ガマー村の晩餐2
有紀が話始める。
「実はボク、異世界に転生する前の記憶が薄いんだ。当時の情勢は分かるし、自分のことも多少は分かっているんだけど・・・。でもおぼろげな部分が多くて、特に自分の性格なんて全然思い出せないんだ。」
有紀は記憶喪失だったのか・・・。
今の有紀の性格は転生してからの性格?転生する前の性格?それも本人も分からないんだとか。
「なるほどの。んー、ただ私も龍眼の魔女とはお会いしたことはないし、魔女自体に興味はなかったもんだから、耳に入った情報だけでの話なのだが。」
「300年前のボクは何をしでかしちゃったんだろう・・・?教えて貰えると嬉しい。」
「うむ、了解した。」
村長は「そうだな・・・まずは」と話を切り出す。
「300年前に私が生まれてそれから30年・・・40年だったか詳しい年代は忘れたが、冒険者として活動しているときに一つの話を耳にしたのを覚えておる。」
300年前・・・っていうか260年ぐらい前か。
ブシ市の東にあった山が削られた、という話が流れてきたらしい。
削られたっていうか、消えてたというか・・・
「ええ・・・まさかそれ、ボクがやったとか・・・?」
「うむ、正確には『陽光』と『龍眼』がぶつかり合った際に山が消えるほど地形を削ったらしい。」
「おいおい、有紀・・・。何してんだよ。」
「い、いや、ボクが一方的に陽光にボコボコにされてただけじゃないのかな!」
聞いててショック受けてる有紀、お前がやったんやぞ・・・。
「山が削られたという情報と一緒に当時新人魔女だった龍眼についての話も王都から流れてきてな、『龍眼は気に食わないものを吹き飛ばす』残虐な魔女だと。あるいは『女神を恨んでる』と。」
「・・・・若気の至り・・・?」
「思い出せないけど、多分そうなのかも・・・。本当だとしたら恥ずかしすぎる。」
有紀が両手で顔を覆ってる。耳めちゃ赤いんだけど・・・。
「ま、まあ当時の噂はそうだったということだ。私はその噂の信憑性はいささか疑問だったんだがな。と言うのも200年前になると、龍眼が冒険者となったという噂が流れていて目撃情報もチラホラ上がっておったのだが、別に残虐だとかそういった噂は流れていないのだ。」
というか200年前になると人との関わりも殆ど持ってなかったようで、噂話も「○○のダンジョンで見かけた」とか「○○の冒険者ギルドに居たぞ」という話だけで、彼女の実力を示すような噂話はなかったようだ。
「お陰でブシ市のあたりの山を壊したのは『陽光の魔女による王都への威嚇』という話になっておる。」
山を壊す理由は陽光の魔女にはないわけで、あるとしたら恐らくその噂どおり龍眼の魔女である有紀と喧嘩でもしたんじゃないか?有紀のほうはその後冒険者として活動するまでに矯正されていったのかもしれないしな。
だが、「地形を壊すだけの実力がある」という現実はブシ市に魔女を二人住ませているというのが「ブシ市に対する武力行為の結果はこうだぞ」というメッセージになるし、陽光の魔女としては「あの場所は陽光の魔女が山を破壊した跡だ」という噂になっても構わないわけだ。
むしろその噂によって王都がブシ市に口を挟みにくくできるし、書物好きらしい陽光の魔女には噂話一つで(まあ実際に山消えてるけど)、ブシ市の平穏は良いこと尽くめなんだろうな。
結局260年程前の凶悪な噂話以外は目撃情報程度だったし、100年前から噂は一切なくなっている。
そりゃ異世界に転生してたからそうなんだけども。
「そ、そうなんだね・・・。」
有紀は山を削るほどの騒ぎが自分に原因ある?という話でショック受けたみたいだ。
「ああ、もう一つあった。魔女の冒険者時代の目撃情報はあったが、魔女って感じではなかったっていう噂もあったんだ。今の貴女の外見もそうですな。」
「魔女の格好、目立つでしょう?だから力をセーブする方法を身につけたんだよ。今のボクの見た目ならあんまり目立たないし。初見では魔女だって気づかれないことのほうが多かったんだよ。ギルドの職員は冒険者カードを見るからそこからボクが魔女だって話は流れてたみたいだけど。」
個人情報管理がばがば過ぎない?まあ有紀も「変なのに関わらなければいいや」って程度で、気にするってわけじゃないのかな。
宿に戻る。
部屋は別々だけど、今後の予定を軽く打ち合わせるために俺の部屋に集合している。
「明日はノンビリ過ごすとして、明後日にベタの町へ出発だね。1泊2日ぐらいで着いた記憶だよ。」
ベタの町はダンジョンが2つ存在する。
一つは初級ダンジョン、アルカ村より複雑な構成をしているダンジョンで10層構成となっている。
もう一つは中級ダンジョンでコレは地下ではなく塔のように聳え立っており、こちらも10層構成となっている。
ただ初級ダンジョンはアルカ村で攻略してきた冒険者が多いので人気はない。というよりパーティーで中級ダンジョンの低層のほうが効率良いんだとか。
「ボクらは初級ダンジョンにもぐろう。中級はソロやペアならもう少しランク上げてから挑みたい。」
「10層までいくのか?」
「んー・・・行けるなら行きたい。ただ、初級ダンジョンでも8層から先は中級ダンジョンの低層より難易度が上になるから様子見ながらだね。」
「了解。しかし、ベタの町でそろそろクラスメイトの情報をもっと知れれば良いんだけど。」
「そうだね。結局ここでも大規模召喚されたっていう情報しか得られなかったね。」
あいつら一体何してんだろうな・・・。
「さて、ボクはそろそろ失礼するよ。」
「おう、てか一緒に寝る?」
「いやあ、今日は止めとくよ。」
今日はね。あらあら、それじゃまるで別の日には構わないって聞こえるぜ。
というかだんだん距離縮まってるような気がする。心の距離かな。
俺達はずっと一緒だったけど、ベタベタしてなかったはず。いや、男同士だっていうのがあったからかもしれないけど。
今男女だからなー。有紀のほうも今までの距離より近くしてもいいやって感じなのか?
でも「どこまでが友達」で「どこまでが恋人」なのか俺はサッパリわからない。
だから「同室で良いよ」と言われたりすると「イロイロしていいよって合図なの?」と思うこともあるけど、違ったら凄く信頼を失うし怖い。だから相部屋でも手は出すつもりはないわけだけど。
なんかそんなこと考えたら昼間のエロ魔女モードの有紀を思い出してしまった。
アイツやっぱ胸大きかったな。大きすぎないのも良い。グラビアアイドルやってたら人気でてたぞ。
というかクラスの男子の妄想の対象になってしまってたかもしれないな。
そう考えると独占できてる今の俺は優越感半端無い気がする。ってかムラムラしてきたし、ちょっとやることやって寝よう。