晩餐会2
食事も進み、そろそろ行動しよう…と周りを見る。その目的の人物である早乙女先生が割と直ぐ側に居た。
「うお、マジで居たぞ!」
「本当だ。」
「いくか?いや、待て、お前は留守番か…?」
「なんで?って、あ…そうか。」
有紀が早乙女先生の所行っても「誰?」となるのがオチだ。というか、姿を晒せば周辺の人からも有紀の姿が目に付くし、そうなれば折角ステルス食事してたのに意味がなくなってしまう。
「よし、俺だけで行ってくる!」
「残念だけどそうしてもらえる?」
いや、残念そうに見えないけどね。普通にスイーツに手だしてるし…。
「早乙女先生」と俺は女性に声をかけると、凄い勢いでこちらを振り向く。
「え?え?…佐野君!?アナタ何でここに!?」
確かに俺がここに居るのは正直場違いだけど、驚きすぎじゃない?
「いえ、違うわね。佐野君、アナタもこの世界に来ていたの?アナタと神城君だけ居なかったから、アナタ達二人は呼ばれず元の世界に残っているものとばかり…」
「いやあ、実は俺は別の場所に飛ばされていたみたいで。お陰でどうしてここにいるのかサッパリ分からなくて…。それで『王都ならそういう情報が得られる』と聞いてやってきたんです。」
俺は咄嗟に嘘をつく。いや、僅かに本当のこと書いたけども。
「そうなんだ。あ、じゃあ神城君は?」
「ああ、こっちですよ。行きます?」
「えっと…」
と、先生は隣に居た男に視線を送る。
恐らくこの人が国王の甥かな。金髪に解けば肩まであるだろう髪をオールバックにして、黒いスーツを着ているが、このスーツは俺のものと比べても艶があり質感的には有紀たちのドレスよりも数段階上のランクの素材を使ってるのが推測できる。
ただ、それで居てあんまり目立たない…というよりも、目立たないように振舞っているのか、周囲の人は彼には寄って来ない。いや、既に必要な挨拶は済ませたからかもしれないけど、それでも他の人たちは食事よりも会話優先と言う感じなのに対して、彼はそんなに他者との会話してないしね。
「ああ、ジョス・ジョスラン・ダースだ。ジョスと呼んでもらえるかな。…君も真央子の教え子なんだね。」
ジョスさんと握手を交わす。手…そこから読み取れる情報は実は結構多い。例えばタコの有無…とか。
俺は剣を振るようになったことで手のひらにタコが出来るようになったけども、長時間振るわけでもないのでタコが大きくなるという事もない。ちょっと剣術やってるのかな、と思われる程度だな。
「剣か何かしてます?」
ジョスさんのタコは大きく、見た目は優男風なのに手はごつごつとしている。見た目に反してそれだけの時間武器を振ってきたのだろう。
「いや…恥ずかしながら、俺は農業をやってるんだよ。地表でも美味い作物が出来るのではないかと思ってね。」
武器…というか鍬だったか。しかし農業と言うのもイメージが付きづらいな。王族だろう?
俺の思った事を口に出す前に早乙女先生が俺の疑問に答える。
「王族と言っても『アレをしなきゃダメ』とか『コレをしちゃダメ』とか、そういう決まりはないのよ。ジョスは王位なんて興味なくて、ひたすら夢を追う人なの。」
夢…ジョスさんの夢は地上でもダンジョン並に美味い作物の大量生産をする事らしい。
そのために畑を耕し、手入れして、品種改良まで日々努力をしている。
すばらしい事だ。彼の研究が実ればダンジョンが無い地域でも食料の問題が多少改善されるし、それは地域格差を埋める助けになるかもしれない。
なるほどね。
「先生はジョスさんの夢を追うところに惚れたんですか?」
「…そうね。最初はそんなつもり無かったのよ。A組の皆を大人として守らなきゃいけない…て思ってたから。」
早乙女先生がA組がバラバラにならないよう繋ぎとめていたのだけど、彼女が離脱した事で崩壊したんだ。
「なぜ、誰にも言わずに?」
「…まずは神城君と会いましょうか。皆には言わなかったけど、アナタ達には伝えておきましょう。」
「…おい、有紀…」
有紀の居るところに戻ったら、彼女はスイーツ各種盛り(のようになってる皿)を堪能してた。
どんだけ食ってるんだよ。
「げ!いや、修司お帰り。…と早乙女先生、お久しぶり。」
「え?佐野君、神城君はどこに?」
「コイツです。実は…」
俺は説明する。有紀に説明させてもいいんだけど話の流れ的に俺がしてしまったわけだ。
「へぇ…そういう事あるのね。ということは今アソコに居る魔女さんたちと同じってこと?」
「そうだよ、先生。だけどボクは人前出るのが嫌だからこうやって隠れてるんだよ。」
有紀も流石に食べるのを止めて、先生と挨拶を交わす。
「神城君…いや、神城さん。俺はジョス・ジョスラン・ダースだ、よろしく。」
「よろしく、ジョスさん。」
ジョスさんとは握手を交わす。そして「剣術でも?」と俺と同じことを言う。
「農業だよ。」
俺が横から付け加える。
「なるほど、王族だからって王位に興味持つ必要はないしね。」
「ふむ。真央子、君の教え子達は優秀だね。」
「私は何もしてないのよ、ジョス。皆が皆自分たちの出来ることをしてきた結果よ。」
さっきからこの二人はベタベタと触れ合っててバカップルに見えて仕方ない。いや、カップルなのは正しいか。
「それで早乙女先生、みんなの前から突如消えてしまった理由って?」
俺は多少強引に本題を引き出す。
「…そうだったわね。んー…まずは召喚された日のことから話しましょうか。」