ガマー村への移動2
バスが山の麓まで到着した頃には日も沈みだいぶ時間が経過していた。
麓・・・アルカ村領の境界付近はバス2~3を停められるよう整備されたスペースがあった。
今日はここで一泊する。
「ボクこの方向に行くバス初めて乗ったんだけど、確かに林から出たときに広がる光景は感動したよ。」
有紀がご機嫌だ。
彼女はこの土地には少なからず愛着はあるし、自分の好きな地にまだこんな光景があったんだ、と嬉しく思ってるのかもしれない。推測だけど俺が同じ立場ならそういう気持ちになるからそう思うことにした。
日本でも見られる景色だとは思うけど、俺は地元を殆ど出てないし修学旅行も新幹線で寝てたし、まともに「野原が広がる景色」を見たのは物心ついてから初めてだった。
「異世界とかそういうのは別にして、俺は最近のダンジョン生活で緩んでた気持ちがまた引き締まったよ。新しい日常が始まるってね。」
新しい日常が始まって楽しみな反面、今後どう生きていくのか・・・とかまだまだ不安はあるけど、そういった感情はダンジョン生活の中で徐々に薄れてきたけど、その気持ちがまた沸いてくるっていうのは旅の良さなのかも。
焚き火を囲って食事を取る。
ダンジョンとは違って夜は冷えるようだけど、焚き火と暖かいスープで体を温める。
スープを半分ほど飲んだらあとはパンを浸して食べるとまた美味い。
「地上で取れた野菜を入れてますが、ダンジョン産と比べても遜色ないでしょう?」
オジさん運転手が言う。彼が作ったもので大雑把な具の切り方と味付けの仕方だったのに、普通に美味い。
というより寒いからこそワザと少し濃い目の味付けにしたのかな。
後半はお姉さんが運転してたので、夜の炊事はオジさんの役目らしい。もちろん料理準備は冒険者の俺達も手を貸すけど、「このくらいの少人数なら慣れてますよ」と料理そのものは一人でやってしまった。
そういえば・・・とレイヤさん。
「有紀さん達はアルカ村の出身なのかしら?」
そうか、自己紹介ではその辺省いてたな。
「ボクはそうだね。アルカ村出身だよ。」
有紀は嘘を言っていない。魔女で、かつ俺達の世界に転生したことを伝えていないだけで。
クレスさんのケースと違うのは、彼女らは龍眼の魔女の姿を知らないって点だ。
100年間この世界に居なかったんだし知らないのは当然なんだけど、わざわざ教えるほどではない、というのが有紀の考えなんだろう。
「俺は別の世界から召喚されたんです。本来なら女神様の元に召喚されるらしいのですが、なぜかここに・・・。」
これは完全な事実だ。異世界からの召喚は以前より行われている事なので別に公開しても差し支えはないというか、むしろ他に召喚された人・・・要するにクラスメイトの情報を入手しておく為にはこれは伝えておくべき情報だ。
この辺りは有紀と事前に取り決めてたことなんだが、俺がこの世界に召喚されて有紀と共に冒険するという流れで行くことにしている。
「そうか、修司君は召喚されたのか。道理で顔つきがこの辺りの人とは違うと思ったんだよな。」
ルカさんが言う。
確かにアルカ村やガマー村、王国南部に所属する村々は肌の色が白い。有紀もだし、ルカさんたちもだ。比較すると俺のほうが少し肌が濃い。
俺の常識だと南のほうが肌が濃くなる印象だったがそういうわけではないようだ。
「この辺りは温和な気候だからね。森もあって環境的にエルフの住む地域と類似してるから、エルフに近い肌質になると言われているよ。」
有紀の解説してくれた。エルフ肌っていうとそういえばクレスさんも肌が白かったな。
「そう、私もそう聞いているわ。修司さんはユルース王国のほうに多い肌かしらね。」
ユルース王国、この王国の海を挟んで東側に位置する国だ。
なんとなく日本ってイメージしちゃうよな。
「ま、俺達も旅をしたことがないから、詳しいことはしらないけどな。」
ルカが笑いながら言う。
この世界は色んな種族がいるし、やっぱり外見による差別意識はないんだろうな。
珍しいとかそういう目はあるのかもしれないが。
片付けも終わり、運転手の二人は既に運転席側のスペースで睡眠をとり始めた。
体力は兎も角、魔力の回復をしなきゃいけないってことで会話もそこそこに休みに向かった。
俺も満腹感から眠気が出てきてて、欠伸が止まらなくなってきた。
「修司、ボクらも今日は早めに休もう。明日の日中はボクらが何かのときの為に動けるようにしておかないといけないからね。」
「そうしておくよ。疲れがずっと残るのも困るし。」
俺達の休むスペースはバスの外になる。
バス内部は荷物が半分以上占領しているため人が何人も寝転がるだけの余裕がない。雨の日は流石にバスの中で寝るしかないんだろうけども。
「修司、ボクの冒険用お休みセットを貸してあげる。」
あ、例の枕か!あれはすごくふわふわして気持ちが良かったな。
有紀が空間から枕を取り出す。ついでに枕と同じくふわふわしてそうなクッションも。
「このクッションは手足は出ちゃうけどね。お尻と背中は硬い地面から守ってくれるよ。」
「お、すげえな。じゃ・・・ちょっと使わせてもらうわ。」
クッションに座るとふかっとした感触がする。
ああこれあれだ!人間をダメにするクッションみたいな感触だ!
「うわああああ」
つい声に出る。有紀たちに笑われてしまった。
更に枕に頭をつけると、手足以外は全部ふっかりとした感触に包まれる。
「これはヤバイ、すげえ気持ち良い。」
「有紀さん面白いもの持ってますね。売ってるのを見たことないですが、自作ですか?」
ジャックさんが興味を持ったようだ。さすが商人。
「これは昔の貰い物だよ。父が冒険者だったもので。」
「なるほど、他から入手して来たわけですね。これは気持ちが良さそうだ。」
あ、これは嘘だ。この枕もクッションも素材がアルカ村周辺では得られないものを使用しているので、自作という訳にも行かないし、貰い物と言うことにしておくつもりだな。
あーでも、これは本当に良い。
「ほら、修司。これだけじゃお腹冷えちゃうよ。」
更に有紀は毛布を取り出してかけてくれる。何だこれ、赤ちゃんになった気分になる・・・。
普段なら恥ずかしいけどこのふんわり感に包まれた俺は何の抵抗もなく受け入れる。
「母さん・・・」
とかつい口にでた。いや、親にこんなことしてもらったのは小さい頃しかないんだけどね!
「修司、ボクは君のママじゃないんだけど!」
怒られた。
ごめんごめん、って言おうとしたけど意識が遠のいて言葉が出せなかった。




