再会2
「ところで、君達はなんでこの塔に来たのかな?」
寺崎が話を切り出す。
俺は別に隠す必要もないと考え、自分が所属しているクランがA組の動向を探ってくれている事と、その中で4人が覇者の塔で活動していると聞いた事を伝える。
「なるほどね。クランか…」
「いいじゃないか佳嗣!俺達も作ろうぜ!」
「いやいや、簡単じゃないでしょ。…ただ活動しやすくなる部分はあるのかな。」
「寺崎。作らなくても他のクランに所属すれば良いと僕は思うが。」
「吉山君の案もごもっとも。うーん、まずはクランと言うものをもっと調べてみたほうが良さそうだね。」
「へいへい、吉山も佳嗣も真面目だな。な?北角。」
「寺崎君の方針に従うさ。」
「はあ、お前も真面目だな。…っと、神城。」
東別府は俺達に近づく。俺達というか有紀にだけど。
「魔女ってさ、強いん?」
「この世界の中では強い。けど、キミらみたいに女神から加護を受けてる人のほうが強いとも言われてるね。」
「そっか、じゃあさ、俺と勝負しない?そういう『言われている』だけじゃなくて検証してみたくね?」
東別府が有紀に更に迫る。
…そして有紀は一歩下がる。
「いやあ…別に検証する気は…」
「ないかな」と言い終わる前に「いいからいいから」と腕をつかまれ、外に連れて行かれそうになる。
「おい、東別府!」
「ん?ああ佐野、ちょっとこの子借りてくな~!」
「待てって!」
俺は慌てて東別府を止めようとするが、吉山が前に立つ。
「待つのは佐野君、君だ。」
手で押される。軽く押されただけだ。
「っう!」
それだけで俺は転倒し、尻餅をついてしまう。
「佐野君。君は今冒険者のランクいくつだ?」
吉山が更に近づき、俺を見下げる。…立ってるときは俺のほうが背が高いんだけど。
「…2だよ。」
「だろうね。一方僕達はランク4だ。」
たったの4という訳ではない。冒険者としての期間を考えればこの上昇速度は異常だ。
「今僕は君を軽く押したが、この結果だ。…筋力が原因でないのは分かるだろう?」
そう、俺は押されこそしたが筋力の差で負けたとは思わない。ただ…
「力の流れを押さえた…?」
「そう、その通り。力の流れを見るのが僕の力だ。これはもっと成長すれば他も見通す力となるはずだ。」
力の流れというと有紀の龍眼も同類だけど、吉山の言う力の流れは恐らく魔力も筋肉の動きも全て含まれるのだろう。対人であれば有紀の上位相互か。
「君程度ランクがここに来ても正直死ぬよ。」
吉山のメガネがギラっと光る。
「ちょっと、吉山君。言葉悪すぎだよ。」
俺と吉山の間に寺崎が入る。
見ると北角の姿が見当たらない。東別府のほう行ったのか。
「ああ、北角君は倫史が間違えを犯さないよう付いていかせたから、神城君…いや神城さんに間違いは起きないよ。言葉が足りなくてごめんね、佐野君。」
寺崎が俺の手を取り立つのを手伝ってくれる。
「寺崎、俺はちょっと飲み込めないんだけど…。」
「うん。じゃあちょっと説明させてもらうよ。…っと、悪い目にあわせるつもりではないから、席に着いて食事でもしてよう。」
寺崎達は以前より「ランク0」の存在を聞いていたらしい。
そして魔女がランク0として扱われてるという点も知っていた。
「問題はね、佐野君。僕達の力がランク0にどのくらい通じるものなのか?あるいは足りないのであればどのくらい強くなれば良いのか?…そういう指標が欲しかったんだよ。」
4人はこの覇者の塔の登頂をひたすら目指し続けているが自分の強さの目安となる敵は居ても、最終的に目指すべきレベルはどのくらい高いか知らない。
人はゴールが分かればそれに向かって進んでいく事は出来るが、ゴールが分からないまま進むのは苦しい。
だからこそ尺度が欲しかったわけだ。
「けど、最初から話してくれれば良かったんじゃないか?…ていうか有紀は大丈夫なんだろうな?」
「それはごめん。倫史が突然行動しちゃったから…。でも神城さんを傷つけるとか、そういうのはないはず…。」
「寺崎君、そこは自信持って言わないと佐野君の不安は解消されないのでは?」
吉山がため息をつく。
さっきは厳しい態度だったけど、というか今も親しくはしづらい雰囲気だけど、俺の不安はちゃんと汲み取ってくれるしもしかしたら良い奴なのか?
「そうだね、佐野君ごめん。神城さんは大丈夫だよ。検証と言っても戦闘するわけじゃないからね。」
「ん?どういうこと?」
「これは僕達4人が女神様から与えられた加護の力が関係しているんだよ。」
寺崎がそれぞれがもらった能力を説明しようとするところで吉山が「ちょっと待て」と止める。
「勿論僕達の能力については説明する。だが、その前に佐野君に言いたい事がある。」
どうせ俺の弱さを指摘するんだろう…?別段自覚はしているし、今回もトカゲ1匹に全力戦闘だったから俺には覇者の塔は早いと感じているし、まあ罵倒されるのは仕方ない。
…と思ったら違った。
「ここから更に北に向かった2人が居るんだが、彼女達は北の王国へ向かうと言ってたぞ。千葉さんと山本さんの2人だ。」
「え?」
「いや、佐野君はどうせ『覇者の塔は早かった』と考えているんだう?それなら次は北に向かった2人の動向を探るだろうと考えたんだ。」
バッチリ俺の思考読まれてた。しかも俺が微妙に欲しいなと思ってた情報も教えてもらえたし、こいつ良い奴じゃないか?
「どうせ『良い奴じゃないか』と考えているんだろ…。失礼だな。」
「す、すまん…。」
「吉山君はストレート過ぎるから『性格がキツそう』と言われちゃうんだけど、結構クラスのこと考えてるんだよ。この前も『何とかして皆を合流させられないか』なんて…」
「おい、寺崎君!やめろ!」
吉山は珍しく顔を赤くして声を上げる。
なんだ、いい奴じゃん。
「・・・まあそういうわけだ。千葉さんも山本さんも戦闘向けの能力ではないとクラスで浮いてしまってたからな。」
「僕達とは途中まで行動一緒にしていたけどね。彼女達も世界を救い、元の世界に戻るという意識は持っているんだけども。」
まあね、少なくともこの2人と北角は誰かを貶めたりしないし、戦闘向けじゃないということでグループから外された(らしい)2人を拾う事は普通にするだろうな。
あ・・・一応東別府も女子相手なら拾うか。
「ただ彼女達は自分の能力を活かしたいと、僕達からも離れて行ったんだよ。勿論自信をつけたら戻ってくると約束したけどね。」
寺崎は彼女たちの事は心配要らない、という顔をしているけど…
「いや、寺崎。あの二人は戦闘問題ないの?能力は非戦闘系なんだろう?」
「少なくとも今の佐野君よりは強いぞ。」
吉山が即答する。まじか…
「まあただ様子を見てきて欲しい。…あの二人は僕達が塔を攻略する上で重要な人間の一人だから。」
「吉山…」
「一応君もだ。」
吉山はテレながらも俺を見る。いい奴過ぎだろ~!
「吉山ぁ~~!」
「うわ、やめろ!キモいな君は!」
逃げられた。




