ガマー村への移動
バスが出発する。
運転席には水晶のようなものが置かれており、そこから魔力を流して操作するみたいだ。
音や振動はない静かな動きで進むが、とても早い!という訳でもない。時速は30キロぐらいかな。
それでも普通に歩くよりも早いし何よりも楽なのがありがたい。
「修司君、野営のときは夜も誰かが起きて番をしなきゃいけないのだが、俺やレイヤはこの道程に慣れてるから、夜の番は俺達二人がやるよ。君らは日中・・・要するにこのバスが動いてる間の番を頼む。」
「分かりました。」
と言っても、日中っていうと殆どやることはないらしい。ルカさんは気を利かせてくれたようだ。
「私達はこの移動中に寝ておくことにするわ。」
二人は布団に包まり寝る準備を始める。
初日は昼出発でアルカ村領内を出る手前で泊まり、2日目は朝日が昇る前に出発しガマー村領を入ったところで泊まる。そして3日目も朝日が昇る前に出発すると昼にはガマー村に着く。
ジャックさんが教えてくれる。なるほどね、お互いの領内で泊まるほうが安全性は確保できてるわけだ。
「それでも絶対安全ではないですから、冒険者の護衛は必須ですよ。特にガマー村にもクランはあるのですが、ラッキーリップスに比べると規模は小さいんです。」
ルカさんとレイヤさんはまだ完全に寝てるわけじゃないけど寝ようとしてるところなので彼らの邪魔にならない程度にジャックさんと会話をする。
「そちらにもクランがあるんですね。」
「もうちょっと規模の大きい町なら兵士も居て治安維持を行ってくれるでしょうけども、村には兵を寄越す余裕なんてないですから、クランと手を結んで安全保障を行います。・・・とは言え、ガマー村は『自分の村の冒険者』だけで設立するクランなんですけどね。」
クランの設立は誰でも出来るわけじゃない、そんなことをすれば乱立してしまうからだ。
高ランクの冒険者による申請とギルドの審査を経て許可されるパターンが多いが、例外はある・・・と有紀が教えてくれた。
「ガマー村のように自身の村の冒険者のみでクランを設立する場合は『他所の冒険者の加入は認めない』という条件がつくけどランク関係なしに設立の許可が下りることはあるよ。」
「有紀さんは詳しいですね。その通りです。もちろん村を拠点とするクランがあるならそれも良かったと思います。まあ、シグル村みたいにクランに支配されるところもありますが、それでも人が居なくなって廃村するよりはずっと良いですからね。」
シグル村・・・恐らく俺達が避けたルート上の村か。結構エグいこともしてるようだが、一般的な認識としては「村がなくなるなるより良い」ということで村人に対する悪徳行為が見逃されてるんだな。
まあ仕方ないね、中途半端な正義を持っても力が無ければどうにもならないし、その後も面倒見るだけの覚悟は必要だと思うし。
「ただですね、シグル村にあるクランはラッキーリップスに次ぐ勢力なので周辺の村にはクランが拠点として使いたがらないんですよ。規模が大きいところに人を取られてしまいますし、向こうのほうが冒険者にはいろんな意味で『美味しい』クランですから、男的には移籍してしまうでしょうね。」
男的に、ってことは売春とかだよな。俺には刺激強いので躊躇うけど、そうじゃない人にとっては美味しいんだろう。
とにかくガマー村には外から拠点としてくれるクランは無かったために自分達で設立することになったという経緯があるようだ。『ガマー・ガード』という普通の名前で、ルカ・レイヤはそのクラン員らしい。
「村を守る目的のクランなので、こういう単純なクラン名をつけます。名前だけで用途も理解できますし、これなら外部から興味をもたれることもありませんしね。」
ジャックさんが色々教えてくれる。
有紀はシステムは理解できても現在の情勢は疎いので、俺達二人にとっては貴重な情報だ。
1日目は丘・・・少し高い山って感じかな?1つ越えて2つ目の山の手前までらしい。
2個目の山は少し険しいようで、2日目は1日かけて越えるとのことだ。
山を迂回しようとするともっと時間かかることから山越えルートになっているんだとか。
「1個目の山越えたし、順調だね。」
有紀が外を見ながらのんびりとした口調で話す。
窓から見える景色は確かにほっとする。道の両サイドは林が広がっていて奥には大きな山が見えるけど、その手前は見晴らしの良い草原がある。緑が広がっているっていいな。
「草原を越えた先の山の麓が今日のゴールかな。」
「修司さんはこの景色初めてですか?私は何度も通っている景色ですけど、それでも林を抜けて草原がバっと広がる瞬間はすごい気持ちが良いですよ。」
「へぇ、楽しみですね。」
ジャックさんも窓を見てたみたいだ。
ところで、と前置きをして・・・
「ジャックさん達は幼馴染なんですよね。」
「そうです。昔からガマー村で3人で一緒で過ごしていましたよ。まあ、私は商人の家系でしたから、こうやって商人になることが決まっていましたが、ルカは『なら俺達が冒険者になって護衛してやるよ!』って
冒険者になってくれたんです。クランマスターに私の護衛専属にしてくれと掛け合ってくれてましてね。3人で動けるんだって知ったときは嬉しかったな・・・。」
「カッコいいですね、ルカさん。」
「そう、彼はいつもカッコいいんですよ。私はこうやって買い付けるしか能がない・・・。」
「そんなことないよ、ジャックさん。」
有紀がシャベッタァァ!いや、喋るか。
「商人は村の生命線ですよ。新しいことを挑む商人も多いけど、村に求められるのは堅実にコツコツこなす商人だし、ジャックさんはそれが出来ている。自信持つべきでしょう。」
そう、俺もそう思う。代わりは誰でも居る、という台詞を俺の世界では聞くけど、そんなことはない。
「その仕事」をするだけなら確かに誰でも出来るだろうけど、それを堅実に弱音を吐かずにこなし続ける人はどれだけいる?
「はは、ありがとうございます、有紀さん。」
ジャックさんも笑顔で応えるけど、まだ少し何かあるような顔だな。
有紀をチラっとみると、彼女も気づいてるようだ。