ジャンの故郷2
「コルベール伯国はアラシャク王国に依存する事で成り立っている国で、ダンジョンも1個しかなかったもんだから、王国に冒険者を派出して稼ぎを持ち帰ってもらわなきゃいけなかったわけだ」
ニーカと有紀が戻ってきて、その辺の丸太に腰掛ける。
鍋を焚き火に掛けながら「お父さんが故郷の話をするなんて珍しいですね!」とニーカ。
「まあな、修司達もアラシャクとイストの状況知りたいみたいだし、それならコルベールの状況は役立つだろうと思ってな」
「なるほど。でも後から周辺の国を見てみるとコルベール伯国はちょっと他よりもいざこざが多かったんじゃないかなと思う」
「ニーカの言う通りだな。勿論似たような状況の国も昔はもっとあったんだけどな」
「へぇ…」
「さて、まあ話を続けよう。修司、それと有紀…2人ともノンビリと聞いてくれ」
「分かりました」
「国ってのは指導者が1人だろうが多数だろうが、国民の意思もちゃんと加味される。…それが例え腐ったような指導者でも、それを受け入れる国民は一定数居る訳だ」
「はい」
それは俺の世界でも言える事だと思う。明らかに駄目な国会議員だって支持する国民が居るからこそ、あの場に居るわけだから。
「コルベール伯国は伯爵とその家系の人間も国民と同じようにダンジョンに潜り、地上で僅かな食物を栽培し…そんな生活だったんだ」
「トップと国民の距離、近いですね」
「そう、近いんだ。…だからこそ、分裂したわけだけども」
「分裂…」
「ある日帝国から伯爵の元へ訪問しに来た人物が居てな…。そいつは国の状況を見て『我が帝国の傘下になれば今の暮らしはずっと改善しますよ』と言い出した訳だ」
「私がまだお母さんに抱きかかえられてた時期だね!」
「そうだな、ニーカ。その時、何ヶ月か食事が豪華だったのは覚えてるか?」
「うーん、細かくは覚えてないけど、皆キラキラしてた気がする」
「キラキラ…、まあそうだな。あの時は国民もストレスから解放されたような顔をして、皆笑ってたからな」
グツグツ…と鍋が煮だってる。そろそろ食べ頃かな?
「あ、食事食べましょう!食べながら話でも続けたらいいでしょうし!」
「ああ、じゃあ頂こうかな」
俺や有紀はニーカがくれたスープの入った器とスプーンを受け取る。
「では頂きます」
「頂きます」
やはり美味い。
「味染みてて美味いね」
有紀もそう褒めるとニーカが「ただ鍋に入れただけですよ」と照れる。
鍋に入れただけじゃなくて色々と下ごしらえもしてたわけで、それはニーカの力だと思うけどな。
スープは多めに作ってくれてるので、これで体を温めておこう。
「もぐ…。…ふう。っし、まあ食いながらで申し訳ないけど話の続きな!」
「はい」
皆食べながら、ジャンの話が再開する。
「帝国は俺の国では何か月分にもなるような食料を援助してくれた。お陰で国民はほどほどに休息も取れていたし、大いに喜ばれたわけだけども…」
「それも帝国の罠だったわけですか」
「ああ、と言っても帝国側は前々から奴隷解放も含めて弱者の為の政策を実施していたから、俺達は罠だとは思わず受け入れてしまったわけだ」
その後は帝国の支援を受けるか、あくまでも王国に従うか…その2つの派閥で対立が起きたらしい。
帝国派はティーナの叔父が、そして王国派は父親が音頭を取ったのか取らされたのか分からないが、こうして国内が険悪な状況になりその両派によるダンジョン管理を巡って戦闘が勃発。
まあ勃発と言っても旨味のある階層を巡って上位のグループ同士が戦ってただけで、他の階層は険悪な雰囲気はあっても国としての助け合いは行われてたようだし、大規模な内戦というわけじゃなかったようだけど。
そしてその戦闘の最中、父親が亡くなり、王国派はティーナを担ごうとしたがその争いに巻き込まれたくないジャックがティーナを説得し、国内を脱出という流れだったようだ。
「アラシャク王国には助けを求めなかったんです?」
俺はちょっと疑問に思った。
「ティーナの亡命は政治カードに使われちまう可能性があるからな。幸い伯国の混乱にアラシャク側は然程興味を持たなかったから、俺達の素性がばれる前にここまで逃げて来れたんだ」
なるほどね。
というか色々発端はアラシャク側の締め付けが厳しくなった事なんじゃない?という感じもするけど、これについては「帝国を脅威として見れば自国の戦力を増強するだろ?」とある程度ジャンは理解を示していた。
「そして現在の伯国は帝国の管理下にある。まだ吸収はされていないが、ティーナの叔父が亡くなれば序所に帝国の人間を宰相にするなりして行くだろうし、いずれは吸収されるかもしれないな」
「そっか」
「まあ…ティーナの父親は伯国として立ち上げた初代が王国から援助を受けた恩義があるからと王国側に立っていたけど、帝国側についたほうが国民の生活は豊かになる…。だから叔父の方は帝国側に立ったわけだ。どちらが正しいとかは俺にはわからんが」
国民もアラシャク側には冒険者として大半が世話になってるので、王国派が結構居たようだし、まさに真っ二つに分かれた状況だったんだろうな…。
「でも、他の国はそこまで混乱してないんですよね?」
「ああ、これはコルベール伯国が他国よりも王国側から優遇されていたんだ。これは国が出来たときの初代と国王の関係によるものだが…まあ歴史は置いとこう。とにかく、他国は大きな抵抗無く帝国に吸収される中、俺達の国だけは王国に恩義を感じている国民が多かったからこういう事になってしまったわけだな」
なるほど。他の国なら「もう王国に頼るよりも帝国の方が良い」と国民が判断する可能性があっても、コルベール伯国だけはそうならない国民が多かったわけだ。
「まあだから王国派の国民もアラシャクやダース王国に逃げてきているとは思うが、真っ先に逃げた俺達はあんまり良い目で見られないだろうな…」
最後にジャンはそう言った。
色々あるんだな…と思う。正直政治とか権力だとか、そういうのは俺にはわからないし、きっとジャンも俺達には話してない部分も含めて色々考えた結果の国外脱出だろうな。




