アトス山での休暇2日目2
土産屋から少し離れた所にアトス山の歴史館がある。…まあ人気ないんだけどね。
冒険者にとって大事なのは歴史ではなく現在だし、冒険者以外の観光客にとってもやっぱり大事なのは楽しめる事だから、歴史は興味を惹かれないのかもしれない。
「当然…ではないだろうけど、入場料は無料だね」
「人気なさ過ぎて有料にしたら完全に人が来なくなるもんな」
ついでに警備員もいない、ただ掲示されてるだけって感じだな。
「まあ、俺も正直今回みたいに暇がある時じゃないと来ないだろうなって思う」
「ボクも興味ないから1人では来ないだろうね」
ネガティブな事を言いながらも、結局やる事もないし暇つぶしってこともあって入るわけだけども。
まあ中に入るとまず「アトス山の歴史」が書かれた年表が掲示されてる。そして掃除されてない。ただ読めないというレベルではないので月1回ぐらいは掃除してるんじゃないかな?知らないけど。
歴史を見てみると、アトス山自体は1万年前から認識されていたようだ。ただこの山周辺も含めて開拓はされてなかったようだ。
「ってことはアトス市も無かったのかな」
「そうなるね、王都から徐々に冒険者が未知の地を探索して開拓しているのだけど、もしかしたらまだアトス村…だったのかもよ」
「なるほどね」
で、アトス山と名づけられたのは5000年前らしい。
「ええっと、エルフ族の魔道士ナターリャ率いるクラン『新たなる希望』によりアトス山の探索が始まる」
「魔道士?」
「魔法使いみたいなもんかな?ボクも職業とか良く分からないや」
「有紀、お前本当にこの世界の住民だったの?」
「し、失礼な!興味なかっただけだよ!」
有紀はプンって怒るけど、まあ確かに興味なかったら職業とかあんまり気にしないよな…。
「ごめんって」
「まあいいよ、続き見ていこう」
その10年後に山の探索は終了し、同時に山の開拓も始まる。
「お、有紀こっち見てみ」
「ん?」
この歴史の掲示板が掲げられた所から少し横に行くと、当時の開拓されたアトス山の絵を発見した。
「これは当時の様子かな?」
「そう書いてあるな」
4990年前のアトス山は緑に覆われた穏やかな山だ。
「おや、当時は雪山ではないんだね」
今のアトス山は勿論緑もあるが5合目辺りからチラホラ白い雪が木々についていて、8合目以降は完全に雪に覆われている。
アリアが「この山の木は紅葉もしないし、落葉も成長しきった葉ぐらいしか見かけない。だから青々とした葉の上に雪が積もっていく」と教えてくれたが、実際アトス山は麓は緑色をしているのに上を見ると別に枯れ木も見当たらないまま雪色に変わっていく…。緑から白への変化がまた綺麗ではあるけども。
「そんでもって、これが開拓開始して50年後だな」
先ほどの絵も今と随分様子が違っていたが今度の絵はもっと違っていた。
「ん?これ違う山なのかな?ボク何か間違えちゃった?」
「いや、アトス山だな、ほら、ここに書いてある…」
緑に覆われていた山は次の絵では禿山になっていた。更に山頂まで道路が舗装されて建物も建っており、先ほどの絵とも今のアトス山の光景とも全く違うものが映っていた。
何でこんなことに…と思ったら有紀が歴史板の続きを読んでくれた。いや、俺も読めるんだけどね。
「当時アトス村と提携して開拓を進めていたクラン『ゴールドラッシュ』により貴族の別荘地としてアトス山の開発が行われた…だってさ」
俺も読めるんだけどね!ってことで俺も続きを読む。
「アトス山の調査をしていた『新たなる希望』は反対していたが、『ゴールドラッシュ』及びアトス村の意思に押されて開発を受け入れた…か…」
クラン同士の戦いは武力だけではなく、コネも1つの要素となる。この当時の話で言えば、クラン「ゴールドラッシュ」のほうがアトス村の住民を味方につけていたし、貴族の別荘開発という事であれば貴族も味方につけることができたのだろう。
なんにせよクラン「新たな希望」は勝負に負け、アトス山は禿山になるまで開発された。まあ、その甲斐もあってアトス村は町と呼ばれる規模まで成長する事が出来たんだろうけども。
「あ、でもこの頃から霧がアトス山を覆うようになったようだね」
確かにそう書いてある。
当時の住民の日誌も掲載されていたので見てみると「霧はアトス山と他を区切るように広がり、霧を突き抜けて山への出入りが出来なくなった」とある。
「つまりこれが今のアトス山の周囲を覆う霧の始まりなんだね」
有紀の言う通りだ。その霧は南部…つまり今俺達が居る場所を除いて展開された事で、アトス山と言うフィールド型ダンジョンが生成されたという事になる。
丁度モンスターもこの頃から出没しだしたと日誌に書かれていたし、そういうことだろう。
「それでも100年は維持できてたみたいだよ、ほら『4800年前までの100年間は山頂も含めて維持されていた別荘地だがその後、麓の南部を除いて放棄』ってある」
4900年前から100年の間に徐々に変化があったというのも、当時の日誌に記載がある。
まずモンスターの増加及び大型化。フィールドのモンスターはダンジョン比べて小型化する傾向がある中、アトス山だけはフィールドでありながらダンジョンとしての性質を兼ねているので大型化したようだ。
更に霧により外部と遮断された事によって気温が下がり、雪が積もるようになったようだ。アトス市も盆地になってるせいで冷気が流れ込んできて寒かったけど、ここは熱の流入が少なすぎて常に寒いわけだ。
このような環境変化で別荘地としての快適さはなくなったし、モンスターの討伐してでも維持させるコストに見合う場所ではなくなり放棄されたという事になる。
ん、いや…違うな。
霧に覆われ温度が下がった事で別荘を放棄する貴族が現れ、放棄された地帯で木々が復活…。そしてそれを食べるモンスターが栄養を得て大型化して、コストに見合わなくなったと判断し放棄した別荘が増えると、そこに生えてきた植物を食べて更にモンスターが大型化・・・という感じか?
まあ詳細はどの資料にも書かれてないから分からないけど、まあ環境変化とモンスターの増加・大型化によって今のアトス山の状態になった、という事だ。
ちなみに4700年前に魔道士ナターリャが死亡しており、この時点でクラン「新たな希望」は解散となっている。
ここまでがアトス山の歴史として記述されていた。
覚えるかどうかは別として、千年以上前の記述があるというのは案外面白いな。