VSミラン
その後俺はアーツについても教えてもらうことが出来た。
ルカさんの使うパワースラッシュは比較的簡単に習得できるようで、斬撃に魔力を込めるだけで良いらしい。
これはどの姿勢や構えでも発動できる初級アーツなので威力も普通に打ち込むより若干高いって感じ。
それでもこの若干もルカさんのように連続で放たれるとミランさんは防戦一方になるぐらいの脅威になるわけだね。
早速使ってみる。上段に構えて振り下ろす瞬間に魔力を込める。
ブン!とショートソードを振る音がする・・・確かに普段より勢いがついてるけど、やっぱり何もエフェクトがないな。
「さて、修司君。君はランク2だったと思うけど、正直ランク2なりたてとは思えない動きだね。どうだろう?少し手合わせしてみないか?」
ミランさんの誘いだ。ミランさんはランク3相当だがバーサク・ルカさんには押されても素のルカさんを捕縛したらしい。
普通に俺よりも強い、けど良い経験になりそうだ。
「お願いします。」
有紀がちょっと心配そうにする。お前はママか!
ミランさんと俺はスピードは同じくらいか。
リーチは武器のある俺のほうが上、篭手を装備して徒手空拳のスタイルだ。
「ふっ」
俺の一発目はアーツは用いず普通の斬撃、二発目も。
一発目を交わして二発目を篭手で抑える。
「普通の攻撃じゃあ、この篭手だけで抑えられるのさ、修司君。こちらからも行くぞ!」
ミランさんが篭手で剣を弾いてその衝撃で俺がよろめいたところを中段横蹴りを繰り出す。
俺もそれをバックラーで抑えるが、その鋭さに衝撃を抑えきれず2~3メートルほど吹き飛ぶ。なにこれ。
学校の球技大会でラグビー部のヤツからタックル食らったことあるけど、そのときの衝撃と同じくらいあるぞ。
「修司君、今のは体術のアーツさ。『滝割』という。熟練の者滝を蹴り上げるとその滝を割ったという言い伝えから名づけられている。私はまだまだだが、好きなアーツの一つさ。」
解説を終えると同時に更にミランさんが迫る。
力は向こうのほうが上。ただミサンガの能力を使えばその差はもう少し埋まるか。
(ブラスト!)
俺のブラストはミランさんを狙う。ゴン!とミランさんの胴に当たった。
いや、当たったはずだった。ぎりぎりで回避された。
「ええ?避けられるの!?」
エフェクトないじゃん!なんでだ?
俺の慌てた様子をミランさんが解説してくれる。
「?ああ・・・、修司君。魔術は確かに場所指定だけど、直前に魔力が集まるからそれを感知さえすれば中心部の回避は可能だよ。」
「魔術の使い手は殆ど居ないからあまり知られていないようだけどね。」とミランさん。
なるほど、確かに魔術はマイナーな部類だし、魔術を目にする人は少ない。
ミランさんはその実力よりも知識量が多い。
有紀の場合戦闘知識は少ないんだ。ミストやブラインドを利用して敵との戦闘を避けるタイプだったみたいだし、そもそも魔女の場合は相手の弱点だとか攻略のコツを考慮することは殆どなかったんだろうな。
彼女の戦闘スタイルよりはミランさんのほうが俺向けだと思う。
今度はミランさんの正拳突きを避ける、というか避けたつもりだったがわずかなフェイントのせいで避ける方向を誘導されていたようだ。
右の正拳突きの回避で外側に避けた所をまたしても蹴りが飛んでくる。また、滝割か?
アヴォイドを利用して今度はミランさんの懐へ回避する。
よし!
俺のショートソードならこの間合いなら避けきれないはず。
下から切り上げるようにパワースラッシュを放つ!
ミランさんはレザー装備だから最悪ずばっといっちゃうかもしれないけど有紀が即回復させてくれるはず。
あれ?そういう話だったよね?
一度放ったアーツは途中で止まらないようでそのまま切り上げていく・・・が。
「惜しかったな。」
ミランさんに当たった!が・・・レザージャケットで剣撃が止まった。そうか、ハードスキンか。
ミサンガの持つ特殊能力で筋力上げて使ったのに止められたのは要するにミランさんのハードスキンの熟練度が高いってことだ。
ウンター気味に掌底が飛んでくる。
「うお!?」
俺もハードスキンを使って凌ぐ!つもりが思いっきり吹っ飛ばされた。
「む、君のハードスキンの熟練度も高いな。」
「何言ってるんですか?俺吹っ飛びましたよ。」
「いや、さっき使ったのはアーツ『破岩』さ。相手の防御が固いほどダメージが通りやすくなる、ダンジョンでもゴーレム系にはよく使う。名前から由来は・・・わかりそうだね。」
なるほど、俺が防御すると分かっていたからこの技を選択したってことか。
俺だってこのまま一方的になるつもりはないな。
「俺も行きますよ!」
吹き飛ばされた距離をダッシュしながらブラインド発動。
「む!?」とミランさんが一瞬動きに混乱を生じさせる。一瞬だけ、でも十分。
俺は上段から剣を振り下ろす。パワースラッシュをもう一度打ち込むつもりだ。
ミランさんは見えなくても方向が分かったんだろう。的確に頭上へ両手をクロスさせ受ける準備をする。
技は一度発動させると止まらない。最初に剣を振ったときに直ぐ気づいたけどね。
ここまでは俺の作戦通り。
(バインド!)
俺は技を繰り出しつつ魔術を使用する。魔法や技は頭で構築せずに体で使用する。だから魔術と同時に使用できる。
これは、ミランさんに対するアドバンテージだな。
バインド出現地点をミランさんは感知したんだろう、足元に出来た魔力を警戒し半歩下がる。
バインドにより地面からツルが生じるが、対象はミランさんじゃなくて俺だ。
俺の足をバインドにより強引に滑らせて姿勢をずらす。
上から下ろすはずだった剣は俺が足を滑らせた形になったので軌道が変わり、横に振る形になった。
そしてパワースラッシュの発動は途中で止まらない。
そのまま右から左へ、剣が軌道を描き、太ももを切りつける。
予想よりもミランさんが後退したことで本来腹部を狙ったものがズレて足になってしまった。
まあ腹部のほうが致命的だし、予想通りじゃなくてかえって安心だけども。
「うお・・っく、やるな、修司君。」
ハードスキンは使用していたようだが、魔術と違って魔法としてのハードスキンは全体に均一に効果がるわけじゃなくて、ムラがある。
魔力が続く限り効果はあるとは言え、意識により魔法効果が揺らぐ、これは魔法として習得して直ぐに理解した。
長時間使えるメリットはあるけど常に全部100%の効果というわけじゃなくて、一部50%ぐらいになったりする。恐らく「魔力の消費を抑える」ための無意識なセーブなんだと思うけど・・・。
今回ミランさんは篭手に意識が向いていたため脚部への効果が落ちており、効果を100%に戻していなかったためにダメージが通った、ということだ。
ただ切ったとはいえ血が出るような切れ方ではない。
「工夫したのに全然浅いじゃないですか。」
せっかくの作戦でダメージ通らないのはなあ。
「いやいや、すばらしいよ。君は自分の持つ能力を把握して、その特性を生かして作戦を組み立ててるね。修司君、君は良い冒険者になれるよ。」
ミランさんが褒めてくれる。女の子に褒められるようなくすぐったさはないけど、目上に褒められて嫌な気分にはならない。
「よし、私はまだいけるよ。修司君はどうかな?」
「俺もまだいけますよ!」
俺達二人は更に10分ほど手合わせを続け、最終的に俺がギブアップと言う形で終わったのだった。