クレス
<神城有紀の視点>
クレスさん・・・クレス・・・うーん。覚えてない。
というか、覚えているのは同じ魔女達の綽名、名前で呼び合うことは無いから綽名しか覚えてないけど。
それと、ボクが有紀と呼ばれる前もやはり「ユウキ」だったこと。
平民だったボクには姓はない、このクレスさんも名乗ってくれたときに姓は名乗らなかったし、彼も平民の出なのかも。
200年前・・・うーん、300年前に魔女となって村を出たけど、その後100年は鬼のようなシゴキを受けたり受けなかったりして過ごしてたし、200年前っていうとちょうど冒険者になった時かな。
このダンジョンは初心者向けダンジョンだから、当然ボクも潜ったけど・・・。
ああ、そういえばあの時にはもうボクを知る人は村には居なかったんだよなぁ・・・。
ボクは4人兄妹・・・だったはずなんだけど、当然皆亡くなっているし、子孫は居るかもしれないけどほぼ関わりもなかったからボクにとっては「他人」だった。
それでも「自分の生まれた地」は特別で、だからボクは転生のために自分の体を封印する場所にこの地を選んだんだ。
それはそうと、200年前のこのダンジョンで・・・か・・・何かしたっけ。
冒険者として一番多いのはナンパされたりパーティーに誘われた記憶だ。
女一人だからそいういうのは良くあるし、断るんだけど、コレがまたキツかった。
ナンパは人が集まるところでは必ずあったから「そういうのは結構です。」が定形文になってしまったし、断るというのは心が痛むから、ただでさえ人の顔を覚えるのが苦手だったけど余計覚えないようになっちゃったな。
パーティーに誘われるのはナンパの延長なのかな?っていうのもあったし、本心から心配してくれて誘ってくれるのもあったけど、前者はいつも通りの断りの対応をするし、後者に対しては丁寧にお断りする。
だから出来るだけ人目につきたくないな、と思いながら冒険者をしてきたんだよね。
今は修司と二人パーティーだから誘いもないし、カップルと勘違いしてもらえるからナンパもない。
視線は感じるけども、声をかけられないなんて幸せだ・・・。
良かった、修司が一緒に飛ばされてきてくれて、なんて言ったら彼には悪いね。
彼には召喚の際に女神の加護を受けられなかったから今こうしているわけだし。
ダメだ、全然思い出せないや。
とりあえずクレスさんの話を聞くことにした。
「当時、僕は駆け出しの冒険者としてアルカ村に来ました。もちろんこの初心者向けダンジョンでしばらく経験を積むためです。新人同士で臨時・・・要するにその依頼限りのパーティーを組んでダンジョンに挑んでいましたが、そのうち毎回同じ依頼でかち合う人同士で固定のパーティーを作り、より深く潜るようになりました。当時はこういった施設はありませんでしたから、結界を張って交代で見張りをして休む・・・といった感じでね。」
懐かしい、ボクもちょうど駆け出しだったから見かけてたのかも、というか彼の先ほどの様子から関わったことがありそうだね。
結界を使って休むときは複数のパーティーで協力しあうことが多かった・・・ような気がする。
ソロの冒険者はダンジョンの階段で休む人が多かったけど、ボクは一人で休める程度の結界作って休んでたかな。
本当に人と関わらなかった、いや、今も昔も頑張ってはいるんだけどね?
「最下層まで潜った日のことです。このダンジョンでは最下層にのみ存在する薬草がありまして、その採集依頼を受けて向かっていました。今もこの依頼は3層のギルドに掲載されていますよね?この薬草はポーションに加工すれば中級ポーションとなるのですが、数ある初心者ダンジョンではここでしか採集できないので依頼料もそれなりに良くて、僕らのクランの収入源の一つになっています。」
ボクも覚えてる。当時はラッキーリップスのように面倒を見てくれるようなクランはここには居なかったから、結構無茶をする冒険者が多かったから最下層での死亡率も高かったんじゃないかな。
梅酒のおかわりがきた。先ほどは良く冷えていて、今度は暖かい。
冷たいとサッパリして美味しいけど、暖かいとほっとする。
・・・ホットだけに・・・、いやなんでもない。
ボソっと言ったのを修司に聞かれてしまったようで、ジト目で見てる・・・。
クレスさんには聞かれてなかったよね?と思ったら彼も「聞かなかったことにしておこう」という雰囲気が出てた・・・。
スミマセン話の腰を折ってしまって。
「さ、最下層については魔女様もご存知でしょう?実は徘徊するモンスターは一体だけです。4層・・・まだ行かれてませんか?3層までの動物とは違い、4層はスケルトンと言う骸骨のモンスターが徘徊しています。魔石というものを落とすのですが、これは村の生活には殆ど使用されないので依頼は殆どありません。ただ、結界の作成に必要ですから、僕らのクランが2層の簡易休憩所の維持を目的としてギルドに依頼を出していますけどね。」
動物タイプや植物タイプは割と素材として重宝するけど、ゾンビだとか骸骨とかは魔石ぐらいしか目ぼしいものがない。確かに、肉とか落とされても困るしね。
「さて少し話がずれましたが、4層はスケルトンが徘徊しています。そして5層は一体だけ・・・巨大なスケルトンが徘徊しています。4層まで余裕あるパーティーですら・・・いや、そういったパーティーだからこそ5層も余裕だと油断してやられてしまうのですが、アレは明らかにランク2の冒険者パーティーが倒すレベルであって、ランク1の冒険者に厳しい。僕が当時組んでいたパーティーではそんな情報も知らず、4層のノリで5層に踏み込みました。」