ガマー村への移動6
2日目の旅程は何もなく終わった。
野営の場所も周辺にはモンスター含め怪しいものはない、と龍眼で調べ済みだ。
なんかこう、もっとごちゃごちゃするんかと思ってたけど普通だな。
「毎回トラブルあるほうがおかしいと思うよ。」と有紀。そりゃそうか。
それよりも有紀から聞いているが、恐らくジャックさんは昨日の夜起きてただろうとのこと。
多分ずっとこの関係、分かってたんだろうな。
夜も深まり、俺達は寝ることになる。
今回は俺も冒険者らしい硬い地面で寝る・・・というか寝た振りをするつもりだけど120%寝る自信があるので今回は有紀と密着する形で寝る。
「いや!眠れねーよ!」
一人ツッコミしてしまった。
有紀だって嫌でしょ?って思ったら「いや、セクハラしなきゃいいよ?別に。」とか。
あれか?宿生活で慣れちゃったの?
「・・・うん・・・」
ふぁ!?まじで?反発する流れじゃないのここ、凄い素直なんだけど。
「いや、手を出して良いって意味じゃないよ!?でも宿では何もしてこなかったからさ、修司はムッツリスケベだけど筋通すヤツなのはボクが体変わっても変わらなかったから、いいよ。」
なんかドキっとするこというね。
でも分かった、その信用に応えるのは俺の仕事だな。
人間こういう環境でドキドキしても、眠れるんだなと思ったのは10分後だった。
「ん、修司・・・、修司。」
あれ?普通に寝てた・・・。有紀に起こされるまでの記憶がないぞ。
「またあの二人動いたけど、それだけじゃないんだ。」
ん?またギシアンしに行ったの?って・・・いやジャックさんも居ねえ。
「ジャックさんも加わって3人でギシアン?」
「バッカ!そんな分けないでしょう?運転手の二人も一緒に行っちゃったんだよ、ジャックさんと。」
ええ・・・5P?って行ったら流石に叩かれた。止めとこう。
「うーん、でもどうする?追いかける?」
「そう言われるとボクも言葉に詰まるね。修羅場を見て心臓痛くなるのも・・・。とりあえず誰も居ないと焚き火消えちゃうし、火の番でもしてよっか・・・。」
10分ほどして、5人が戻ってきた。
ルカさんだけ捕縛されてるけど。
「すみません。お二人とも。少しこの場で尋問させていただきますので。」
オジさん運転手が言う。俺達は「どうぞ」としか言えなかった。断れなくない?これ・・・
「お二人にも伝えておきますと、私達二人はジャックさんの専属運転手としてガマー村に雇われています。当然私達の仕事は運転が中心ですが他にもここに居るルカさんとレイヤさんの監視も含まれています。」
お姉さん運転手が険しい目でルカさんを見ながら正体を教えてくれた。
怖っ。
要するに前々からこの二人は怪しくて村としても監視対象だったわけだ。
村が自分達のシステムを維持するためには子孫を増やすというのが重要になってくるため、商人や職人・・・要するに使い捨てられることがない男に対して掟という名の下に女との結婚を強制していくらしい。確かに冒険者と結婚しても稼ぎは不安定だし、ある日突然男が死んだら子育てどころじゃないしな。
それを避けるため・・・言い換えれば健全な育児のためにも「安定した経済力」を持つ男との結婚が勧められるわけだね。
「ジャックさんは今はアルカ村を専門にして商売していますが、将来は実家がやっているベタの街や王都との商売を継ぐことになります。村でも裕福な家系ですから、レイヤさんのご両親は大変喜んでいたのですが・・・。だからこそ今回のことは大事になると思います。」
お姉さんは更にレイヤさんも睨む。レイヤさんの綺麗な顔におびえが見える。
やっぱ怖っ。
「ジャック、俺は悪いと思ってるけど!それでも自分の気持ちに蓋をできねえ。レイヤが好きなんだよ。」
ルカさんが気持ちをぶつけてくる。
「もちろん、お前がレイヤのこと村のルールだからって結婚する訳じゃないのも分かってる・・・。」
ジャックさんは大人しく話を聞いてそれからレイヤさんに声をかける。
「私も知っているよ。成人を迎えた15歳に私とレイヤの婚約が決定されたけど、その前からルカがレイヤを気にしていたのを。で、レイヤ・・・君はどういう気持ちなんだい?」
「私はどちらも好きよ。ジャックは誠実な男だし、ルカは私に自由を教えてくれた。・・・でも決められたルールに背く真似をした今となっては、ジャック・・・貴方の側に居る資格は私にはないと思う。」
「いや、レイヤそうじゃない、資格とかそういう話ではないんだよ。取り繕うのは止めてほしい。誰と居たいのか、君の心が知りたいんだよ。」
ジャックさんは淡々と話す。商人はこういうプレッシャーのある場面では弱みを見せないということだろう。すげえなって思う。
「私は・・・。」
美人が可愛そうになるぐらい顔青くしてるこの場面はなんか気まずいな。
火を見てごまかそう、と考えていたら有紀が話を切り出した。
「ちょっとだけ、いいかな?」
「え?あ、はい有紀さんどうしました?」
急に話しかけられてジャックさんのポーカーフェイスが少し崩れた。
「うん、レイアさんに聞きたいことがあって。出来れば・・・ボクとお姉さんとレイヤさんだけにしてもらえるかな?」
ん?ん?何だ急に。
「有紀さん、それはちょっと、今重要な・・・」
「レイヤさんの気持ちでしょう?知りたいのは。でも・・・ちょっと大事な話が抜けてるんだよ。5分だけでいいから、お願い、ジャックさん。」
「う・・・本当に5分だけですからね。」
俺達は焚き火の周りに待機して5分・・・。もちろんシーンとしてて居心地は悪い。めちゃくちゃ悪い。
早く戻ってきてくれ、有紀!
その願いが叶った!って訳じゃないだろうけど有紀たちは戻ってきた。
「ただいま。ごめんね、時間貰ってしまって。」
うおおお、寂しかったぞこのやろうー!