表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女になった親友と異世界ダンジョン攻略  作者: りょうりちょー
第2章 王都からの冒険者生活
185/229

山頂への道2

遅めの昼食としてクッキーを頬張る。


口の中がパサパサするのが難点だが、そこで暖かい紅茶を飲み潤わせる。


「ふう…」


疲労もあって糖分を含むクッキーが尚美味しく感じるな。


「さて、この後の予定なんだけど」


「うん、そうだね。修司、これを見てごらん」


有紀が地図を取り出す。


エミリーが事前の聞き取りで集めた情報を書き留めた地図で、餞別に俺達にくれたものだ。


雪風の拠点を中心として書かれた地図なので、俺達はこの地図で言うと中央から上に向かって歩いていると言う事になる。


「今、ここだね」


有紀が指差すのはアトス山で言う6合目の辺りだ。


頂上まであと1日ちょっと、という感じかな。


「そうなるね」


俺の指摘に頷く有紀。そして付け加える。


「この後休憩できるスポットに悩むね。今の移動速度だとあと4時間ぐらいで雪風の管理しているエリア外に出るでしょ?」


「ああ、このまま順調に行くと…そうなるな」


雪風の管理エリアを出ると言う事は、雪風の拠点に来る途中の小屋とか、この洞穴のようにクランメンバーによる護衛がない場所で1泊するハメになる、という事でもある。


「ボクはまだ大丈夫だけど…」


「そうだな…」


有紀はそう良いながら俺を見る。俺も有紀の言いたい事が分かるので頷きで返す。


この厳寒の中、野宿するだけの力は俺には無い。凍死する可能性が大いにあるわけだ。


勿論焚き木を絶やさなければ、後はしっかり着込めば何とかなるかもしれないけど、有紀に焚き木の管理をさせ続けなきゃいけない。それでも俺が万全に疲れを回復できる訳じゃない。


「このエリア外にはいくつのクランが拠点を構えてる?」


俺は有紀に尋ねる。


確かに4時間後には雪風の管理エリアを出るとはいえ、そこから先は「誰も管理していないエリア」なだけで、クランが拠点を作ってはいけないという訳ではない。


「この地図で把握できる範囲だと1・・・2かな?」


この地図は東部エリアのマップでその範囲で2つ掲載されていると言う事は、別のエリアの地図も含めると概6個近いクランが山頂付近のエリアに拠点を構えていると言う事になる。


勿論縄張りの主張は禁止されているから縄張り争いは起きてないと思われる。寧ろ山頂までは物資が届きにくいので、クラン同士が協力しあうこともあるのかもしれない。


「しかし、この地図だと今の場所から最寄のクランでも5時間ぐらいかな?」


「そうだね。今の時間から5時だと結構暗くなると思うけど、もしそれで泊めてもらえなかったらちょっとリスクは大きいかな」


「そうだなあ…」


先程の通り、物資が届きにくい場所に拠点があるクランなので、彼らは狩猟採集を行いながら足りない物があれば買出しに行きながら生活している。しかしそれ以外の稼ぎとして、山頂を目指す冒険者達へ部屋を貸してくれる等のサービスを提供してくれるらしい。まあ勿論無料じゃなくて、こちらからは食料だとか狩猟のドロップを差し出す必要があるけども。


有紀が買い込んだ食糧8万コム分は勿論俺達が消費する分以外に、宿を提供してくれるクランに対して支払う目的でも使う訳だ。


ちなみに現金は余り好まれない。即座に使えないと言うのがその理由で、どちらかと言うと食料品や生活用品を現物で渡す方が受け入れられやすい。


「エミリーの情報を信じて多めに食料買い込んだけど、それでも断られる可能性もあるからねえ…」


「うーん、だよな」


俺は悩む…。


1つ目が断られても更に山頂に向かえば2つ目のクランがある。それがダメでも西側にも北側にもクランはあるだろうから他を当たってみても良い。


だけど、それを夜間にやるのはなあ…。


「今日はここで泊まって、翌日朝のうちにまた行動して泊めてもらえるクランでも探す?」


俺は取りあえず提案してみる。


「うーん、今からだと修司の提案がリスク少なくて良いかな?」


有紀も賛成の考えを示す。


「あの…」


と、唐突に声をかけられる。先程のストーブの側で俺達に謝っていた女冒険者だ。


「あ、はい」


俺は急に声をかけられてびっくりしたものの、返事をする。


そして有紀はしない。相変わらずこの子は…。


「この先のクランを探している様子でしたので…」


「ああ、聞こえてましたか」


女冒険者以外に大きな盾を背中に背負った中年男も隣にやって来た。複数は苦手だよな。


「こんにちは。私がこのパーティーのリーダーだ」


中年男からそう声をかけられ、俺は彼にも挨拶をする。


「急に話しかけてすまない。実は私達はこの先にある『バリアント』というクランの者なんだが、この先に宿泊できるクランを探していただろう?」


「そうですね」


「丁度これから私達もクランの拠点に戻る予定でね、良ければ我々のクランで一泊していくか?」


「なんと…」


それは渡りに船だ。バリアントは地図で言うとここから5時間で向かえる場所にあるクランだし、丁度良いと思う。


「正直に言うと」


女冒険者が話を再開する。


「今回の狩猟で思ったより稼げてなくて、私達も一晩ここで過ごして狩猟を続けるかどうか相談をしていたんですよ」


「そう、そんな時に君らの話が聞こえてね。いや、失礼。盗み聞きするつもりはなかったのだが…」


「いえ、構いませんけど…」


俺はそう答える。こういう公共の場なんだからそりゃ聞こえるのは仕方がない。


「ああ、つまり俺達を泊める代わりに対価が手に入る、と言う事ですね」


「そういう事だな。君らも私達も得をする…と思うのだが」


「嬉しい話ではあるんですが、どのくらいの支払いが必要か気になりますね」


「うむ、私としては雪風で購入した食料があるならその食料を中心に、道中に狩猟や採集を行っていればそれらも含めて対価を見積もりたいのだが…」


中年男は少しだけ困った顔をして俺達の周りの荷物を見る。


ああ、そうか。俺達は狩猟や食料を大量に持っているように見えないから困った顔をしているのか。


「有紀」


「うん」


俺が有紀に声をかけると有紀は返事と共に収納魔術を使用し、床に食料と収集した肉・皮…それに野草や実を並べて行く。


「おお!!収納魔法なんてレアじゃないか!」


魔術だけどね、とは思っても言わない。魔術だろうが魔法だろうが効果も用途も同じなのに訂正する必要ないし。


「しかも、結構な量ですよ、リーダー」


「うむ。…正直、全然狩れてないじゃないかと疑ってしまった」


中年男は頭を下げる。この人は声が低いし頬や額に傷があって怖そうに見えたけど、対応は非常に紳士的だ。


結局、俺達は宿泊の対価として食料2日分(彼らには1日分にもならないけど)と、野草に実を全部、それから肉と皮は半分渡す事にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ