龍眼の魔女
ガマー・ガード
ガマー村の住民による冒険者ギルドで、規模は大きくない。
主な仕事はガマー村の保安活動やアルカ村とベタの町を中心に冒険者の派遣およびガマー村商人の護衛となる。
俺が今居るガマー村専属クランなので平均ランクも3で、これは他の村々の冒険者の平均ランクと差はない。
ところが、このクランに1人だけランク7がいる。
アントンという男はクランで1番の腕を持つ男だ。
彼はベタの町周辺のダンジョンも一人で潜るほどの実力を持っているが・・・
「アントンはこのクランでは頭2つ3つ飛びぬけているせいで、アイツは図に乗ってしまってね。年輩の指示に沿って鍛錬や思考を深めていけば更に腕が上がるはずなんだが、『俺は最強だ!俺より強いやつを連れてこれたら話聞いてやるぞ』と全く指示を聞かなくなってしまった。」
若気の至りってやつか?歳は23歳らしい。
うーん、そろそろ自分を弁える歳な気もするけどなあ。
「最近じゃダンジョンにも行かないしクランの仕事もしなくなってしまってな。だからアントンを容赦なく倒して欲しい。世の中自分より強いやつがいるんだと自覚させて欲しい。」
ミランさんは有紀にそう伝える。
「もちろん修司に魔法を教えてくれた代わりにボクも約束を守るよ。」
「って、勝てるの?」
「勝てるさ。一部例外を除けば、ランク0以外には無敵なんだよ。」
有紀はドヤ顔で言う。
例外・・・魔女を傷つけるだけの能力や武器があればランク低くても倒せるかも、ということだ。
ただ有紀が把握している範囲で魔女を倒した事例はない。・・・まあそういう事例が無いから転生や封印を施すんだろうけど。
クランの建物は表向きは2階建てだが、中は地下も2階まで存在する。
その地下1階は訓練場となっているが、そこで有紀とアントンが対戦することになる。
有紀の願いがあり地下1階には俺、有紀、ミランさん、村長(=クランマスター)とサブマスター2人、それからアントンだけにしてもらった。
アントン・・・背は高くナイフを何本も持っている。布性のタンクトップとトラスタイルパンツ(っていうんだっけ?建築の人が履くズボンのうちの一つかな、それを装備してる。適度に日焼けしていてワイルドツーブロックのヘアスタイルで正直ルカさんとは違う方向でモテそうなタイプだ。
真面目にしていればルカさんよりモテるんじゃないの?これ。
「で?今日相手すんのはお前か?」
俺を見て凄まれた、ぶっちゃけ怖い。
「アントン、こちらのお嬢さんだ。」
「ああ!?・・・ふーん、分かった。可愛いし胸もあるな、服のせいで分かり連れえけど、ケツも良い感じだ。」
じろじろと有紀を見る。その視線に有紀が明らかに嫌な目をする。
「よし、俺が買ったらお前一晩付き合えや。抱いてやるよ。」
明らかにエロい目で有紀を見てるアントン、そういうの有紀にしたら・・・
「・・・ミランさん、約束通り、ボクは本気でやるね。」
「あ、ああ。」
あ、これは怒ってる雰囲気だ。ミランさんもそのプレッシャーに気おされてる。
アントンだけはまだ余裕の表情だ。
有紀は深呼吸を2~3回ほどする・・・と有紀の周りに黒い渦が現れ包み込むが直ぐに晴れる。
が、晴れるとさっきまでの有紀とは違う女がいた。
違うっていうか有紀なのは間違いないんだろうけど、髪の色は黒から銀髪へ。
そして何時もの布で出来た簡素な服じゃなく、黒いドレスを着ている。
ドレスというかチャイナ服に近いが俺のイメージしているチャイナ服よりも露出が多い。背中がガッツリあいてるし横乳見えてるし。膝ぐらいまでのスカート?にスリットが入ってる。Tバックの紐パンだから目立たないんだな、なんて考えちゃったり。
初めて見るが、俺は以前「見てもいいけど口に出さないでね」と言われたし「クッソエロい!!!」って言いたくなるのを我慢する。
「エロいじゃん。狙ってるのか?」
ニヤニヤしながらアントンがいう。
「・・・修司に言われるなら良いけど、キミが言って良い台詞ではないよ・・・!!」
え?俺言って良かったの!?
「アントン、有紀さん・・・開始するから距離を取ってくれ。」
二人はお互いに距離を取り・・・と言っても10メートルほどだが、向かい合う。
有紀は背中を向けて後方に移動するが、アントンは有紀を舐め回すように見ながら指定の位置に向かう。
「ケツも良い感じだったぞ。」
「・・・」
セクハラ発言連発するアントン。有紀、約束は打ち負かすことであって殺すことじゃないぞ・・・頼むぞ。
「開始!」
ミランさんが合図をする。
アントンはナイフを左右の手に持ち、左を前に出して構える。一方有紀は腕を組んで目をつぶってる。
「おい・・・、何してんだよ。早く負けたいってことか?」
「キミにはこれで十分ってことだよ。技術も、知識も・・・。」
有紀が今度は挑発する側に回る。
「じゃあさっさとぶっ倒してやるぜ!」
アントンが飛び出す。って早い!
「アントンは『スピードアップ』を使えるからな。魔法の名前は単純だから効果も直ぐイメージつくだろう?」
俺のためにミランさんが解説してくれる。
なるほどアヴォイドのような回避を条件として発動させるわけじゃないから初手から攻めるときには良さそうだな。
右!左!とナイフを振る。ルカさんのときにも同じパターンだったが、それより遥かに早い。
けど、それでも有紀は何もせず、そのまま二連撃が直撃する。
が、首筋を狙ったナイフは肌に刺さることはなく止まる。
「・・・は?」
アントンだけじゃなくミランさんも驚いてる。俺だけ分かってない。
ナイフが通らなかったのだけは分かるけど。
「知識不足のキミに一つずつ教えてあげよう。」
更にアントンは連撃を繰り返すもどこを狙っても服すら破くことは叶わなかった。
「っち、ハードスキンだろう!?」
「ハードスキンすら使って無いよ。まず一つ目のレクチャーだ。魔女は身に魔力の膜を張る。弱い攻撃はそこでカットされる。」
いやあ、だいぶ強かったと思うんだけどな。少なくともランク7の普通の攻撃は魔女にとっては目を開けるレベルですらない、ってことか。
「パワータイプの人じゃない限り、あれはスキルを使用しないと通らないかもしれないな。ハードスキンのように防御力を高めたわけじゃないから破岩もダメかもしれない。」
ミランさんも「ここまでとは」と驚いてる。
逆サイドには村長たちが居るが、彼らも驚きの顔をしている。
「『抱いてやる』だっけ?その貧弱な攻撃でボクを満足させられるつもりだったの?」
普段の有紀らしからぬ挑発的な言い方だな。
でも確か俺もここまで怒ってる有紀は初めて見たかも。俺が怒らせるときは有紀は頬を膨らませて拗ねるような怒り方ばかりだったからなあ。