龍牙穿空
有紀の使っている武器、形状はサーベルと言うほうがイメージしやすい。
天龍山脈という場所に住まう龍神の牙を使ったこの武器は、武器としての切れ味は素の状態だと全く切れないと言っても良いが、魔力を流すと切れ味が上昇し、更に斬撃を飛ばすことも出来る。
勿論魔法でも魔術でも同様のスキルは存在するし、アーツでも上級のものなら同じようなものは存在するわけで、特別貴重な能力でもないんじゃないかと俺は思ってたりする。
他にも魔術構築の処理速度を上げる触媒としての能力もあるから有紀はそれを目当てに使ってるのかもしれないけどね。
「勿論注ぎ込む魔力の量によって威力は変わるかもしれないけど、このサーベルの質にしては威力低すぎると思ったことはない?」
「うーん、ボクはそんなに感じてなかったけど…」
「…まあ、魔女は魔術が豊富だから気にする程でもないかもね」
アリアと有紀の話を聞きながらも俺はシチューを啜りパンを齧る。
難しい話はとりあえず聞いてもわからんし、とりあえずアーロンが作った飯を堪能しようと判断したわけだ。
「どうかな?味は…」
「美味いですよ、特にシチューの肉。こんな柔らかいのは久しぶりだ!」
「そうか、良かったよ。肉の下ごしらえは時間かけたから、気に入ってもらえて良かった」
実際他で食うシチュー…というか他の料理でもそうだけど肉が硬い。
大勢の客を相手にする分、下ごしらえを行う時間を十分に取れてないのが原因なんだろうけどね。
更にシチューを啜る。
「俺このドロっとした感じも好きですよ。サラサラっとしてると水っぽくて…」
「そうそう、わかるかい?かと言ってドロドロになりすぎても良くないし、今ぐらいが丁度良いかなって思ってるんだ」
いやあ、アーロン…いやアーロン様のこだわりは俺の好みと一致してる。
「めっちゃ美味い」と感想を伝え更に食事を進める。
…ん?
何となく視線に気付いて顔を上げると、皆ジーっと見てた。
「え?え?」
「いやあ、私は修司君が美味しく食べてるな…と」
「アーロンの飯をこんなにガツガツ食ってるところを見ると私まで気分がよくなるな」
「修司、気にせず食べてて良いよ」
有紀に促されるけど、食えるか!
「いや、見てないで皆も食べて…」
「あはは、ごめんね修司君。私も頂くとするよ」
「とりあえず龍眼の魔女も今は熱々の飯を食べておくと良い。もっと細かい話は後にしておこう」
「そうだね、こんな美味しそうな料理冷めるまでゆっくり食べるのは勿体ない」
俺への視線が外れたのでやっと飯に集中できるぜ。
食事を終え、食後のコーヒーが用意され、飲みながら話が続く。
「龍牙穿空は…まあ龍眼にとっては数ある攻撃方法の1つとしか見てないだろうが、何の前提も必要とせずに魔法や上級アーツ並の事が出来るわけだから、これがもし市場に流れたら混乱が訪れる代物なんだ」
アリアが話を始める。
「それと多分、お前は全力で能力解放したことないんじゃないか?いや、勿論ダンジョンで龍牙穿空の全力解放は他の冒険者を巻き込みかねないし、全力が出せないのはわかるが…だからこそ劣化していることに気付けなかったとも言える」
「…ごもっともで…」
有紀がダンジョンでは範囲が比較的狭い魔術を使う。
ダンジョンは狭い場所もあるし広い場所もあるし、勿論広い場所で戦闘できるよう誘導できればいう事無しなんだが、そうも行かない時も多い。
そのため普段からセーブして振舞ってきたんだろうし、今も俺と一緒に居るとやはり思うが侭に魔術を行使していないわけだ。
そして龍牙穿空についても同様に全力で斬撃を使ってなかった…と言うかこれも無意識に抑え目に撃ってたのかもしれないな。
アリアの言う劣化と言うのは最大威力の低下の事だ。
最大100の威力が出せるとして、有紀は普段20ぐらいしか使用していなければ、最大威力が60まで下がっていても彼女は気付けないわけだ。
有紀が普段通りの使い方をするなら最大威力なんて多少下がっても良いとは思うが…
「一応、この武器を元の性能に戻すというのが話の1つだけど」
アリアがコーヒーを口にする代わりにアーロンが引き継ぐ。
「私達はこの龍牙穿空は更に成長する、と考えてるんだ。例えば今と同じ使い方でもより鋭い斬撃を放てるようになったり、より効率的な触媒としての性能を発揮したり…」
「え?どういう…?」
俺達がアーロンに顔を向け、アーロンもそれを確認してからゆっくり話し始めた。
「うん。君達は龍神が女神様の力が及ばない存在だという事、知ってるかな?」
「ボクが昔修司に語ってるね」
「そうだったな」
「なら話を続けよう。実は女神様の影響外の存在は他にもあるんだよ。例えば精霊…とかね」
精霊…って言うと何となくサラマンダーとかノームとか…なんかそういうのあるよな。
「精霊って言っても明確な意思を持つのは稀で、基本的にはただ浮遊しているだけと言われてるんだよ。言われてる…と言うのは殆どの人は見ることが出来ないため精霊については然程解明されていないから詳細は不明なんだ。勿論私達も見ることは出来ない…多少存在を感知する程度は出来るんだけども」
「精霊の生態は詳しく解明されていなくても、精霊が宿った武器は存在する」
コーヒーを飲み一息したアリアがまた引き継ぐ。
この二人本当阿吽の呼吸みたいな事するな。
「精霊武器…って言っても種類は様々だけど、普通の武器と違う点があるんだよ」
「違い…」
「そう、それが成長するという点だね」