再会
俺達は1層にある簡易休憩所に到着した。
簡易…と言っても施設は割と揃っていて、宿泊も出来るしアイテムの売買も可能だ。
食料やアイテムの補給は数日に1度のペースで行われているが、この護衛はこの簡易休憩所を守っているクランや関連クランに対して指名と言う形で依頼業務が来るため俺達野良(一応クランに所属してるけど)には護衛任務の依頼がやってくる事は無い。…まあ受けることもないんだろうけど。
あれから更に数戦し、休憩を繰り返して何とか到着したわけだけど、俺達を通り過ぎた冒険者達は普通に倒せてるわけだよな…。
そう思うと俺自身の力不足を実感せざるを得ない。
「でもダメージは受けてないよね。防御は相当しっかりしてるわけだから、あとは気の出力の問題じゃないかな…」
有紀がそう指摘する。
確かにウォール2枚展開とアヴォイドを利用すればトカゲからのダメージは防げるようになっているので、防御や回避に関しては1層で上手くやれてると思う。
ただ俺と有紀はお互い温存した戦い方ではトカゲを倒すだけの火力が出せないという問題がある。温存せず力を出し切った結果、俺はこんな風になってるんだけども。
一方有紀は魔女の姿となって戦っているものの、微妙にそわそわしていた。
…今もそわそわしているような…。
「さっきからその姿でそわそわしているように見えるの、俺だけ?」
「ん、修司は気づいてたんだね…」
「うん、なんか落ち着かない感じだな、と思ったんだ。何があった?」
「実は…」
有紀は主人格を嫌っているわけでもない。入れ替わりが起きても別に彼女自身はそれを受け入れている。
「けど、あの子はボクの知らないところで修司にエロ目使うでしょ…?いや、ボクなんだけども、なんていうか知らないところでそういう行動取られると人格戻ると気まずいんだよね…」
「あー…」
主人格の有紀はもっとストレートに迫ってくるタイプだ。昔を知る人にとっては驚きの光景らしいけども、彼女は魔女会の間も俺に密着してたんだよな。
有紀の肉感凄く柔らかくてよかったなあ…。
「待った、何か変な事考えてない?」
おっと、顔に出てた。
「そんな事は無いぞ。そ、それで?」
俺は続きを促す。
「この姿になると、あの子の感情?見たいなのが少し流れ込んでる感じでね。なんていうか…」
と、有紀が顔を少し赤らめる。
「うん?あの子の感情…、っていうのはどういう感情?」
俺は鈍感系主人公ではないので、何となくだけど俺に対する感情だろうなっていうのは推測つく。
その上で言わせるつもりで聞く。
「うー…」
「有紀、俺は心配なんだよ!お前に何かあったら困るぞ!」
真剣な顔をして有紀の肩を掴み、見つめる。
この演技力、どや!
「ふぁ…修司…」
「うん、ちゃんと言ってみろ。」
「ええと…」
ますます赤面させる有紀。いやあ、この顔良いですね!!
と思ったところで「あれ?佐野君じゃないか」という声が掛かる。
「え?あ、て、寺崎?」
振り向くとそこには寺崎と仲間3人が立っていた。
「おいおい、お前、ナンパかよ。女の子めっちゃ恥ずかしがってるじゃん~!」
隣に立っていたチャラい感じ男…東別府 倫史がニヤニヤしながら俺に近づく。
東別府は俺と同じくらいの背だが茶髪にマッシュスタイルで髪型を決めて、この世界の服を着こなしているイケメンだ。顔立ちも日本人らしからぬ掘りの深さでぶっちゃけモテる。
「いや、東別府…。違うんだ。こいつは…」
「いいからいいから、ちょっと佐野、離れとけよ。」
俺は強引に腕を掴まれ、有紀から剥がされる。
てか、力強いな!
俺はよろめいて転びそうになるところを寺崎が抑えてくれた。
「大丈夫?でも佐野君、女性にそんな風に迫るのは良くないよ。」
寺崎にまで注意された。
「いや…だから…」
俺が言い終わる前に東別府が有紀に声をかける。
「大丈夫?アイツ俺達の仲間なんだけどごめんな~、怖い思いさせちゃっただろ?」
話しかけながら有紀の背中を(衣装的に背中は素肌なんだけども)撫でる。
有紀は顔を引くつかせつつも軽い笑顔を向ける。
「大丈夫というか、東別府君も直ぐ手伸びてるからボクとしては微妙な気持ちだよ。」
「あれ?俺の名前は…ああ、今佐野が言ったか。でも俺のこと知ってるような感じだけど、会ったことないよな?」
東別府は手を引きつつも有紀のことをじっと見る。
と、有紀は目を逸らす。見つめられるの苦手なんだよね、彼女。
「いや、ボク神城だよ…、神城有紀。」
「は?」
東別府だけじゃなくて他の奴らも驚いてたけど、俺達は早乙女先生でその反応見てたし、もう驚かないわ。
「はー、なるほどな。」
普通なら信じられないような話でも、彼らは自分達に起きた話を踏まえると疑うということはしない。
まあこれが自分たちの生死に関わるならもっと検証したりするんだろうけども。
今俺達は拠点の休憩所に座って話をしている。ここには作戦会議も出来るような個室がいくつかあり、その一室を借りている、と言うわけだ。
「でも神城可愛いじゃん、その衣装が魔女の衣装なんだ?」
と東別府は当然のように手を伸ばす。
「あ、ちょっとそういうのは止めて…」
有紀は身を翻し俺の背中に隠れる。そりゃね、知り合いに対していきなりこの格好っていうのはなんとも恥ずかしいよな。
「いいな、佐野は。俺達4人男だけだぞ。」
東別府が言うように、寺崎の他にいるのは学力万年3位…男子では2位の吉山 隆之と、学校でも寺崎のサポートに徹していた北角 道明だ。
吉山は「ふん!」という感じで俺達を見下している、眼鏡に七三分けの「いかにも嫌味ったらしい優等生」という感じだ。
一方で北角は俺達の話を聞いても表面上は動じておらず、時々ジっと俺を見るぐらいか。こいつはガタイは良いが目立つ事をせず、昔から寺崎が先生達からおわされる膨大な仕事を手伝ってきている寺崎の優秀なサポーターだ。そういえばコイツだけは有紀の正体ばらしても動じてなかったな。
「おい、佐野…。俺がこのパーティーに居るのがおかしいって顔してない?」
「ふぁ!?し、してないぞ。」
いや、してたんだけどね。
真面目ナンバー1の寺崎、そのサポート役の北角、寺崎をライバルとしている吉山、まあこの三人は予想通りだったんだけども…東別府が居たのは確かに俺は予想外だと思ってたんだよね。
何せ彼は学校での真面目さは下から数えたほうが早い。というか色んな学校の女の子と遊び歩いてるって話も良く聞くだけに不良グループと一緒に動いてる印象だった。
「はは、佐野君がそう思うのは仕方ないよ、倫史。」
寺崎が東別府を抑える。…って人を「君」とか「さん」で呼ぶ真面目な寺崎が東別府を下の名前で呼び捨て!?
「あ、ごめん。佐野君を驚かせてしまったね。実は倫史と僕は従兄弟なんだよ。」
ふぁ!?
「ああ、そうか。俺達の話は殆どの奴らがしらないんだったな。佳嗣の言う通りだぞ。」
「そういう風に見えない…」
ひょこっと俺の背中から顔を出して有紀は感想を言う。
「おー、やっぱそう思うよな!」
有紀に話しかけられたときだけあからさまにニカっと笑うのやめろや…。言わないけど。
しかし、なるほどね。身内だからこそ一緒に行動するのは何となく分かるわ。
「まあ、佳嗣と違って俺はここの生活嫌じゃねーけどな。女の子のレベル高いし。」
「倫史、君はまた…大体この前も…」
「うるせえな、俺は困ってる女を放って置けなかったんだよ!」
なにやら二人で口論を始めているが、吉山と北角の二人は「いつもの事か」とため息をついている。
このパーティー良く続いてきたな…。