ランクアップ
冒険者ギルド、3層の出張所の中の冒険者が疎らなのは大半がすでにギルドの依頼を受注して出発しているからだろう。ダンジョン内は昼夜の判別がつかないせいもあり、外からの輸送に合わせて1日が始まる。
「もうこんな時間なんだな。寝すぎた?」
「ううん、そんなことはないというか、今日は依頼受けないからゆっくりしようね。」
んー・・・でもそろそろ金が尽きるけど、大丈夫かな?
ギルドのカウンターでお姉さんに話しかけると向こうも営業スマイルで応えてくれる。この辺りはなんていうかマニュアル化されてるのかな?って気がする。いや、違うか。冒険者は死ぬ可能性が高いから心を開かないようにしてるのかもしれない。
「5層の依頼終わらせてきました。」
薬草を渡す。少しお姉さんの表情が変わる、あくまで一瞬だけどね。
薬草は俺が気絶している間に有紀が取ってきたものだけど、パーティーだし、問題はないよね。
「確かに規定の量を採集されていますね。それではこちらが報酬です。お確かめください。」
と、差し出されたのは5万コム。
「うお、多いな!」
つい声に出してしまった。
「僕らが受注するときの報酬は一部返しているんですよ。そうして初心者さんがクリアできたときに依頼料に上乗せするようにギルドに頼んであるんです。」
「クレスさん・・・ありがとうございます。」
どこまで良い人なんだ・・・。というよりもクランが設立当初から「初心者支援」を目的にしていて、それがブレずに今に至るというのは凄いと思う。ブレないというのはマスターのクレスさんの芯がしっかりしてることの証拠だろう。
遠慮はしない。俺達は少しギリギリの状況だったし、ありがたく報酬を頂く。5万コムあれば少なくとも今日はゆっくり出来るな。
「さて、修司さん。僕はここに用事があってここに来ましたが、実は修司さんにも関係しています。今日は地上のギルドのギルドマスターがこちらに顔を出す日でして、僕は彼に冒険者の様子を報告するんです。5層のボスモンスターを倒した報告をしますから、一緒に来て下さい。もちろん魔女様も。」
ギルドマスター?そういえば全然会ったことがなかった。もしかして挨拶してなかったのヤバい?
「大丈夫だよ、修司。辺境の冒険者ギルドのマスターに何かを決める権限はないし、彼も新人を全員見ることはできないでしょ?挨拶しにいっても覚えてもらえなかったと思うよ。」
応接間にて・・・
「私がこのアルカ村のギルドマスターです。修司君かな?クレスが連れてきたということは『初見殺し』を倒せた、ということになるけど、そういうことかな?」
いきなり初老の男の人に話しかけられた・・・緊張する。
俺は「はい」と答える。その後もギルドマスターの質問をして俺が答えるという形で会話が続く。
唐突にギルドマスターが有紀を見る。
「龍眼の魔女だね。修司君の冒険者登録のときに受け付けが報告しに来ていたよ。君は・・・ああ、本来ははるかに年配だから敬語のほうが良いのだろうけど、教養がないもので、許してほしい。」
急に話を振られてキョドる有紀。まあいつものことだな。
「は、いや、別に大丈夫です、はい。ん・・・えっと・・・ボクが彼を手伝ったのではないか?ということを聞こうとしてるのだと思うけども。答えは『ノー』だよ。」
「ええ、僕も修司さんが単独で倒したことを保障します。もちろん魔女様には恩がありますから、贔屓しているのではないか?と言われるかもしれませんが、これでも公平な立会いをずっと続けてきたつもりです。」
なるほど、俺が単独で倒せたことを報告・証明するためにクレスさんの立会いがあったのか。
「なるほど、まあ今更クレスを疑う気はないよ。よし、分かった。修司君、君の冒険者ランクを2に上げよう。」
あ、この流れは正直予想できてた。ランク一気に上げると言われなかったのは要するに俺が別にチートクラスの能力ではないってことだ、過去にもソロクリアは居たみたいだし、平均よりちょい上か?
「ありがとうございます。」
俺の冒険者カードをギルドマスターに渡すと、彼はランクが記入されてる欄を指でぐりぐりと擦り・・・、俺に返してきた。見てみると、ランク1だった俺のカード表記が2になっていた。
ぐりぐりしただけでいけるんか・・・、やっぱりなんかこう、魔法的なエフェクトほしいよなあ。
「よし、これでランク2になったし、初心者ダンジョンはクリア扱いだ。もちろん残っても良いけどな。クレスも残ってほしいんじゃないか?」
「いやいや、残ってほしい・・・とは考えていません。むしろまだまだ力を伸ばす時期でしょうから、どんどん世界に出て欲しいですよ。まあ、クランに所属して欲しいとは思いますけどね。」
「おめでとう、修司。クレスさん、ごめんだけど・・・ボクたちはクラン所属しないでやっていこうと思うよ。」
「分かってますよ、魔女様。二人とも王都に行かないと行けませんしね。」
「ん?君達は王都に行くのか?」
ギルドマスターはその辺の話は初耳だったようだ。
「だとすると、どうするかな。オードソックスなのはベタの町を経由するルートなんだが、実はその街道は途中の村が問題でね。いや、冒険者は何も被害ないんだけどな、村がクランに支配されているんだ。光景的にな、胸糞悪くなるかもしれない。」
支配される、というのはアルカ村とは違う形でクランが関与してるのかな。
ここはダンジョンの安全を守るという形でクランと村が手を結ぶが、ダンジョンがない村には基本的にクランは根付かない。金にならないからだ。
ところが例外がある。金になるなら根付くわけだ。例えば村人を奴隷として安くコキ使えば、商人への売買でクランは儲かる。村人は貧しいままだけど「人」という力が流出しないように加減すればこの仕組みで安定して儲けを得ることが出来る。
もちろんそれはクランとしては禁則事項の一つとギルドマスターは説明するものの「罰則がない上に、村人が苦情をギルドに言わないならギルドとしては対応も出来ない」ということだ。
「んー・・・でもボクの記憶だとそれ以外の街道で王都に行こうとするとかなり遠回りになるね。ベタの町に行くだけで1週間近いロスが発生してしまう。」
「魔女様、100年前と交通網は変わりないですよ。昔より整備されてるので若干早く到着すると思いますがそれでも1週間の遅れは見てもらって良いかと。」
時間を取るか治安を取るか・・・。
治安といってもその村には商人・冒険者が「安く商品を手に入れる」ために中継として訪れるぐらいだから、別に俺達がクランに奴隷として扱われるわけじゃないので、治安っていう表現もおかしいかもしれない。
「少し調べてみますね。」
「分かった。知りたいことは俺でも良いし、クレスでも良い。聞いてくれ。」
有紀もちょっと考えてるみたいだけど、ここで答えを出すつもりはないようだ。