vs『叩き潰し』3
迫りくる『叩き潰し』を前に、有紀は避けずに正面から受けようとしている。
俺ですら「無理」と回避するわけで、有紀が相手の力量を大きく誤る事はない。言い換えれば考えあっての行動だという話だ。
「グオ!」と短く叫び、握った拳を振り上げ…勢い良く有紀へ降ろす。
大した溜めもなく凶悪な一撃を放てる訳で、そのガードの術がない俺には正面から受けるのは無理だと改めて思う。
と、唐突にゴン!という音と共に振り下ろす拳の速度が落ちる。
ウォールとは違う、見えない壁…いや塊が存在していてその塊が拳の動きを妨害している…という感じに見えた。
それでも拳は止まらず、当たればそれなりの威力を持っている状態だが、有紀には届く事はなかった。
今度はバキバキと音を立てて透明な壁が壊されていく。
有紀が使用しているウォールが破壊されている音だが、このウォールにより更に『叩き潰し』の必殺の一撃は威力を減じ、最終的に有紀の頭上20センチの所に設置されたウォールがバキンと音を立てて崩れた所で拳は止まった。
有紀はその直後にサーベルを振り回しウォールにより止まった拳を斬り付ける。が、ギギギン!と音を立て弾かれる。
「ひえ…硬い…」
有紀は自分の攻撃が弾かれるも然程焦りはない。
「!!」
『叩き潰し』が危険を察知し自分の足元を見る。
奴の居る地面が赤熱して・・・やがて炎の柱が出現しようとして居る所だった。
エミリーのフレイムピラーだ。いつの間にか彼女は有紀の近くまで移動を終えて、魔術を発動してたわけだ。
慌ててその場を飛びのこうとする『叩き潰し』だが、それは出来なかった。
振り下ろした腕を引き抜こうとするが、何かに阻まれて抜けないようだ。
有紀が振り下ろしの一撃の対抗として使った魔術「エアーブロック」の効果らしい。
これは高圧の空気の塊を作り出して敵の攻撃に対して威力を減衰させる魔術だ。
弱い攻撃ならこの空気の塊だけで防げるし、先ほどの凶悪な一撃でもウォール数枚で防げるほど威力を減らせる。
が、この魔術の肝はここではなく空気の塊による拘束だ。
突っ込んだ腕は周囲の高圧の空気により抑えられ、抜けないように固定されてしまっていた訳だ。
そしてエミリーのフレイムピラーが発動し『叩き潰し』は炎の柱に飲まれた。
「いや、修司まだだよ!」
「うーん、この子、予想以上だね」
飲まれたのは左足首から先だけだった。
身を捻り直撃だけは回避した、という感じか。
エミリーがある程度出力抑えてるとは言え、ここまで器用に避けるのは彼女も予想してなかったようだ。
そしてエアーブロックの効果も解除されて『叩き潰し』は逆の腕を振り上げる。
今度は拳を握らず…開く。ハエを叩くときのような動作だ。2人を叩き潰すのが目的だな。
勿論またエアーブロックを使えば同じ事な気がするけど、その前に俺の攻撃だ。
俺の目の前に『叩き潰し』の背中が見える。
有紀達が上手く注意を引き付けてくれてるお陰で俺に対する警戒もないしな。
俺はまた白炎剣を開放。
ボボッと燃える炎も直ぐに消え、白熱化した刀身が出現する。
このまま、一撃を決める!
俺が使えるのはここから放つパワースラッシュだ。
「うおぉぉ!!」
一撃を入れる直前に大きく叫び、剣を振る。
勿論叫べば相手も気づく。だがその時にはもう剣は背中に当たり…大きく切り込みを入れる。
「グオオオオ!!」
『叩き潰し』の大きな悲鳴と共に俺の方を振り返り、その振り返り様に横薙ぎに腕を振るう。
「!!」
俺は咄嗟に盾を…と直ぐにその考えを捨て、剣をその腕に放つ。
本来なら俺が力負けして大きく吹き飛ばされるはずだが、しかし俺の剣が奴の腕に刺さり白熱化した剣が腕の肉を焼き斬る。
「サンキュ!」
有紀とエミリーが2人同時に腕に対してバインドを発動していた。
魔女2人によるバインドは凄まじく『叩き潰し』の振り回した腕を完全に抑えることが出来てしまった。
果たして俺は『叩き潰し』の腕…左腕を手首から切り落とす事に成功した。
そして…
「まだいくぞ!」
俺は今度は『叩き潰し』の懐へ飛び込み、パワースラッシュを更に放つ。
俺の気が尽きるまで白炎剣は持続させる。
恐らくこれが消えたら俺の攻撃チャンスが消えてしまう。
「おおおおお!!」
叫びつつ腹部へ一発。
怯んだ『叩き潰し』は後方に下がろうとして、今度は有紀のクアグマイアに右足を取られ、グラっと傾く。
そこを狙い、胸部へ一発。分厚い大胸筋を焼き斬る。
「ガアアア!」
『叩き潰し』は逃げられないと悟り、右拳を振り上げ…降ろす!
だが俺は怯まない。あの2人を信じて攻撃を続けることにする。
俺を潰す為に降ろされた拳は、途中で止まる。
有紀のエアーブロック、そしてウォールだ。
『叩き潰し』はしかし、先程と同じ流れを悟りエアーブロックの拘束を力技で抜けようとする。
固定しきれずゆっくりと腕が引き抜かれるが…。
「修司君、攻撃を!」
エミリーが叫び、直後に『叩き潰し』へ雷が落ちる。
先ほどは避けられたサンダーだが、今度はヒットし、そして電気のショックにより『叩き潰し』は一瞬動作が止まる。
ここが狙い目だ。
「オッケー!」
俺のパワースラッシュで拳を切る。
有紀の素の攻撃では弾かれるほどの硬い拳だが、俺の白炎剣を付与したパワースラッシュには勝てず焼き切られる。
勿論ショック状態で筋肉が弛緩していたのも理由だろうけど、何にせよ奴は両腕の攻撃を失ったわけだ。
「あと少しだよ修司」
『叩き潰し』は絶対的な自信を持っていたはずの両腕を破壊され、戸惑いがあるのか、バックステップで俺達と距離を取る。
が、そこには有紀が自分の魔力を散らして置いたトラップがあった。
ズン!という音と共に『叩き潰し』が地面にめり込む。
グラビテーションだ。それも後方に逃げた先で俺を巻き込まないと有紀は予想してたようで威力を軽減した準初級魔術としてではなく本来の中級魔術としてのグラビテーションを発動できる罠を敷いてたわけだ。
よし!
俺は駆け…奴の額目掛けてパワーストライクを発動させ脳天に突き刺さり『叩き潰し』は消滅した。