反省会2
出て行った有紀達が戻ってきたところで、この4人は自分の能力を公表した。
…と言っても基本ステータスだけで俺は勝てないんだろうなって気はする。
「俺は相手の動きを支配する能力なんだけどな、まだ発展途上だからか、動きを止めるしかできないんだよ。女神さんは確か『支配者の眼』という名前をつけてたかな。まあ能力の名前なんてどうでもいいんだけどな!」
東別府が有紀に行った事を聞いたときはちょっと胸が苦しくなった。
俺の有紀が…って気持ちあったのかもしれない。
東別府の能力は相手に抵抗される事があるらしく、例えば今回のように有紀が魔力を放出したり…とか。
「で、今回俺が見たかったのは俺の能力が現時点でどのくらい通用するのか?という点だな。神城を対象にして使用したときに、俺の能力は見事に抵抗されたわけだけども。…北角。」
「うん。ここからは俺が説明する。俺の目は『観測者の眼』と名づけられている。今回アイツと神城さんの立会いとして参加したのは、この能力を利用する事で『東別府の能力が格上に対してどの程度通用するか』を分析するためだ。」
北角は更に説明を続ける。
「神城さんの魔力放出する前にはほぼ9割の支配が成立していた東別府の能力は、魔力が放出され、一定量を超えたあたりで能力が遮られた。放出された魔力量について、今のところ俺達が戦ってきたモンスターに同レベルの魔力を持つものは居ないが、今後強敵と当たった場合には東別府の能力が期待出来るレベルとそうでないレベルの仕分けが可能になった。」
うーん、長い説明で良く分からん。
有紀を見ると彼女も「うーん?」て感じだ…。
「まあ要するに僕達は自分の能力の限界を探りたかったんだよ。丁度神城さんと会えた事で実行に移した…というわけなんだけど…。ごめんね、神城さん。」
「え?」
「事前にちゃんと説明したほうが良かったね。」
「まあ…そうだね、襲われると思った…」
「いや、佳嗣。説明しなかったからこそ本気で抵抗してくれたんじゃねえの?俺は事前に伝えて変な加減されるよりもずっといいと思うぞ。…ってか、ごめんなー!女の子怖がらせるの俺の趣味じゃねえんだけどさ~。」
東別府がまたへらへらとしながら有紀の肩に腕を回そうとしたがビクっと反応した有紀が俺の後ろに回る。
よっしゃ!
「うわ、ショックだ…」
本当にがっかりしてるかは分からないけど、肩を落す東別府に俺は「そりゃそうなるわ」と返してあげた。
この4人は支配者の塔の1層と2層を中心に活動しているそうだ。
3層からは対抗できないのか?というとそうでもないらしい。
「自分の実力をあげていくには相手が強すぎても弱すぎてもダメだ。このくらいが効率良いんだよ。」
吉山がメガネをクイっと上げて答える。
レベリングの効率みたいなものか。何かゲームとかやってたから分からなくも無い。
「まあ、佐野君。お前にはまだここは早い…と、まああれこれ言う必要はなさそうだな。」
吉山は俺を見て、発言を途中で止める。
筋力も敏捷も魔力も、俺が使える「気」も1層を楽にこなすにはまだ足りない。俺もそれは実感してしまった。有紀もまた魔力を圧縮させてアーツを使えるようになるという目的が達成できないとレベルアップとは言えないだろう。
「僕達はこの覇者の塔と北のウィル市にある『ステビア亭』という宿を往復しながら生活しているから、もし佐野君や神城さんが僕達に用事があるときは覇者の塔の簡易休憩所か、ステビア亭に居てもらえれば会えると思う。」
寺崎がまとめに入る。
少なくともこの4人は俺達を拒否する事は無いみたいだ。
「神城、お前もっと普通の服着ろよ。横乳見えてんぞ?」
東別府がセクハラ気味に発言すると有紀は慌てて腕で胸を隠すように抱きしめる。
顔を赤くして俺を見てくるけど、俺は顔を横にずらし有紀を見ないようにする。
北角と吉山もスイ…と顔を逸らす。
分かってる…俺達3人とも見てたよな、うん。
接点の殆ど無かった北角と吉山…俺はこいつらと仲良くなれそうな気がする。
そんなことをほんのり思ってしまった。
1層は結局俺達には早かったので出口までは彼らに護衛してもらって(勿論無料で)、脱出する事にした。
道中の彼らの戦闘は普通の一言だった。
寺崎がその大きな盾で攻撃をガードし、横から吉山がスルリと抜けてトカゲを掴みひっくり返す。
何の抵抗も無くひっくり返ったところを北角がダンジョンには似合わない大きな剣を振り下ろし、弱点の腹を切り裂く。
それで終わりだった。
2匹同時でも東別府が片方を支配者の眼を利用して動きを止めている間に同様の手順で倒していくだけだ。
彼らがもらった特殊能力によるものだけじゃなく、基礎能力も俺より数段上だからこそこんなにサクサク倒せているのというのを改めて見せ付けられてしまった。
「まあ、佐野がさっき見せてくれた烈炎の剣だっけ?ああいうカッコいいのが俺は欲しかったんだけどな。女神さんは地味なのしかくれなかったわ。」
東別府が不満を言うのを寺崎が「まあまあ」と抑える。
「佐野君のいう事が本当なら、僕達には自分達にないエネルギーを取り込んで適応する力があるようだし、そのうち凄いカッコいいのも出来るんじゃないか?」
「あーそうだな。おっしゃ!俺もカッコいいスキル手に入れるぞ!」
なんか東別府が勝手にやる気になってしまった。
「地味で良いんだよ、戦闘は…。だがそうだな。僕ももっと敵の刺客から一撃で決められるようなスキルがあるなら欲しいな。」
吉山が「そういう魔法とか、あるのか?」と有紀に聞くけど、有紀も「うーん…」と首を捻る。
「冒険者の中には盗賊も居るんだけど、彼らが使えるアーツにそんな感じのがあったようななかったような…」
盗賊、シーフ。ダンジョンには稀にモンスターではなくトラップが生成されるダンジョン階層があったりするが、それを見破ったり解除するのが彼らの職業らしい。
元々は冒険者ではなく犯罪者を示す単語として「盗賊」と言われていたが、その後「盗賊であっても冒険者として扱われるようになってからは冒険者の職業として盗賊と言われるようになったんだそうだ。
盗賊が盗賊行為していたのが「冒険者として認められなかった」ことが原因だったのか、その後は彼らによる犯罪はなくなったんだとか。
そんな訳で冒険者でも盗賊と言われる職業があり、彼らが使うスキルの中に吉山が求めるものがあるかもしれない、ということだ。
「なるほどね、検討してみるか。」
吉山は東別府みたいにはしゃがないけど、やる気あるみたいだ。
「佐野君達は物知りだね。僕達もウィル市でもっと情報集めしないといけないや。僕は魔法もっと色々使いたいし、ちゃんとした専門家とも交流持つようにして行こうかな。」
寺崎まで。
皆これ以上強くなったら俺との実力差埋まらないんだけど…。