晩餐会3
早乙女先生は召喚された日に「世界を救う」という任務を皆が受けたことを女神達から聞かされたらしい。
だが、実際に世界が崩壊するのは数百年後の話であり、危機感が沸きにくかったため、A組の皆は「異世界を堪能しよう」という事になった。
しかし時間が経てば飽きてきた人も出てくる。「そろそろ帰りたい」という意見も出てくるし、与えられた能力の差から足並みをそろえるのが徐々に難しくなってきてしまったわけだ。
今までは早乙女先生が抑えてこれたが、やはり「能力」のある者は徐々に先生がまとめようとしても聞かなくなってくる。そりゃね、自分のほうが優れた人間になったら「俺の自由に動く」と言う人も出てくるだろう。
ちなみに早乙女先生は彼女自身には戦闘に関する能力は与えられ無かった。
それもまた「実力主義」の奴らが従わなくなる原因だったみたいだけどね。
「あの時は辛かった。私がどう頑張っても徐々に纏まらなくなってくる…。急に崩壊するんじゃなくて徐々に…この世界と同じようにね。」
この世界も徐々に崩壊しているし、それと俺のクラスメイトの仲が崩壊していくのと重ねて余計辛かったのかもしれないな。
「丁度その頃、ジョスが私を口説きに来ててね。彼の夢に惹かれていったの。」
「真央子のことは一目ぼれだよ。…そして俺もまた俺の夢を理解してくれる人が居なかった中で真央子だけが話を聞いてくれたから、益々好きになってしまったんだ。」
ジョスの農業は少なくとも王族・貴族にとっては「何でそんな事してるの?」となるだろうし、煌びやかな舞台で生きる貴族の女性にとっても魅力はないだろう。彼はそうやって家庭を持つ事を諦めながらも夢を追ってきたわけだ。
ただ、それならクラスメイトに説明してから抜ければ良い。無言で消える必要はない。
ジョスの夢を聞いて落ち込んでいた気持ちをまた奮い立たせてクラスメイトのために動く。
落ち込み、立ち直り、またクラスをまとめようと奮闘する。それを何度も繰り返す。
立ち直るというのは100%元の状態に戻るわけではない。落ち込むたびに心に亀裂が入る、少しずつ。
そんなある日、彼女は聞いてしまったわけだ。
「クラスの女の子達が、私のことを嫌っていたのね。…言い方を変えると彼女達がクラスが纏まらないように工作していた、という事。」
思い浮かぶのは3人居る。
東原 美恵。クラスのマドンナ的存在。先輩や男の先生からも迫られた事があるらしい。実際のところは知らない。ただ自分が「一番人気あるべき」と考えてるからこそ、以前よりクラスの男子が早乙女先生に惹かれてるのを良く思ってなかった。
あとは東原さんの取り巻きかな。取り巻きと言っても人気は高い。変な話俺のクラスを除けば、学校で「美少女コンテスト」なんて開いたらこの3人は絶対上位に入る。…まあ今なら有紀もこの3人より上に行く可能性あるけど。
ただ、性格は3人とも良くなかったようだ。俺は全然触れてこなかったから知らなかったけど。
そして早乙女先生もしらなかったわけだ。
そりゃそうだ。彼女達が裏で工作しようにも男子の一部は早乙女先生派だからそこで揉めて「あの3人は地雷だな」なんて認定されたらまずいし、俺達の世界のときは大人しくしていたのだろう。
だが、この世界では違う。彼女達も何らかの能力を与えられたのだろうけど、それを利用して上手く早乙女先生が心折れるよう細工をしてきたんだろうと思う。
まあ真相は不明だけどね。
「私はその話を聞いてしまって。完全に心が折れてしまって…だから逃げてしまったの。ごめんね。」
「…いや、俺達その場に居なかったからなんとも言えないや。」
結局、早乙女先生はクラスメイトを纏める自信がなくなってジョスのところへ逃げてしまったわけだ。
無理もない。努力を踏みにじられたらそうなるよね。
ただあれだ。
仮に彼女が奮闘していても、多分徐々に崩壊していってたと思う。
戦いに強い人、そうじゃない人の格差も開くし、元々のスクールカーストもあったし。差が開けば開くほど「お前は役に立たないから要らない」みたいな排除が始まるだろうし、それはもうどうしようもない話だ。
「ちなみに先生はどんな能力を授かったの?」
有紀は興味半分で質問する。が、俺も気になっていた。
女神達から貰えるのはどんな能力なんだろうか、と。
「うーん…ちょっとここでは…」
チラとジョスさんを見る。
「俺は邪魔になるということかな?少し席を外そうか。」
気の効く男はその場を離れていった。ジョスには聞かせられない話なのかな。
早乙女先生の貰った能力は「自分の未来を見る」という能力で、戦闘向けではないとのこと。
「いや、戦闘向けじゃない?」
俺は思わずツッコミを入れてしまった。
「そうじゃないのよ。見るというのもなんていうのかな、ゲームのように分岐点があって…その選択の結果、自分がどのルートに進むのかわかる、という感じね。戦闘向けじゃないのはその選択肢を選ぶだけの時間的余裕が無いから、って感じね。」
「先生意外とゲーム詳しいな。」
「BLモノやってたから…」
「あ、はい…」
早乙女先生は選択肢によりジョスさんを選ぶルートを選ぶためにクラスメイトを置いていく選択をした、ということだ。
まあ心折りに来てる生徒も居るしね、そこで分岐点があってルートも分かるならそうなるか。
「ちなみにジョスさんについて行かなかったら?」
「一生独身ルートね。」
わお…そりゃそっち進まないな。
「私の友達も結婚や、結婚まで行かなくても付き合ってる人が居るっていう状況で自分だけ彼氏できたことないのは心苦しくて。このまま私を貶めようとする生徒のために頑張っても自分の結末が独身…ていうのはなー、と思っちゃって。」
先生はシュンとする。けど…
「先生、ボク達は冒険者として生活して来てるけどね、自分が得するように動いて、余裕があったら他者を助けるというスタイルはこの世界では普通なんだよ。先生が損するのにクラスメイトのために動く必要はないし、自分を優先したところでジョスさんも含めてこの世界の人は別に批判しないよ。」
俺達の世界では「人が困っているのに自分だけ楽するのか!」と怒り出す人も居るけど、本来はおかしな話だ。
本来なら自分自身の安全が確保された上で他人のために動くのが普通だ。勿論自分の命を賭けるかどうかは自身が判断する分には構わないけども、他人に強要されるものではないはずだ。
早乙女先生が自分の幸せを優先したことを誰が咎められようか。なんてね。
まあ少なくとも俺や有紀は早乙女先生の選択の結果クラスが崩壊したことについては別になんとも思ってないけど、それを彼女の口から聞けたことで満足できた。
「やっと、A組関係者に会えたのも良かったね、修司。」
「そうだな。早乙女先生は他の奴らどこ行ったか知ってる?」
「え?ええっと…ごめんなさい。一番最初に脱落したのが私だから、分からないの。」
そりゃそうだ。
じゃあ、暫く滞在して覇者の塔1層でもウロウロしておくか。
寺崎が居るらしいし。