山頂
道中の警戒役としては有紀が居るから問題なく進む事ができる。
ニーカは有紀が魔女である事を知り少し驚いていたが、別に有紀の精神年齢が高い訳でもないので、結局外見の幼い者同士で仲良く会話できてるみたいだ。…まあ有紀の体が未成熟なのかと言われると悩む所はあるけども。
ちなみに、ニーカは2本の短剣を腰に下げており、短剣による攻撃をメインとして戦うのだろうと予想できる。
有紀と雑談を楽しんでいるけど、立ち振る舞いは有紀の龍眼レーダーに頼るだけでなく、自分の感覚をしっかり広げて警戒は怠っていないのがわかる。
「修司は『叩き潰し』を倒したのか!すげえな!」
「いや、まあ有紀ともう1人魔女が居て、3人で…ですけどね」
ジャンと雑談する中で2日前に戦った『叩き潰し』の話をする。
彼は驚き称えてくれるけど、ランベール達のパーティーは既に何度か倒してるらしいし、その話を聞くと俺の1度だけの勝利が凄いと言われるだけの価値があるのかと思ってしまう。
「謙遜するなよ、俺達は5人で討伐したんだぞ。修司は3人だ。魔女の援護があろうがそれは称えられるべきだし、倒せたのはお前の力だ。誇って良い事だぞ!」
ジャンは笑いながら背中を叩く。
バン!バン!と音が鳴る位の勢いで、正直痛い。
「ま、修司は異邦人の割に女神から何も能力貰わなかったんだろう?なら討伐できたのは誰でもない修司の力だと俺は思うぞ」
ジャンはそう締めくくった。
「気合だ!」とか精神論多用するタイプだと思うけど、心の持ち方が自分の戦闘能力に影響を及ぼす事は確かにあるし、ジャンのこういう考え方は冒険者として見習うべきかも知れない。
ただ、ニーカと違ってジャンは一切周囲に対する警戒がない。
「現れたら倒せばいいだろう」という考えだからかもしれないけど、この様子だと一家で活動している時はティーナが周囲の警戒も行って、その技術をニーカに引き継がせたんだろう。
まあでも、確かにモンスターを一発で屠る拳は正直強いし、この人の場合は大抵のモンスターは警戒する必要がないのかもしれないな。
「ティーナの作った飯は何時だって美味いな!」
お昼はティーナが道中食べるようにと作ってくれたものがあり、頂く。
ジャンは開口一番美味い美味い言うんだけど、まあ自分の奥さんの作った飯だもんね、美味くない訳がないよな。
でも実際に美味く、先程の徒歩の疲れも吹き飛ぶぐらいだ。
「私も作ったんですけどね!」
はい!とパンに麺類を挟んだ料理を有紀に渡すニーカ。…あれ?俺は?
「ああ、ありがとう。ニーカ」
「へへ、どういたしまして!修司さんもどうぞ。そんなに物欲しそうな顔しなくてもちゃんと修司さんのも作ってますよ!」
「ありがとう。でもそんな物欲しそうな顔してた?」
「うん」
「してましたね」
2人は大きく頷く。
「まあでも美味そうだったから確かにそういう顔しちゃうかもな」
「あはは、そう言われると嬉しいですね」
ニーカの作った食事も頂く。
「あ、これは!」
俺はつい声を出してしまう。でも、俺が声を出さなかったら有紀が声を出していたと思う。
「え?もしかして口に合いませんでした!?」
「いや、そういうわけじゃないんだ」
形からして予想はしてたけど、まんま焼きそばパンだ!
何がびっくりって、紅生姜も散らされててソースだけじゃなくて酸味もそっくり焼きそばパンなんだよな、これ。
「なつかしいなあ。ニーカがこの料理開発したの?」
「昔住んでいた国ではこうやってパンに挟んで食べる習慣があったんですよ。今回は麺類の在庫があったのでそれを具にしてみたら…と思って作ってみました。」
要するに具に焼きそばを使ったのはニーカの閃きだけど、パンに具を挟んで食べるというのは既に存在している食べ方だったわけか。完全独自開発ではないにしてもこの焼きそばパンは良アレンジだよな。
俺は懐かしさを感じながらも手と口を動かす。
「これ、俺の居た世界でも存在しててな。俺達は昼飯で良く食べたんだ」
「へえ…!そんな偶然あるんですねえ!」
「修司の所にもそういう文化があったんだな。まあ、俺達の国の場合は昼飯に時間をかけなくて済むという理由で主流になった食事だけどな」
ジャンの話によると他にもサンドイッチもあるようだ。
確かにサンドイッチは元々忙しい人向けに作られた料理だし、発想が同じだと出来上がるものも同じになるんだろうな。
ともかく、俺はこの昼食で懐かしさと美味さと、精神的にも充実した休息が出来た。
道中に生えている草もニーカがちゃんと見つけて採集してくれる。
俺達だと「これは食えるのかな?」と悩むものでもちゃんと識別できるのが彼女の強みだ。
「こちらにあるセリは食用にできますが、向こうに生えているセリは毒を持っているので採らないでくださいね」
「そうなのか。見た目だとあんまり分からないな…」
「毒があるほうは茎が太めです。それにほら、節があるの分かります?この節があるセリは毒がある方です」
「あ、本当だ。そうやって見分けられるのか」
俺はニーカの知識に感心する。
長く拠点で生活してきたからこそ身についた知恵は偉大だな。
時々出てくる動物系モンスターを倒しつつ進む。
戦闘においてはニーカとジャンは俺が盾となって覚えたばかりのシールドチャージを使って組み合ってる間に高火力で倒しきるという流れで非常にサクサク進む。
「ニーカも冒険者に登録していたらランク結構高いんじゃない?」
「んー、どうですかねー」
「おう、俺達の娘だからな。戦いだけならランク6ぐらいあるんじゃねえか?」
ジャンは自慢げに言うけど、ニーカはキョトンとしてる。…そりゃランク何ていわれても登録してないからどのくらいの位置か分からないよな。
「中級の冒険者ぐらいの実力があるって意味だよ、ニーカ」
有紀がフォローすると、自分が言われている事を理解し彼女は赤面する。
「私なんてまだまだですよ!」
いやー…戦闘とサバイバル技術なら確実に俺より上だと思うな。
「まあ、でもな、ニーカ」
「なに?お父さん」
「すまないが、冒険者としての登録はまだ待ってくれ」
「うん…分かってるよ、お父さん…」
親子のやり取りだから、俺としてはあんまり耳を立てたくなかったけども、故郷の事と絡んでジャンはニーカを冒険者に出来ないんだろう。
「イスト帝国とアラシャク王国の状況って…どうなんですかねえ…」
俺はちょっと情報を集めるために話を切り出してみる事にした。