王様と会う
城についてからエミリー経由でトントン拍子に話が進んだ。
俺達としては暇があるときに話できれば良いと考えていたが、急遽謁見の時間を与えられた。
スケジュール調整しまくったようだけども、逆に俺達に与えられた条件は「翌日の夜に行われる晩餐会への参加」だった。
…まあ俺達って言うか、俺以外…かな?異世界から来たということで俺自身も価値はあるかもしれないけど、現時点では俺よりもここに居る魔女3人のほうが圧倒的価値を持っている。
「ランク0を招待した」というステータスは貴族にとっては重要なものだけども、それが今回は3人というのは国王には「謁見すれば魔女3人とのコネクションが得られる」という非常にメリットに溢れた話なわけだ。
そりゃ、何よりも優先するよな。
謁見・・・と言っても今回は昼食を兼ねてフランクなものだった
予め俺が女神から召喚されたものであることを伝えていたのだろう、その辺の話をじっくり行うために国王自ら提案してくれたらしい。
ディナーとは違ってランチは割と小ぢんまりとした部屋で行われた。…まあ小ぢんまりって言っても俺達4人、側近として大臣が2人、国王と王妃、そして周囲を近衛兵4人が待機しているわけでそれだけの人数が収容できるぐらいの部屋なんだけども。
「今回は時間を作ってくれてありがとう。」
普通にエミリーが国王に話しかける。国としては国王のほうが偉いんだけど、世界規模で見るとエミリーの方が立場は上か?まあその辺のパワーバランスは分からないんだけどね。
「いや、こちらこそ招待に応えて頂けて感謝する、次元の魔女よ。」
国王…60台に見える男はそう答える。
「以前、晩餐に呼ばれたときには先々代…かな?」
「その位か?」
国王は大臣を見る。大臣は老人と国王と同じ位の2人…そして老人の方が返事をする。
「いえ、3代前です。国王よ。」
老大臣は書物を見ながら答えているので、そういう記録が残ってるのだろう。記録に残す程には彼女達の扱いは重要視されているという事になる。
「さて、ええっと、佐野君…かな。ヴィルヘルムでは苗字が先だからそう呼ぶのが正しいのかな?」
「え、えっと。どちらでも構いません。」
いきなり話を振られて俺は戸惑う。本当に不意打ちだったから、うっかりフォークを滑らすところだった。
「君はそこの龍眼の魔女様と共に女神様に召喚されたそうだね。お陰で『A組』と別々になってしまった、と…。」
「そうです。彼女は向こうで『神城有紀』という名前で過ごしていましたが、一緒にこの世界に転送されてしまいまして…。」
A組…俺や有紀が居たクラスがA組だから国王はそう呼んだのだろう。誰かが自分の集団を「A組」と国王に伝えたのかな。
その後の話も国王にしておく。ついでに有紀についても。
「先輩、向こうでは男の子だったんですね。…一緒に転生すれば良かったですね。」
「そうだよ。でも翡翠…キミ、もしかして同性愛者なのかな?」
「いや、違いますよ!でも先輩の男姿見てみたかったなって…。」
翡翠と有紀が俺の横で話してるが、スルーする。
「それで、A組の他の人はどこに?」
「ああ、そうだね。その話をするための時間だからね。少し長くなるから、食事でも取りながら聞いて欲しい。」
国王の話では、最初に召喚されたときにはクラスメイトはちゃんとまとまっていたらしい。
「他の少年少女よりも10は年上の女性が皆をまとめていた」との事だから、早乙女先生が自分も混乱している中でまとめようと頑張っていたのがイメージできる。
その後国王と話をし、彼らのために部屋を提供したそうだ。
「最初は彼らは自分の力に対する戸惑いはあったようだけど、同時にこの世界に対する好奇心も持っていたようだ。」
国王は話を続ける。
「だが、2ヶ月ほどすると、各自に与えられた女神様の加護による差が出始めてきた。戦闘向けかそうでないか…。同じことをしていても、やはり前者のほうが戦闘による成長が早く、どうしても戦闘能力に差が出てしまう。」
どうやらその辺りから徐々に派閥同士の感情悪化が始まったらしい。
2大グループはリーダーやその周辺の活躍によって階級を作り、勢力内の上下を作りグループを維持してきたようだが、恐らく片方は非戦闘向けだったのかもしれない。
パワーバランスがそこで崩れ始めたわけだ。
ただ、このときはまだ担任が頑張ってまとめてくれていたようだけども。
「そして、それから更に2ヵ月後…。皆をまとめていたはずの早乙女さんがこの城から出て行ってしまったのだ。…原因は私の甥にあるのだが…。」
国王は申し訳なさそうな顔でこちらを見る。
いや、見られてもなんて返事すればいいか分からないんだけども。
「俺達は皆がバラバラになってしまったことを咎めるために来たわけじゃないんです。何があったのか…それが知りたいんです。」
何とか答えを出せた。有紀が答えてくれると楽なんだけど…。
チラっと見たら目を逸らされた。こいつ…やっぱり自分から話切り出せないガールか!
翡翠とエミリーを見てみると、エミリーは話は聞いてるんだろうけど出されたスープを飲んでるし、翡翠は王様を時々チラっと見つつもやはりゆっくりと食事を取ってる。まあ2人にとっては俺達のクラスメイトの出来事はそんなに重要ではないしね。
「勿論、その話もしよう。だがちょっと待ってくれ。私も飲み物を…。」
国王が近衛兵に耳打ちをするとグラスに飲料を注ぎ、国王の前に配置される。
水のように透明だが、シュワシュワと泡が出てる…。炭酸かな?
「佐野君、これは君の世界にもあったと思うが『炭酸水』だよ。君の仲間が教えてくれたものだけど、これは口ごたえ面白い。」
同じように俺達にも配膳される。
「あ、これ。家庭科の授業のときに作ったことあるな。」
「そうだね。これ懐かしいね。」
俺達は一口飲んで気づく。これは俺達のクラスで料理を作ったときに誰かが作ってくれたんだよな。
炭酸水…と言っても、クエン酸と重曹を混ぜて作るだけのお手軽炭酸水だ。
「君達の世界の…と言うほど仰々しいものではないが、私が君達から教えてもらった面白い知識の1つだよ。」
国王も口に含み、炭酸の刺激を楽しんでからゴクっと飲み込む。
エミリーも俺達同様に炭酸水を飲んだ事があるので「おー」と関心している感じ。
翡翠だけは「うわあ~」と驚きながら飲んでいて、反応が可愛らしい。それを見て少し微笑んでる有紀もきっと俺と同じ事考えてるんだろうな。