龍眼の魔女2
アントンはバックステップで有紀から距離を取り、今度は手を向ける。
「次はコイツだ!!」
・・・シーン・・・。
「ん?」
俺は何が起きてるかわからないけど、他の人にはわかったみたいだ。
「くそ!・・・おい!お前何をした!?」
アントンは有紀に怒鳴る。
「2つ目のレクシャーだけどね。魔女に魔法?妨害系のキャストスキルがあるのは分かっているでしょう?魔女に魔法使おうとしても魔力感知して阻害されるだけだよ。ああ、もちろんそれじゃあつまらないだろうからスピードアップは使わせてあげてるよ。」
キャスター・・・魔法使いあるいは魔術士のことを指してそう呼ぶらしい。
キャスター同士の戦いはスキルの構築を妨害し不発させながら自分のスキルを完成させて放つ、というのが基本的な戦い方になるんだとか。そういった妨害に対してダミーを用意して妨害スキルをそちらにひきつけるたり、あるいは本命となるスキル構築を隠蔽(上級者はできるらしい)したり、あるいは簡単に妨害されないように構築強度を上げたりと駆け引きが行われる。
構築強度・・・って言われても俺はよく分からない。妨害とダミーぐらいは分かるけど隠蔽も「なにそれ?」状態だ。有紀は「そういうのもあるんだな、程度で十分だよ」とは言ってたけど。
兎も角、有紀にはアントンの魔法は効かない。というかそもそも妨害魔術を受けて発動できない。
正直手を向けて「シーン」とするのは非常に間抜けだった。
観客沢山居る状態だったら俺なら恥ずかしくてリタイアしたくなるな。
「く・・・く・・・・くそが!」
アントンはポーションを飲むと体が少しムキっとする。
「バーサクポーションか。」
ミランさんがつぶやくけど、ルカさんのときと変化が違うような・・・。
「ルカさんが使ったのは非正規品だ。アントンはああ見えても非正規品は手を出さない奴なんだよ。」
まじか、めちゃくちゃ違法ドラッグとか使いそうな成りしてるけど。
とか考えてたらアントンがまたナイフを持つ。
スピードアップは使わせてもらえたらしい。超スピードで再び有紀に迫る。
「リリースフォース!リリースハードスキン!リリースバースト!」
キープの使用自体は妨害されるが、既にキープで保存してある魔法は妨害されない。
リリースにより魔法が発動する。
ミランさんの解説によると
①フォース:攻撃力アップ。体には使用できず、身につけている武器にのみ効果あり。
②ハードスキン:防御アップだが武器に付与し硬化することで攻撃力アップの効果が得られる。
②バースト:一時的な筋力上昇。効果中体力消費し続ける。魔力の消費も大きい。
最大威力で攻撃を仕掛けるつもりらしい。
更にアントンはアーツも放つ。
「うおおおおおお!!!」
目で見る限り「攻撃をしている」のは分かるが俺の目では軌道が残像しか見えない。そのくらい凄い速さで連撃を仕掛けてる。
周りはもっとよく見えてるようだから、これは単純に俺がまだ弱い証拠だな。
アーツ「ブラッドバースト」。連続できられることで巻き起こる血飛沫が「まるで切られたところが爆発したかのように見える」ことから名づけられているらしい。
俺のような初級向けのアーツではなく、れっきとした上級者のスキルだ。さすがランク7。
・・・だが、目にも止まらない連撃は有紀とルカさんが戦闘したときと同じ結果だった。
ゴガガガガガガ!!!と激しい音が鳴る。一発一発が斧でも当てたの?ってぐらい重そうな音がこの訓練場に響き渡る。
「はあ!?お前、何をしてるんだよ!!おかしいだろう!!」
息切れしながらもアーツを止めない。止めないが一向にその刃が有紀には届かない。ウォールを使ったからだ。
「『ウォール』だよ。キミの連撃の速度よりもボクの魔術構築のほうが速かったんだね。」
ルカさんのときもそうだけど、自分の十八番を完全に押さえ込まれると心が折れるというのを有紀は理解してるから、わざと全力の攻撃に対して高速でウォールを張りなおす芸当をする。
「さっきのはキミの全力かな?なら、改めて3つ目のレクシャーだよ。キミが全力を出してもボクのほうが強い。」
有紀は結局腕を組んだままだ。
「はあ・・・はあ・・・!くそ!」
「ああいやいや、何終わろうとしてるの?ボクは謝罪受けて無いよ?セクハラに対するね。」
「はあ!?なんで謝らなきゃ・・・」
アントンが喋りきる前に有紀は軽蔑の目をアントンに向けてため息一つつく。と同時にブラストを発動させていたようでアントンが壁まで吹き飛ぶ。
「まあ、別にいいよ。もう話をしたくないから寝てて。」
有紀がアントンに向けて言葉を投げるが、既にアントンは気絶していた。
「そ、そこまでだ。有紀さんの勝利だ。」
立会いのミランさんが終了を宣言する。
その宣言を受けて、有紀はクルっと俺のほうに向きなおし、コツコツと歩いてくる。靴はハイヒールなんだな。ハイヒール特有のコツコツ音で気づいたけど。
龍眼の緑の虹彩は普段よりも更に輝いてる、普段ならじーっと見てると「見すぎ!」と頬を膨らませて言ってくる有紀だけど、今はむしろそのまま口元に笑みを浮かべて歩いてくる。
ていうか近っ。20センチぐらい前に有紀が立ってるんだけど!
「修司、この衣装、初めて見たでしょう?どうかな?」
「う、でも前に『見るのはいいけど口に出さないで』って言ったじゃないか。」
「いいんだ、何か今はむしろ修司の感想が聞きたいなって。」
んんん?なんか普段よりこう甘えてる感じがするけど、俺何かしちゃいました?
「ええっと、うん、可愛いよ。・・・いや・・・。」
背中どころか脇まで開いてるチャイナ服は肌の露出がエグい。太ももがスリットから出てるし。
有紀の顔も少し赤いけど目が輝いててぶっちゃけエロい、エロゲならこのまま押し倒す選択肢出てくるようなレベルだ。
「申し訳ないけど、ぶっちゃけエロいって思った。今も、ドキドキしてる。」
「ふふ。正直に答えてくれて嬉しいな。」
「いやあでもこれもセクハラ発言じゃない?」
「アントンに最初にセクハラ発言されたのが凄く嫌だったんだよ。だから口直しならぬ耳直し、だね。」
ニコっと笑う有紀。髪の色が変わってると普段と印象違うけど、笑い方は有紀そのままだった。
気が済んだらしい有紀は深呼吸をする・・・今度は黒ではなく白い渦が有紀の周りに集まり、渦が晴れると普段の有紀の姿に戻った。
けど、開口一番に有紀は「ごめん!」と謝ってきた。
「なんか、めっちゃ変な言動しちゃったね、修司に。」
ああ、さっきのやり取りか。
「いや、いいよ。エロかったしね!」
俺は親指を上にしてサムズアップのハンドサインを有紀に示す。
いやー、良いオカズだった。せっかく今日は一人部屋だしね、やることは決まった!
「あ・・・ああ・・・修司、忘れて!もう口に出すのはダメ!」
口に出す・・・いや性的な意味で言ってるわけじゃないのは分かってるけど、ね・・・?