クレス2
<佐野修司の視点>
俺の隣で暖かい梅酒を飲んで「ホットだけに」とか言っちゃう子をスルーしてくれた優しいクレスさんの話は続く。
「5層は1体だけで明らかにスケルトン強さが異なることから、アレはダンジョンにおけるボスモンスターとして『初心者殺し』と綽名が付いています。モンスター名はそのままスケルトンなんですが、特殊な存在には綽名が付きます。」
なるほど、魔女も一人ずつ綽名が付いてるらしいしね。
「『初心者殺し』と言う巨大スケルトンは魔法の類は一切使ってこないのですが単純に攻撃力と防御力が高い。僕らのパーティーのタンク役が何とか抑えていたのですが、一方でこちらの攻撃も殆ど通りません。僕はキャスターだったので魔法を使っていましたが、何せ敵も動きますからね。弱点・・・ああ、胸の中央に核があって、そこを狙うのですが、放った魔法の大半が肋骨に遮られてしまいした。」
魔法は自身を触媒にして自分から敵に向かって放つから命中が関わってくるのか・・・。
猪肉を薄く切って焼いたものをタレにつけて食べる。
あ、これ焼肉じゃね?
そういえば臭みがなくて食べやすいのはハーブを餌としてるからなのかな?
でも倒したときに剥ぎ取るわけじゃなくて肉塊がドロップするだけだからモンスターの食べているものは関係ないようにも思えるし・・・。
クレスさんも合間に一口ずつ食べてるようだ。
3層よりも4層のほうが人が少ないなら自分向けなのかなと思ったけど依頼が少ないらしい。
需要が少ないわけじゃないだろうけど、少なくともこのダンジョンでは2層ぐらいしか使ってないし、他のダンジョンで使う分はそのダンジョンで取れたりするんだろう。
そうなると依頼の金額も少ないか。
お、クレスさんがまた話し始めるぞ。
「攻撃を受ける、回復する、そしてこちらから攻撃する・・・というのを繰り返しても一向に倒せる気配もなく、ついには重装備のタンクが倒れました。そこからはもうどうしようもありません。一人二人と殺されていき、6人居たパーティーも私だけ・・・となり、冒険者人生の幕を閉じるときにです。魔女様がそこを通りかかったのです!」
クレスさんのテンションが少しあがって来た。このまままた感涙にむせぶのではないか?と不安になる。
でもそれよりもまだ「?」って顔してるな、有紀。
もしかして人違いなんじゃないか?
「魔女様は魔術を使いますから、『初見殺し』の核を狙って直接攻撃できるわけで、流石といいますか、一瞬で倒してしましました。」
「ああ!」
やっと思い出したって感じで有紀が反応する。
「あれはね、クレスさん。ボクは『初見殺し』の落とす大きな魔石が何個も必要で、サーチアンドデストロイの最中だったんだよ。ちょうどアレで最後だったときだね。普段は人が居ない時間に動いてたから、あの時はパーティーがいてびっくりしたよ。」
そうそう、ダンジョンは確かに時間の感覚はないけど、冒険者だって24時間行動するわけじゃないし、他のパーティーの行動に合わせるから、というか合わせないと助け合うこともできないので、必然的に人が多い時間と居ない時間が出来るわけだ。
「そうですね、あの時はすでに入り口フロアに1パーティー結界を張って野営の準備をしていましたから、僕らのパーティーは『様子見にいく』と勇み足で奥に行ってしまったんですよね。完全に浮かれていました。」
やっと有紀が反応したことで、クレスさんも嬉しそうだ、というか「思い出してもらえた」ことの喜びかな、これは・・・。
「あの時はそれだけではなく、死んだ仲間の蘇生もして下さったお陰で僕らは無事に戻ることが出来たわけです。今の僕がこうやって初心者を助けるためのクランを運営しているのは貴女の影響ですよ。」
「ちょ、ちょっと待った。有紀、蘇生とか出来るの?」
「それはね、この世界のルールとして死んでから時間が経てば土に還るけど、その前に蘇生をすれば生き返るんだよ、寿命でなければね。」
蘇生に関しては「魔法」には存在せず、魔術・奇跡の「リザレクション」だけが可能だとか。
「僕ら駆け出しには習得できないスキルなんですよ、本来は。だからこのダンジョンは死亡率が高かったし、それを防ぐためにパーティー同士で協力しあわないといけなかったんです。今は土に還る前にクランの神官や魔術師が蘇生させますから、死亡率は大幅に下がりました。3層で収める5000コムを渋った冒険者さんにも割高で蘇生の請負をしてますしね。」
「でも、クレスさん。ボクがやったのは別に人助けじゃなくて、ボクが『初見殺し』を倒すついでだよ。もし全滅していたらボクは蘇生しなかったよ、その後の面倒までは見れないから。」
ボソっと「関わるの怖いし」とか言ってる。
「それは当然でしょう。蘇生だけでも本来であればありえない話なのですからね。」
土に還る・・・というのもカルチャーショックなものがあるけども、蘇生出来るというのも驚き・・・いや、正直に言うとこれらの事実は「ファンタジー小説ならあるよな」という話なのでめちゃくちゃびっくり、と言うわけでもなかったりする。
とにかく・・・とクレスさん。
「僕らのパーティーは救われた。それからは油断することなく、無理をすることなく、地道にいろんなダンジョンを冒険してきました。安全重視だったのでランクはなかなか上がりませんでしたけどね。でも、生き残るというのはランクや名声よりもずっと重要なことです。それは貴女が居なければ気づくことはありませんでした。」
九死に一生を得たからこその教訓だよな。
俺が有紀に教わる戦い方や魔術は防御・回避を重視した内容になっている。
派手な技や動きなんて教わることはない・・・、って言っても俺は地味男だからそんなことしても似合わないんだけどね。
有紀は冒険者として命が大事だと知ってて教えてくれてたんだな。
慈しむ目で有紀を見るも「なんか気持ち悪いよ」と言われてしまった。
その後、ランク7になったクレスさんはここで活動する目的のクランを設立したいとパーティーメンバーに申し出たら皆も同じことを考えてたらしく、そのまま固定のパーティー全員でクランを立ち上げたそうだ。
でももう200年・・・
「そうですね、もう残っている最初のメンバーは僕だけです。残りは寿命で・・・。ああ、悲しいとか寂しいというのはないですよ。全く無いわけではないですが、突然死んだというわけじゃないですから僕も向こうも別れを覚悟する時間は十分ありましたからね。僕の奥さんになった人も無事に天寿を全うできました。だからこそ龍眼の魔女様、貴女には感謝なのです。」
改めて頭を下げるクレスさん。
寿命が違う種族ってこういう分かれ方があるんだな。
「ところで、魔女様・・・。隣の方はどういう関係で?」
え?今更聞いてくる?
と思ったけど、確かに尊敬する魔女と親しくしてたら気になるよな。
俺達はクレスさんに事情を説明した。
俺が異世界を理解するよりもスンナリ納得された。
「『次元の魔女』の力があれば魂だけなら別の世界で転生可能でしょうからね」
魔女なら何とかするでしょ~、ってことか。