龍牙穿空2
精霊が武器に宿ったものを精霊武器という。
勿論武器の性能は依り代に左右されるが、精霊が持つ能力が成長していく。
「ただの木刀でも、木の精霊が宿れば普通の武器を越えるまで成長する事だってある。成長した精霊武器は国宝クラスの価値がある。何せ元々貴重な精霊武器を更に強化したものだから、市場に出回る事は無い…とまでは行かないか。だが殆どないんだよ」
「あ」
有紀が行き成り声を発する。
「でもボクの龍牙穿空は精霊武器ではないよ」
「そう。だけどその武器は生きてる。龍牙穿空は精霊武器と同様に考えて良い」
「生きてる…?」
「ドワーフ族に伝わる秘儀…と言うほどでもないんだけど、特殊な素材を利用して武具を作成する時には長く使用されることを前提に成長できるように作る。まあそんな事出来るのはドワーフの中でも一部だけで、私には出来ないんだけど」
「でもボクの武器はそのように作られた…ってことかな」
「そういうこと。まあこれは説明されないと分からないよな」
「うん」
「で、だ…。生きてる武器なら精霊武器とそう変わらない。私達はここで鍛冶をするようになる前までは研究をしていたんだ」
「研究?」
有紀の疑問にアリアではなく、アーロンが答える。
「うん、精霊武器の効率的な成長についての研究だよ。私達はエンドレス・ソウルに加入する前はこうやって武具を作って金を溜めつつ、各地を巡って研究をしていたんだよ」
「そうなんだ」
「精霊武器について知る者は居ても、その成長のさせ方についてはあんまり情報がないんだ。例えば火の精霊が宿ってるなら火の側に置いてやれば良い、とかその程度だね」
アーロンに続きアリアが引き継ぐ。
「勿論その理屈は正しい。火精霊なら火、木精霊なら木…類似した環境にやれば良いからね。でもその方法で伝説クラスの武器にまで成長させるとしたら100年でも足りないぐらいなんだ。そこで私達はもっと短期間で成長させる方法を考えたわけだ」
「私と親方は各地を回って、より効率的な成長について調べてみたんだ。そうだね、さっきの例で言うなら木の精霊に関しての検証は南方に住まう大樹の魔女…だっけ?彼女に協力してもらったんだ」
大樹の魔女…魔女会のときに少し交流持ったな。
あの人がやってることとか、俺も有紀も全然そういう話に興味持たなかったよな…折角の人脈を無駄にしてる感が凄い。
「精霊の宿った木刀、さっきから例に出しているけど、実はこれ…私達が実際にこの精霊武器を使用して成長に関する研究を行ったものなんだ。そして大樹の魔女が管理している古木は他の場所に比べて大きく成長した…という結果となった」
「私達は精霊武器の成長を大きく促す場所をスプライト・スポットと呼ぶことにした。宿る精霊によりこのスプライト・スポットは異なるし、勿論色んな場所に存在しているだろう」
「まあ…私と親方はこの時点で研究止めちゃったんですけどね」
「え?止めたんですか?」
「そりゃな。そもそも精霊武器自体が貴重で入手が出来ない以上、スプライト・スポットを探す事は無理だろう?火の精霊のためのスポットを探すなら火の精霊の宿った武器がないとわからないんだから」
「ああ・・・確かに」
「木の精霊の宿った木刀についてもな、あれも他のスポット探しても良かったんだが…」
アリアがここまで説明すると今度はアーロンが引き継ぐ。
「丁度私達も各地を転々とするだけのお金も無くなってしまってたし、モチベーション的にもね…。大樹の魔女の協力でスプライト・スポットが実在するという証明が出来たところで燃え尽きてしまったんだよ、恥ずかしながらね」
なるほど、まあ気持ちはわかる。
確か中学の時にめちゃくちゃ勉強して県内トップの高校進学した奴がいたけど、噂ではそこで燃え尽きてしまって、今では高校の中で落ちこぼれてるとか聞いたことがある。
まあ彼ら2人は自身の仕事の傍らでやってた研究だから別に止めたところで生活への影響はなかっただろうし、続けるとしても精霊武器の入手が難しかったらどうにもならんよな。
「ちなみに例の木刀は大樹の魔女に預けたよ。物を大事にする奴だったし、多分捨てては居ないと思うから立ち寄る事があれば見せてもらうと良いさ」
ああ、もっと早くにこの話聞いてれば見せてもらうチャンスあったんだけどね、勿論それはここでは言わないけど。
まあとりあえずアリアとアーロンが研究をしていた、と言うのは分かった。
俺は一度コーヒーを飲んで目を瞑り天井を見る…情報をまとめるためにね。
話をしていた2人もここで一旦話を区切りコーヒーを飲んだりとリラックスを始める。
今までの話を纏めると…
①精霊武器は精霊の種類に応じて類似した環境に置くことで成長する
②龍牙穿空は精霊武器と同じカテゴリに位置する
③成長をより促すスポットが存在する
なるほどね、つまり…
「ボクの龍牙穿空もスプライト・スポットのような場所が存在する、ってことかな?」
あ、有紀に言われた。
「そう。そして性質的にアトス山の山頂が当てはまる」
でももう1つ、何となくイメージはついてるけど確認しておかねば…
「それと、手入れって言うのは要するに『類似した環境に置く』事でいいのかな?」
また有紀に言われた。
「そうだった、そこは上手く説明してなかったな。認識としてはそれで大丈夫だ。祭る…と言うのは理解できるか?」
「うん、大体のイメージは…」
「なら良い。置くというと放置するようなイメージをもたれるが、別に特別なものは必要ないがちゃんと敬意を持って設置してやる。それを以って手入れとする」
社を設置する必要まではないが、その辺にポンっと放り投げるのはダメ、ってことかな。
手入れと言われたから何か特別な道具を用いるのかと思ったが、祭るだけで良いようだし、これならあれこれ準備しなくて良いな。