親友と過ごす冒険者生活
冒険者となって1ヶ月が経過した。
俺は未だにランク1だけどステータスは少しずつあがっている。
ダンジョンは1層にごとに幾つかのフロアに分かれていて、それをつなぐ通路が存在している。
俺はバックラーと刃渡り40センチほどのショートソードを装備している。
この装備なら狭いフロアや通路せの戦闘でも振り回しやすい、らしい。
広いフロアでの戦闘は苦手だが、そこは有紀が魔術で援護してくれる。
アルカ村の側のダンジョンは初心者向けだけあって5層構成のようだ。
しかも1層は村の人も普通に出入りしているし、薄暗い空間かと思ったら普通に明るかった。
地表に生えている木が日光を吸収し、そのエネルギーを根に寄生している菌へ届けて、その菌がダンジョンの天井に繁殖している苔にまでエネルギーを伝達、そしてエネルギーを受けた苔が発光する、という流れらしい。
確か、共生っていうんだっけ?凄く・・・生物学です。
おかげで1層では作物が良く育つそうで、村人の生活拠点の一部となっている。
1層レベルのモンスターなら普通に倒せるし、村の人強くない?と思ってたら、1ヶ月で俺も1層は余裕で倒せるようになった。
「1層は村の人も普通に出入りできるんだけど、2層からは冒険者メインの場所になるよ。」
有紀に説明を受ける。
「でも、2層以下も整備されていてね、2層には冒険者の簡易休憩所があるし、3層には冒険者向けの宿泊施設や道具屋なんかも存在しているんだよ。」
この世界では冒険者は多いため、ある程度リスクを負ってダンジョン内に施設を作る価値はあるようだ。
中には冒険者グループ・・・クランと言うらしいが、そのクランと契約してダンジョン内の施設を守ってもらう代わりに報酬を支払うというシステムもある。
クランも資金稼ぎに良いし、商人も安全を購入して他の冒険者から利益を得られるというWin-Winのシステムらしい。
「中堅向けのダンジョンなんかは、奥に行くほどモンスターも強くて商人が入れる場所じゃなくなってくるから、クランが運営していることもあるよ。」
なんか、思ったよりも冒険って感じじゃないような・・・
「そういうダンジョンも実は最深部はまだ攻略されていないんだよ。冒険者向けの施設運営をしているクランは冒険者がもっとも利用する階層までは手を伸ばすけど、最深部には利用者が居ないもんだからそこまで規模拡張することはないんだ。」
冒険者は少しずつ攻略をしているけど、この初心者向けダンジョンのように5層で終わることはまずありえない。
30層規模だと20層に辛うじて施設運営しているクランが存在するかな?って感じらしい。
そうなると冒険者は食料の問題から、どう頑張っても25層が限界なんだそうだ。
なるほどね。
ちなみに、俺は最近魔術を使えるように修行している。
魔術と魔法、この世界では区別されているようだ。
魔法は決まった手順にそって魔力を体に巡らせ放つ。
イメージ的に手のひらから火の玉を放ったりするのが魔法だな。
一方魔術は魔力を巡らせるわけじゃなくて、「どこに」「何を」「どの規模で」ぶつけるか、数学のように式を構築させて、完成した式に魔力を流し込んで発動させる。
イメージ的に空から雷を落としたりするのは魔術ということになる。
魔女の有紀は魔力を巡らすというのが出来ない、魔女は無限に魔力を有するために制御するのは無理なんだそうだ。
変わりに術式制御と構築は息を吸うのと同じ位簡単に出来るみたいだけどね。
おかげで自分が学べるのも魔術・・・ということになる。
ただ、その学び方がまた非モテにはきついんだ。
「2層に行くまでに魔術ひとつ使えるようにしておきたいし、今日もやるよ。」
有紀が催促する。
「・・・別の方法ってないの?」
「あるとしたら、専門書読み込んで自分で術式構築する・・・っていう方法はあるよ?でもそれだと年単位で時間かかっちゃうからね・・・。そんな時間、無いでしょう?」
そう、時間はたっぷりあるというわけじゃない。
出来れば早く王都に向かいたい、皆と合流しないといけない。
「分かった、やろう。」
胡坐をかく、手をひざに乗せ、目を閉じる。
その手を有紀が握る・・・やはり恥ずかしい。
体温を感じる、だけじゃない、別のナニかも感じる・・・これが魔力だな。
お互いの額をつける。
うっかりキスするイベントとかなったらどうするの?やばくない?やばくない?
と思ってたりする、毎回。
手を通じて魔力、額を通じて術式が俺の頭に入り込む。
どういう組み立てをして、どう魔力を利用すれば良いか・・・体に教える感じだな。
多分、この方法は有紀だから出来ることで普通は出来ないんだろうな、出来るなら今頃魔術も主流だったろう。
「ふう・・・」
賢者モードになったわけじゃない、脳内に色々情報が入るから疲れただけだ。
「お疲れ様~」
ふわっとした感じで言われるから結構キュンって来ちゃいますよ。
すでに1ヶ月禁欲・・・出来るわけもないわけで、宿は幸い別の部屋を借りてるからね。
むらむらとした気持ちはちゃんと発散できている。
ちなみに今日頭に入った魔術は霧を出すだけの魔術だが・・・
「霧を出す『ミスト』はバカに出来ないよ。この前教えた『ブラインド』と組み合わせれば薄暗いダンジョンなら凄く効率良いんだからね。」
ブラインドは相手に対する目隠しではなくて、狙った場所を暗くする魔術だ。
これも微妙だな、と思っていたけど、彼女が優先して教えたかった魔術らしく、何度も練習させられたな。
今回もミストの練習をして、最後にブラインドと組み合わせて発動させてみる。
指定した場所・・・今回は有紀を中心として発動させてみた。
有紀の周りの光が減り、しかも周辺に霧がかるおかげで確かに少し隠れているように見える。
「もっと慣れてきたら1層でも壁際は隠蔽しきれると思うよ。2層以降なら今のレベルでも壁や隅っこでしっかり隠れられるからね。」
ニコッてされながら褒められた、っていうか頭撫でられた。
・・・今夜も発散しなきゃな。
しかし、戦力的には今どうなんだろうな・・・。
1層のモンスターはネズミを大きくしたようなモンスターだ。
村の人も「ネズミ」というからそうなんだろう。
このネズミは1層の穀物を食い荒らすため、ほぼ毎日討伐の依頼が来る。
初心者冒険者の最初の依頼としてはうってつけだ。
ただ1週間もすれば飽きてくる、自分はもっと強いモンスターと戦える、と2層へ行く者が多い。
もちろん2層も簡易ながらも休憩所があるし、そこにはそこそこベテランの冒険者が滞留しているから、ピンチでもちゃんと保護してもらえる。
そんなわけで初心者冒険者も討伐系の依頼は1週間ほどで2層以降の依頼へ移ってしまうため、1層のネズミ討伐は「他の何か」の依頼のついでにこなされることが多いほど不人気なのだ。
そんな依頼を1ヶ月・・・俺達はこなし続けている。
収入の問題もあるから流石に別のクエスト、といっても単に「料理に使う水を汲んできてほしい」という簡単な依頼だったりするけど、そういった不人気系依頼を受けてすごしている。
魔術の勉強、という名のスキンシップ、いや、勉強だな・・・、これも水汲み依頼を受けて、水汲み場で休憩ついでにやってたりする。
で、戦力だが・・・ネズミの処理はほとんどショートソード一振りで仕留められるぐらいには成長した。
たまに上手く切れなくてもバックラーをぶち当てて転倒させた後にもう一振りすれば倒せるし。
ただ、まだ問題はあって、数匹まとまって処理する必要があるときは、有紀任せになってしまう。
彼女の戦い方はまずサーベルを取り出す。
「これはね、武器というより魔術の効率化のための触媒なんだよ。」
構え、魔術の構築を行うと同時に、いくつも爆風が起こる。
「これは『ブラスト』という、ボクが好んで使う攻撃型の魔術だよ。面白いことにね、この世界では魔法で同じく爆発させるものがあるんだけど、それも『ブラスト』って呼ばれるんだよ、区別されていないんだ。」
話しながらも確実に多数のネズミにブラストを当てていく。
魔法の場合は手のひらから放出する、魔術の場合は狙った場所に発動させるらしい。
異なる仮定でも同じ効果なら同じ技名がつく、みたいなもんかな。
一瞬でネズミ集団を倒し終わる。
モンスターはご都合主義なことに倒すと消え、時々「ドロップ」が出現する。
俺達の討伐はこのドロップ品をギルドに納めることで終了する。
ネズミの場合は「前歯」がドロップするのでそれを拾う。
ちなみに水汲みは汲んできた水を直接依頼主に届けるので、依頼主から依頼終了の手形を受け取ってギルドへそれを納めれば終了となる。
うーん、やっぱりゲームの世界みたいだな、と思う。
さらに1週間後、ブラストを教わったことで、俺の魔術のレパートリーは5種に増えた。
・攻撃系:ブラスト
・隠蔽系:ミスト、ブラインド
・防御系:ハードスキン、アヴォイド
防御系のハードスキンやアヴォイドは自己強化系の魔術だ。
名前からイメージしやすいがそのイメージ通り、防御アップと回避アップの魔術だった。
同名の魔法は魔力が続く限り継続する一方、こちらは一瞬しか持たない。
これは魔法のほうが優秀じゃないの?って思うんだが・・・
「一長一短かな?長時間戦闘になるなら防御形は魔法のほうが効率よくなるね。でも、ボクは魔術しかつかえないからまずは魔術の習得でね。」