有紀の留守番
<神城有紀の視点>
修司は翌日バリアントの狩猟に参加させてもらう事でランベールさんと話をつけて来たけども、どうしよう。
「どうしたんですか?有紀さん」
「ニーカ、ボク正直これから修司に明日の事を伝えないといけないんだけどね」
「ああ、うちの狩猟パーティーへの参加ですね!」
「そうそう。だけど…」
「だけど?」
「ちょっと気まずい」
山頂でボクが修司にされた事だけじゃなくて、その後ボクの方から修司にキスしてしまったから余計に気まずい。
「修司さん、気にしないんじゃないです?」
「いや、彼は気にするタイプだよ」
「ボクと修司は今まで一定のラインを超えないようにってしてたから、お互いに気まずくなってる感じかな」
「でも有紀さん日中めちゃくちゃ平然としてましたよね」
「うん、我ながら良く隠せたと思うよ。でもいざ2人きりの部屋で過ごすとなるとね…」
バリアントの拠点でボクらが借りている1室で寝泊りする訳だけど、戻ってきた直後の今後の予定を話し合ってる時はまだ平然と出来た。でも、夜を2人で過ごすにあたり、果たしてボクは日中と同じく平然とできるのだろうか。寧ろボクの方から昨日の話を蒸し返すべきなのか、そうじゃないのか…うーん。
「じゃあ、私と寝ましょうよ!」
ニーカがそう提案する。
これは単にボクに気を使っただけじゃなくて、見た目は同年代のボクと一緒に寝たいと言う気持ちもあるんだろうな…。
ただ勿論その言葉はありがたいと思う。何せ今のボクは、恐らく修司もだけど、お互いに顔を合わせても何を話せばよいのか…と悩んで余計気まずくなりそうだ。
「もしよければ、ニーカの言葉に甘えてもいいかな?」
「勿論!」
…という事で修司のもとへ行く。
「修司、ごめん。今日はニーカと寝る」
「お、おう。そうか。そ、その方が良いかもな」
修司が止めるかな?と思ったけど止めなかったのでボクはそのままニーカの所へ戻る。
別に止めてほしかった訳でもない。けど多分修司が「待て」と言ったらボクは待ったと思うし「行くな」と言われたら多分ニーカの所には戻らなかったと思う。
ただ、あの反応から、修司も上手く話したい内容まとまってなかったんじゃないかなと思う。
まあ止めて欲しかった訳じゃないから良いんだけどね。お互いに気持ちを整理するって考えたら良い機会だと思うし、別にね。
と、そんなボクを見てたニーカはボソっと「有紀さん」と声をかける。
「え?な、なに?」
「有紀さんって修司さんに『行くな』って言われたかった?」
ひえ…なんでこの子ボクの考え分かるの。怖っ。
「そそそんな事はないよ」
「有紀さん顔に出て増したよ。ちょっと不満そうな顔」
「ええ…」
顔や雰囲気に出るのは修司の専売特許だよ…と思ってたのに、なんてことだ…。ボクも分かりやすいのか…。
「なんていうか、有紀さんって修司さん絡みの時は感情が抑え切れてない感じですね」
「いやいや、そんな事は…無いと思うけど…」
「まあまあ、昨日の今日ですからねー!」
ニーカに指摘されてボクの顔が熱くなるのを自覚する。
昨日された事はニーカも見てたんだった…!ああ、穴があったら入りたい。
「さ、有紀さんこちらに」
ニーカに背中を押されて、ボクはニーカの部屋に入った。
「わあ…」
「いや、有紀さん…別に私の部屋何も驚くものないでしょう?」
そんな事は無い。
このエリアで他の冒険者や町との交流を減らして暮らす以上、質素になるのは当然だけど、その質素な中でもしっかりと色を意識してる。
床の色、壁の色に合わせて少し濃い色のカーペット、そして薄めの色の机と家具。
机の上には小さな木のブロックを組み合わせたような小物入れがあって、それがまたおしゃれ度を上げてる感じだ。
極め付けにいい匂いがする。何でこんな良い匂いが…。
「臭いですか?」
「いやいや、臭いどころか、良い匂いだよ」
ニーカも男の人と付き合い、そして結婚するだろう…。でも、彼女は今は街にも行かないし、滅多に来ない他の冒険者との交流も持たないから出会いとかどうなんだろう?
「ニーカは恋愛とか考えてたりするの?」
「え?」
ボクの質問にニーカが少し戸惑うような素振りを見せる。
なんだろう?
「どうしたの?」
「えーっと、ですね…」
恥ずかしいって言うより「何て答えようか」と悩んでる感じかな?と考えてたらニーカが口を開く。
「じゃあ有紀さん。有紀さんも修司さんの事、本音ぶちまけてくれます?」
「え!?」
今度は逆にボクが悩む番だ。
ボク自身確かにもやもやしている訳で、出来れば吐き出してすっきりしたい。
勿論やるべき事は分かっていて、修司と2人きりになったら向き合ってちゃんと話をすべきだと思うんだけどね。
でもその前にボクの心に溜まったものを吐き出したい…。修司以外に。
となると、ニーカにその役割をお願いしたいわけだから、今のニーカの問いかけに対しては「イエス」と答えるのが良いんだろうけど、これも勇気要るなあ。
「うーん」と少し悩む…。悩むけど言うべき答えは決まっているんだけどね。
「わかったよ…」
「じゃあ、私も自分の恋愛の話をしますね!恋バナですね!」
ニーカのテンションを上がる。
「あ、でもニーカ。君の話が先だからね」
「えー!…て、良いですよ」
あっさり承諾された。
「でも、有紀さん。私の話はクランの人達には内緒にしてくださいね」
「うん?分かった」
クランの人に知られると良くないって事かな?…クランで好きな人が居るとか?




