
ただ「治安が良い=平和」とは限らない。
例えばダンジョンの治安に関してはベタの町は関与していない。ダンジョン内のことはクランにお任せという状態だが、アルカ村のケースのように1クランで運営することもあれば複数クランが関わることもある。
どちらにせよクランの目が届く範囲では管理するクランによる治安維持が自主的に行われるものの、クランの管理外の場所は完全に無法地帯になるので殺人・強盗・・・女性冒険者であれば性犯罪として被害に合うことも稀にあるがそれらは誰かの責任ではなく自己責任による行動の結果と判断される。
また街中でも利権の問題が絡んでくる。
この町は周辺の村から商売しにくるわけだが、元々この町で商売をしている者も居る。
暗黙の了解的に外部からの商人が活動できるエリアを設けているが、そのルールを理解せずに別の場所で商売をしてトラブルが起こることがある。もちろん注意され直ぐに移動するなら問題はない。
ところが血の気の多い商人となるとそこで揉める。あくまでも暗黙の了解でエリアの住み分けをしているだけで「商売してはならない」という法律があるわけじゃないので血の気の多い商人が悪いとは言えないし、兵士や自警団としても「習慣でこうなっているんだ」と説得することは出来ても、彼を断罪するようなことは出来ない(罪じゃないしね)。
そういったトラブルが起きると、その報復はダンジョン内の冒険者に対して行われるらしい。
「○○の村の商人か、なら同じ村の冒険者をクランが管理して無いところで殺害しろ」と、そういった汚れ仕事的な依頼を非公式に受ける冒険者がいる。
冒険者には旅を目的にする者だけでなく出稼ぎをメインとする冒険者もいるわけだから、同郷の冒険者を殺害したとなれば村に与えるダメージは少なくない。
商人も自分の利益だけならそんな報復気にする必要はないが、彼らも元々は村に利益をもたらすために活動しているわけだから、変なトラブルで村を潰すわけにも行かないということで大人しくなる。
どちらにせよダンジョン内部では殺人含めた凶悪な犯罪が野放しにされることもあるんだ、っていうことだね。
さて、町に到着後東エリアの宿で一泊した翌日に町の東部にあるアルカ村のギルドよりもちょっと小さめの冒険者ギルドに着いた。
あ、もちろん交通費をガマー村長が奢ってくれたお陰で昨日の一泊は別室だった。
ラッキースケベばかり起こされたら色んな意味で俺が持たないし、たまには別々のほうが良い。
ガラーンとしていて「どんだけ人気がないのか」がよく分かる。
掲示板に貼られた依頼を見てみると1層と2層の依頼は真新しいものが貼られているが3層以降の依頼は少し古い。というか10層のモンスターからのドロップ(恐らくボス?)の取得依頼についてはもう紙が変色してしまっている。まあ依頼期限も無期限だからいいんだろうけどね。
「ここはラッキーリップスのようなクランは無いのかな?」と昨日有紀に確認したときの話を思い出す。
アルカ村は周辺の村から人が来る。人や品物の流入がある以上、クランの収益も見込めるのでラッキーリップスによるダンジョン管理が出来ていた。まあ、クレスさんの思い入れもあったしね。
ところが、この辺りは立ち寄る冒険者が少なく、当然ダンジョン管理のメリットもないので割と放置されているようだ。
ただ全く行われていないわけじゃなくてダンジョンで採れるものも需要はあるので低層に関しては依頼を引き受ける目的でクランが関与する。
依頼書の新しさ的に、1・2層はほぼ毎日依頼がこなされていて、3・4層はたまに依頼を受けてるという感じかな。5層以降は受けてるような様子はない。
「うーん・・・」
有紀が考え込む。
3層と4層の依頼は1日で終わらせられないので基本的にダンジョンで1晩すごす必要がある。
その一泊必要なレベルの依頼からあんまりこなされていないわけだ。
つまり、思った以上に管理されて無い・・・。
3層以降の依頼は「あんまり期待しないでおくね」程度の無期限依頼ばかりだし。
手っ取り早く日銭稼ぐには1・2層の依頼を受けるのがいいかな。
ダンジョンに慣れる目的もあるし、丁度いいだろう。
「あら、こちらに着たばかりの冒険者さんかな?見たこと無い顔だけど。」
後方から声がしたので振り向くとピンクのゴスロリファッションの金髪女(しかも縦ロール!)と側にはやたらガタイが良い角刈り男が立っていた。
ゴスロリが更に言葉を続ける。
「2層までは私たちのクランが毎日引き受けてるのよ。他の冒険者が誰も引き受けてくれなくって。そのせいか、依頼主も私たちを信用してくれてて、実質的に私たちのクラン専用の依頼なのよ。ごめんなさいね。」
んー・・・?要するに「1・2層にお前への依頼はねーから!」と言いたいようだ。
「君たち、このダンジョンはこのココアさんが率いる『ココア冒険者組合』が管理してるから、勝手な依頼は受けないで貰いたい。」
ずい、と前に出てきたガタイが良い角刈り男が言う。
クラン「ココア冒険者組合」・・・ダサいネーミングだが実はこのクランは総数10人台の小規模クランにも関わらずランク6以上が7人もいるという特殊なクランだ。
コンセプトが「ココアと一緒にマッタリしよう☆」というモノらしい。なんだこれ・・・。
要するに「サークルの姫」とその取り巻きってやつか。ネットゲームとかでも見たことあるぞ。
ていうか、こっちに冒険者が全然来ない理由ってこれか。
1層や2層の依頼は受けさせてもらえないし、3層以降についてはクランの管理が殆ど行き届いていない。
クランの管理が行き届かないとなると死亡時の蘇生も一切期待できないし、ダンジョン内で宿泊するなら臨時のパーティーで結界を張れる者を募集しなきゃいけないのだが、そこまでするなら中級ダンジョン1層メインで活動するほうがよほど楽だったりする。
さて、どうするか・・・。




