寒さを凌ぐ
しかし毛布一枚、しかも加工魔石を温存しようってことでストーブ未使用。
うん、死ぬな。
ガタガタと震えが止まらない。
これは「寝たら死ぬぞ!」みたいなシーンあるけど、あんな感じかもしれん。
と、毛布に包まってる俺に何かがかけられる。
「修司使って」
有紀が自分の毛布を差し出してくれたようだ。
「有紀は…?」
俺は包まった毛布から顔を出して有紀を見る。有紀の隣にエミリーが立ってた。
「私達2人でぎゅーってして寝るよー」
エミリーが有紀に抱きつくが有紀は微妙に面倒臭そうな顔してる。が、俺は寒さの方がヤバイのでこの言葉に甘えておこう。
「それとも…修司君も含めて3人でぴったりくっついて寝る?良いよ良いよ!」
「あー…」
それも良いかも、と思ってしまう。いつもなら躊躇うんだけどね。
兎に角寒さを何とかしたいという気持ちが今は強い。
1人1個の毛布より3人で3個の毛布を重ねてくっついて寝たほうが熱を保ちやすいイメージがある。
「駄目だよエミリー、君は悪い事考えてるでしょう?」
「悪い事って、別に考えてないよ?悪い事はね」
まあこの話は一昨日、護衛依頼の前日にも同じような流れだったけど、一昨日はベッドに掛け布団もしっかりしてたから寒くはなかったし別々でも問題は無かったんだけど、うーん。
「寝るか?一緒に」
俺はついそう口にする。
「修司!?」
有紀が驚く。そりゃね、俺達2人だけなら多分俺も有紀も「くっついて寝よう」という考えに対して抵抗はない。嘘です、あります。
ただエミリーが加わるとなると俺は更に抵抗を感じてしまうし、有紀としてはエミリーを抑えておきたいと思ってるんだろう。俺達2人の中では3人で寝るという提案は基本的に「ない」わけだ。
だから俺がこの提案をしたときには有紀はそりゃ驚くだろう。
が、同時に拒否もしない。
俺の寒さを有紀は気にかけてるから「一緒に寝る」という提案は決して下心があるわけじゃないって言うのは理解してるからね。
昨日使ったクッションは足がはみ出てしまうから焚き木がないと足が霜焼けしそうだから、結局の所くっついて寝るのが一番かな、と俺は思うし恐らく有紀も思ったんだろう。
「いいの?え?え?」
俺の言葉は有紀が驚くだけじゃなくてエミリーも嬉しいんだか驚くんだかその両方の顔で俺と有紀を交互に見てる。
まさか俺がこんな事を言うとは思わなかったんだろう。まあ基本的に拒否してるからね。
「修司が凍死するよりずっとマシだから、仕方ない…」
有紀があきらめた顔でそういうとエミリーの顔がパっと明るくなる。
「やったね!修司君、今夜はよろしくね~」
「寝るだけだぞ?」
結局俺の右にエミリー、左に有紀が俺に抱きつく形で寝ることになったわけだけど…
「ひえ!」
俺から変な声出る。2人ともめっちゃ冷たい。
「ごめんね、修司」
有紀から申し訳なさそうな声。
「暖かいな、修司君」
エミリーからホッとしてるような優しい声。
「いや、良いんだけど、耳元でしゃべらないで…」
2人とも俺の耳元で喋るから息が掛かってめちゃくちゃくすぐったい。
まあ冷たいのは仕方が無い。そのうち温まるだろうしね。
毛布3枚の効果は覿面であっという間に俺達3人は体温が上がるのを感じる。
「ぎゅー」
エミリーが抱きついてくる。今度は暖かい。けど、色々当たってますよ。
「あ、こら、エミリー」
「有紀もちゃんとくっつかないと。修司君また冷えちゃうよ?」
そんな事は無いんだけど、エミリーが煽り、有紀が「それは困る」と抱きつく。
全体的にこの2人は柔らかい。胸だけじゃないんだよ。
いや、胸の潰れるような感触も凄くやばいんだけど、俺の腕を引っ張って自分の腰に回すように誘導されると尻にも手が当たる。
左右からこうやられると男はどうなるか?当然眠れなくなる。
色々とシたくなるよね。本来ならね。
疲れてる今の俺には性欲よりも睡眠欲の方が強いようだ。
それに、1階は食堂があって、夜は酒場としても利用されていて、1階の大きな笑い声とか喧騒が床を通して俺の耳に入ってる。
その状況で性欲沸かすのは難しい。
最初は俺の反応を楽しもうと顔がキラキラしてたエミリーだったが、彼女もやっぱり1階の喧騒は好きじゃなかったようで「うーん」と困ったような笑いをしてる。
「雰囲気的にイチャイチャできないね」
「エミリー…悪い事考えてたじゃん…」
「いやだなあ、有紀は。私は悪い事は考えてないよ。イチャイチャが悪い事だと思ってないし」
そりゃそうだ。イチャイチャするのが悪い事かと言われたら…、まあ公共の場ではマナーとして良くないのは分かるけど、個室では悪い事とは言い難いよな。
一杯食わされたな、有紀。
「むう。でも今日は修司眠そうなんだから変な事考えないで寝ておこう」
有紀が強引にそう纏めた。けどね、お前の胸と尻当たってるのも睡眠欲無かったら性欲爆発させる要因だぞ…。
エミリーも今日はヤる気なくなってるから素直に「はーい」と引き下がってくれた。
1階の笑い声が時々部屋に小さく響くけど、眠りそうな今の状態だとこれも悪くない。
小さい頃、親戚の叔父達と父親が居間で酒盛りして楽しそうにしてて、俺はその騒がしさを心地よいと思いながら転寝してたんだよな。
その懐かしさで俺は自然と眠りに入ることが出来た。