修行して…2
ちなみに有紀とは対称に俺のほうは割と上手く行った。…これが有紀が凹む原因となっているのは否めないけどね。
陽光の魔女は太陽の、新月の魔女は月の発するエネルギーを利用する。そして俺が行ったのはこれらの力を俺の魔力と融合し適応させるという修行だ。
融合させるのは俺のヴィルヘルムの人間としての特殊能力だし、苦労しないだろう…と思ってました。
無理だった。
そもそもそのエネルギーを感知できなければ捉えようがない。
瘴気や俺に吸収された謎の魔力とかは視覚的に捉えられたし、環境に適応しようとした俺の能力が上手く働いたけど、2人のエネルギーは「日常にごく普通に存在しているもの」だからこそ感知することが出来ない。
俺達は酸素を吸うわけだけど、大気中の酸素が占める割合は21%らしいね。でも「あ、今ここの濃度は20.8%だわ」「こっちは21.2%だ」とか認識できるなんてことはない。極端な差があれば「息苦しい」などの自覚症状で酸素が少ないとか分かるだろうけども、微妙な変化があっても気づけない。その位「当たり前」のものに対して認識しろっていうのは難しいと思う。
俺の場合はその感知だけに修行の9割を費やすハメになったわけだが、そのお陰で感知に成功することができた。外部のエネルギーを自在に操る…というようなカッコいいことはできないが、俺自身の魔力と融合させる事で俺自身の魔力を別のエネルギーとして利用することが出来るようになった。
「まあ上手く行ったと言って別のエネルギーとして利用できる割合はごく僅かなんだけどね。」
「それでもいいほうでしょ。魔力以外の力を利用できるというのはこの世界では貴重なんだよ。」
有紀は半分ふて腐れながら言う。相変わらず上手く魔力圧縮できてないみたいだ。
陽光・新月の2人の魔女が持つ力はそれぞれ陰陽で示す事が出来る。
前者が陽、後者が陰…まあこれは太陽と月のイメージで考えれば分かりやすい。
陽の力は活性、陰は不活性。これらを利用する事で俺自身の強化やあるいは敵の弱体化を行う…感じになるのかな?まだ全くと言って良いほど使えていないからなんとも言えない。
魔力を魔力以外の力にするというのは強力な武器となるはず…と、陽光が言ってたけども。
「例えば私達魔女で考えましょう。」
新月がピっと指を立てて説明を始める。
というかいつの間にか眼鏡も装着してる…。ネコミミと眼鏡のコンボは中々良い。背もあるから女教師って感じだ。
そういや、国語を教えてくれた担任も若い先生だったけど熱意もあったし人気だったよなあ…。あの日受けていた授業の最中に転送されたわけだから、彼女もこの世界に居るのだろうか。
とか考えてたら「聞いていますか?」と怒られた。スミマセン…。
「私達魔女は魔力を使用したスキルに対して非常に強い、というのは分かりますよね?」
これは凄く分かる。
魔術・魔法は一般人が相手ではまず発動まで持っていくのが至難の業だし、発動したところで今度は攻撃を防がれてダメージが通りにくい。高ランク相手でもキャスト系スキルについては魔女に対抗できる人は居ない。
アーツは発動できるが、防御系魔術を突破できるだけの火力を持つ高ランク戦士じゃないとダメージを与えるのは厳しい。
「ところが、私達が余裕で居られない相手が存在しているんです。それが極一部のランク0の冒険者です。彼ら…あるいは彼女らは魔力以外の方法を利用して攻撃する手段を持っていたり、そもそも私たちの防御を突破する能力を持っていたりしますからね。」
魔女同士は有紀のように接近戦を行わない限りは魔術対決が一般的らしいのだが、あくまで魔女同士の対決は「魔力」を利用した戦いだ。
まあ、陽光・新月の2人は魔力以外のエネルギーを利用するから対魔女に対して強いわけだけども。…ああ、聞いた話だとエミリーも魔力以外の力を利用して戦う手段を持ってるらしい。だからこの3人は古い魔女や新人魔女が増えても序列1位から3位を占めている。
「ああ、なるほど…。」
「お、修司さん…やはり理解が早いですね。」
魔女の存在はこの世界においてはヒルメルからの魔物と戦うための戦力としても重宝される。
勿論魔物の持つ力は瘴気なので、魔女にとっては対応策が取りづらいため相性は良くないのだが、同時に相手にとっても魔力は異質の力だからこそ魔女の強力な攻撃が通じやすい。
そして魔女の不老不死の特性を利用すれば魔物との削りあいが始まればいずれは勝利するわけだから、そりゃ重宝されるよね。
と、ちょっと脱線してしまった。
要するに「魔力が全て」のこのビーナにおいて、強いというのは即ち魔力値が高い事を言うが、そんな桁外れの人たちへ対抗出来るのは「魔力以外の力」という事になる。
今回俺が身につけた力はビーナでは「異質の力」だ。これは人でもモンスターでも兎に角俺よりも格上の相手に対する対抗策として十分に利用できるはず。
そうか、陽光はこの可能性を考えてたんだな。
「まだ君自身のスペックが低い。今の状態で力を使いこなせてもランク0には届かない、対抗出来ない。」
陽光にはこう言われている。
そりゃそうだ。先の例に出した魔物討伐は高ランクが対抗できない時に魔女が出る(いきなり魔女が出る事もあるけど)わけだから、ランク0はその特殊性だけでなくて能力面でも高ランク並みなはずだ。
一方の俺はまだまだランク3~4程度ということになると、うーん…届いてないね。
「君が更に性能アップすれば、有紀が『魔女の加護』を渡す。そこでやっとランク0に届く可能性が出てくる。」
「魔女の加護は複数の人からもらえないのかな?」
「難しい。女神には出来ることでも私達には出来ない。魔女一人の加護を受けるだけでも、もっと強くなってからじゃないと耐えられない。複数と言うのは君の体が耐え切れないと思われる。」
「む…それじゃ難しいか。」
「それに…。いや、なんでもない。とにかく君は『力を使いこなせる事』と『高ランク並みに強くなる事』を心がけて欲しい。」
俺達が月で修行初めて3ヶ月…。師匠となった2人の魔女はブシ市の要請で暫く戻ることになった。
そして俺達もこの機会にそろそろ戻ることにしていた。エミリーは「もっと居たらいいのに」と不満げだけども。




