冒険者になる
「さて、唐突なんだけども、この世界で生きるためには、修司も冒険者になる必要があるね。」
村につくなり唐突に有紀が言い出す。
冒険者・・・ファンタジーモノが好きなら必ず耳にするこの単語、まさか自分が冒険者になるとは思わなかった。
「でも、成人は15歳の世界だからね、修司は16歳だからとっくに成人しているんだよ。」
「しかし冒険者っていうとやっぱりギルドがあるわけ?」
その通り!と有紀は笑う。
そうだ、有紀は今女なんだった。意識するとドキっとしてしまう。
アルカ村、長閑な雰囲気だが広場では商店があるし、冒険者らしき人らの往来もある。
「300年とは違うんだよ、実はね。ダンジョン自体出現したのが200年近く前で、それまでは本当に何も無い村だったんだ。」
歩きながら有紀は話を続ける。
「雰囲気もぜんぜん違うけど、それでもやっぱりボクが生まれた村だから、多少特別な感情はあるよ。」
そういうものなんだろうか?俺は「いつもの日常」から離れて1日目だし、生まれ育った場所に対する愛着っていうのはちょっと分からない。
いつか分かるんだろうな・・・
「冒険者っていうのは、ダンジョンに挑むだけじゃなくて、いろんな仕事を請け負う人を言うんだよ。戦争へ参加する傭兵依頼もあって、傭兵をメインとする冒険者もいる。ダンジョンのほうが依頼は多いけど、対人戦闘のほうが報酬は良いんだよ。」
冒険者ギルドにつくまで有紀の説明を受ける。
「ボクたちはダンジョンメインに動く冒険者となって、まずはこの村から・・・行く行くは王都に向かっていこうと思う」
「王都?」
「そう、王都『ブリンク』。社会情勢が変わってなければ今も王都はそこにある。」
「でも何故王都に行く?俺たちが生活するだけなら手ごろな町でも十分じゃないのか?」
特に目的もないんだし、人の多い場所を目指す意味はあんまりないんじゃないか?
それはね、と有紀が身を乗り出す。
もともと身長は俺のほうが高かったけど、今はさらにその身長差が広がってるせいで有紀が見上げる形になる。
う・・・可愛い・・・!っていうか!胸、あたってる、あたりそう!
女子に耐性が無かった俺は近づかれすぎてドキドキが止まらない。
顔、赤くなってない?
そんな俺の気も知らず有紀は話を続ける。
「最初に言ったけど、この世界へ召喚したのは女神じゃないと不可能なのさ。そして召喚されたら女神の元に行くわけだけど、その後王都に転送されるんだよ。」
「つまり、王都に行けばクラスメイトにも会えるわけだな。」
「そう!そして女神・・・あるいは女神達・・・かな、恐らく複数の女神による召喚だと推測しているから・・・、彼女達の召喚の目的さえクリアすれば元の世界に戻る機会も得られるはずだよ。」
元に戻る!そうか、1日目にしてすっかり忘れてたけど、元の世界に戻ることを考えなければいけないんだった。
ゲームだってそうだ、召喚された主人公はクリア後は大体元の世界に戻ってくる。
戻るための鍵が王都にある、というより戻る手段を得るためには王都にいるクラスメイトに合流する必要があるということだ。
「じゃあすぐ王都行くべきじゃないの?俺達ここでゆっくりしてるわけにも行かないだろ」
「クラスの人たちだって素人だよ?いきなり女神が頭を悩ませて召喚までするような案件をクリアなんて出来る実力はないんだ。だから彼らもじっくりこの世界で生きる術を得てから動くはずだから、時間はまだあるよ」
冒険者ギルド内・・・、なんか思ってたのと違うな。
もっとゴロツキみたいなのが多くいるのかな?と思ったけど、これは何と言うか市役所・・・だっけか、社会見学で昔行った事があるけど、そこで感じた雰囲気と同じだ。
受付のお姉さんは営業スマイルで対応しているし、初心者冒険者は暴れることもなく説明されるままに動く。
効率的だな・・・
「さ、こっちだよ」と有紀に手を引かれる。
あ、柔らかい・・・
もちろん悟られないように振舞う、いや、バレてるのかな、わからないや。
冒険者登録の窓口に行く。ここは依頼受付から離れているせいであんまり人が来ないのか、暇そうなお姉さんが居るだけだった。
「冒険者登録ですか?」
淡々と進む作業。
そういえば文字書けないんだけど・・・って思ったら、普通に日本語だった。
ご都合主義か!
「ちゃんと転送時にボクらの使用している言葉が変換されるようになってるんだよ」
有紀が教えてくれる。やっぱりご都合主義じゃん。
驚くほど、流れ作業で書類を作成していく。
そして最後に「冒険者カード」と言われるものに自分の血を垂らす。
「はい、出来ました、これで佐野修司さんも冒険者です。頑張ってくださいね。」
営業スマイルとともにカードを渡される。
うーん、なんていうか、こんなものなのかな?
渡された冒険者カードを見ると、自分の名前やランク、ステータスが記載されている。
今後はこれが身分証明になるんだろうな。
ちなみにカードにはランク1とある。
受付の反応からしてこのランク1は初心者用のランクだし、ステータスも平凡なのかも。
何のために呼ばれたんだろうね、俺は。
「修司、本来なら・・・女神の加護を受けて結構上位のステータスになるはずだったんだけど、ごめんね?」
横からステータスを覗いた有紀が申し訳なさそうにする。
「別に良いよ。これが普通のステータスならこっから上がっていくだろ?ゲームとかだとレベル上がってステータスがあがって・・・て感じだしさ。」
「そうだね、ステータスはあがっていくから、その辺はボクが手取り足取り教えてあげるよ。」
そういいながら有紀は何も無い空間から冒険者カードを取り出す。
有紀のカードだ。
「ランクは1から始まって、最大がランク10なんだけど、ボクはなんとランク0なんだよ。」
ランク0って、1より下じゃん・・・
そういう目をしてたのが分かったんだろう、有紀は言葉を続ける。
「ランク0って言うのは『特殊』な人に対して与えられるランクなんだよ。ボクは『魔女』だから普通の枠に収まらないからランク0に該当するね。」
要するにチーターってことか。
「ああ、チーターっていうのが分かりやすいね。魔女は女神と同質の力を持っているからぶっちゃけ同じランク0を相手にしない限りは無敵なんだよ。だからね、修司の安全は保障する、安心してほしい。」
キリっとしてこんなこと言われたら・・・俺が女だったら惚れちゃうね。惚れちゃわない?
俺は冒険者となった。
この可愛い魔女と一緒にダンジョン生活、ドキドキするなー!
と思いながら有紀を見る。
ちょうど有紀は腕を上に伸ばして「うーん」とかやってる。
脇が見える、エッロ!
とか思ってたら視線に気づかれて、ムっとされた。
「だから見るならチラっと見てよ、じっくり見られるのは恥ずかしいんだよ・・・!」
あ、見るのはいいんだ。