帰り支度3
「異邦人の行動を確認してもらっていますが、彼らは専ら覇者の塔の1層および2層でしか活動を行っていません。」
1層や2層は俺がココに滞在している間に通っていた月にあるダンジョンの15層と同じモンスターの強さらしいので、俺も苦戦することなく動けそうだ。…と思っていたけど、違った。15層で一度も挑まなかった「キング」と「クイーン」の強さと同じらしい。それは…倒せなくはないが苦戦するだろう。
兎も角そのくらいの強さのモンスターが居るところで日々活動している4人が居るらしい。
「現在彼らは『女神の剣』というクランに所属しています。リーダーは…確か『てらさき よしつぐ』という方ですね。」
「寺崎か。」
「寺崎君かー。」
俺達は同時に呟く。と、同時に何となく色々理解した。
寺崎佳嗣。クラスでは学力トップで生徒会の副会長をやってる、所謂真面目キャラだ。
見た目も真面目だから静かな雰囲気と相まって精神年齢が20歳超えてるんじゃないか?と思わされる。
多分残りは彼をライバル視していたり、あとは尊敬していたり…そんな感じで付いてきた人だと思われるが、思い当たる節はあるけど確定までは行かないな。
ただ彼は実際には人の上に立つタイプではない。生徒会所属も1年の頃に「立候補させられた」結果、2年になって副会長に昇格しただけだし。
そして派閥についても俺の知る限りでは所属していなかった。彼はその頭脳と思考が他よりも優れていたから人から頼られる存在だったし、別に派閥に所属しなくても孤立する事もなかったけども。
ただ逆に寺崎はスペック高すぎて派閥に引き込もうとするグループは居なかった。引き込めばリーダーの座を奪われるのは必至だからだ。
彼のことだから考えてるのは塔の攻略と女神との約束を果たして元の世界に帰還するということだろう。とにかく目標に向かって途中で断念せずに進むのが彼、寺崎佳嗣だ。
「寺崎の事だから、クラスがバラバラになっても自分だけは女神との約束を果たすと考えているのかな。」
「凄く真面目だからね。修司みたいに授業中は寝てないし。」
「寝てるのはたまにだよ、たまに!」
「じゃあもう戻ってもノート見せなくても良いかな?」
「…見せて。」
「もう、真面目に授業受ければテスト直前に焦らなくて良いのに…。」
「は、話を戻そう。寺崎は自分だけはまっすぐ進む事を考えていると思うけど、あるいはクラスメイトが覇者の塔へ挑みに来たときにすれ違いにならない様にウィル市で活動しているのか…。」
俺は寺崎の思考を想像してみるが、まあ分からないね。
どちらにせよ彼は他の3人とウィル市で活動しているという事実があるわけだから、王都に行ったら一度ウィル市に行こう。
「という情報までです。でもここまでバラバラに動かれると本当に情報入手難しいですね。北に向かった2人もどういう理由で動いてるのか分かりませんし。」
翡翠が軽く愚痴る。いやあ、本当すまんね…。
しかし、何故こんな風にバラけてしまったのかが謎だな。
担任の先生は若い女性だけど、それでも熱意があって親身になってくれるから生徒からは人気だった。この先生に迷惑かけたらいけないという気持ちで皆が一致してた部分はある。…もしかしたら、その共通意識が「表面上の仲良し」を演じ続けてこれた要因なのかもしれない。
「早乙女先生…かな。」
有紀がボソっと言ったのを俺は聞いた。
「偶然だな、まさに俺も同じ事を考えてたよ。」
早乙女真央子という俺達の担任の先生が居た。27歳独身…だったかな。彼氏も居なかったはず。顔も悪くは無いがスタイルはあまり良くなかったか。
それでも俺達生徒には人気だった。「大人に理解されない」という中二病じみた荒れた心を持っていた不良達にも熱意を持って話しかけてくれた。不器用だったけど、その分常に俺達のことを考えて動いてくれてたから、不良達も大人を見下してるような女子達もこの早乙女先生には心を開き、逆に協力していくようになったんだよな。つまり…早乙女先生が居たからこそ俺達のクラスは裏の派閥争いは兎も角、表面上纏まっていたわけだ。
「先生も恐らく召喚されているとは思うんだけどな。同じ教室に居たでしょ。」
そう、あの日…暑いなと思ったけど、そんな中で授業を熱心に行ってた先生が彼女だ。クラスメイトが召喚されているなら彼女もまた召喚されているはず…。
「召喚から漏れた?もしくは俺達みたいに別の場所に?…後は一緒に召喚されたけど何かあったのかもしれないな。」
「そうだね、その辺も王様に聞いてみる?20台の女性居なかったか?って。」
そうしよう。多分先生が居ればまた纏まる可能性もあるしね。
「次元の魔女様の話だと明日に王都に行くにしても、王様に会えるのはその翌日になるみたいですね。急な面会でも枠を空けて貰えるのはやっぱり次元の魔女様のお陰ですねー。」
仕事には当然ながら優先度が存在する。その優先度に基づいて行動順序を決めていくわけだけども、既に埋まってるはずの予定にねじ込めるほど国王にとってエミリーは貴重なわけだ。
面会時間を作れば後日行われる晩餐会に参加する、というような条件なのかな?そこは細かく分からないけども。
「さて、修司。ちょっとここに立ってくれる?」
俺は今、何故か壁に手を付いてケツを有紀に向けてる。
なんだこれ?
「いやね、昼間のセクハラの仕返しは夜にしっかりしとかないと、って思って…。」
ヒエ…。有紀、怖いんだけど…。
有紀がこちらの人格に戻ってきてから、最初は恥ずかしがっていた行為もだんだん普通にこなすようになっている。まあ、手でやるだけだしね。
「いつもは寝たままで良いよって言ってるけど、今日はこの姿勢で頑張ってね、修司。」
下半身裸でケツを向けるのは何か冷静になると凄く恥ずかしいんだけども。
詳細は省こう。結論から言うと俺は寸止めを繰り返され耐える事を強いられたのだった。
※現時点のステータス
佐野修司 ランク2
ステータス
筋力:90
敏捷:90
体力:80
魔力:100
スキル
魔術:ブラスト、フレイム、ロック、ウォール、バインド、キープ
ミスト(暗闇、沈黙、傷、酸、吸収の効果あり)
魔法:ハードスキン、アヴォイド
アーツ:パワースラッシュ、パワーストライク、カウンターシールド、烈炎の剣
その他:陽の力、陰の力