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龍眼の魔女3

翌日、つまり今の有紀とお別れする日でもあるんだけども。

勿論再会する可能性だってあるわけで、それは有紀自身は「消えるのはまだ先の話だね」と結論付けているから確実なんだろうけどね。

だからという訳じゃないけど、この日は何もしない事にした。というより集中できないんだよな。

「なら、そうだね。修司も『新式魔術』使えるようにしておく?もう一人の私も使えるように思い出させておくとして、修司も習得しておけば今よりも発動は容易になるよ、ウォールとかね。」

そうだった。ウォールは初級のクセに俺は未だにキープで保持しておかないと発動できない。

新式魔術・・・これは前に翡翠が使用した魔術で、場所の指定を魔術の構築から除外することで構築時間を短縮した魔術を言う。

魔術は元々場所の指定を数式のような術式に含めて組み立てるが、そこを感覚的に「この辺りに発動させる」というイメージ力に置き換えるわけだけど、何となく魔法に近い魔術といった感じかな。

俺がファンタジー世界のアニメや漫画で見てきたような「杖を向けて発動させるシーン」がしっくりくる。

なるほど、確かに場所指定が消えるだけでも術式の複雑さは少しマシになる。

普通の人間は魔女みたいに「使えて当然」な訳が無い。恐らく魔術士の歴史の中で少しでも構築が簡略化されるように研究されてきた結果だと言える。

デメリットについても有紀から説明を受ける。

1つは決まった動作が求められるという点。

コレこそ「杖を向けて発動させるシーン」そのものだが、例えば俺が魔術を使うときに右手の剣を向けて発動させるとか、あるいは正眼に構えるとか・・・まあ何でもいいけど一定の動きを組み込む必要がある。

勿論その動きは必ず出来るわけではないし、出来なくても発動できが、その場合は威力が落ちてしまう。

もう1つは…俺には大した問題ではないんだけど、初級・中級の一部までしかこの新式魔術は対応できていないという点。

巨大な魔術ほどその制御のための術式も必要になる。そんな膨大な術式になってくると場所の指定を抜いたところで構築に必要な時間は誤差程度になってしまうため、中級でも特に構築時間がかかるものや上級魔術などはこの新式魔術の開発対象から除外されていたらしい。

という訳で今日は新式魔術の習得を行う事にした。

が、…直ぐ終わった。

元々魔術習得しているのを簡略化させるだけだしね。

「この新式魔術、構築時間が短いというのは修司にとっては短時間で複数の魔術を使用できるわけだから、今まで仕留め切れなかったケースでも、更にもう1手使用して仕留められる可能性は上がるよね?このメリットは分かるでしょう?」

凄くわかる。何度も後ちょっとだけ追い詰める手があれば…と言う場面はあったからね。そこが解消されるというのは結構でかい気がする。

あとは有紀が先に言ったようにキープなしでウォールが普通に使えるのも良いな。キープの枠が余る、ということはそこを1~2枠ほど攻撃に使って良い訳で、それだけでも俺の戦闘力はグンっと上がる。


その後は部屋でゴロゴロして過ごすわけだけども、有紀は普段以上にべったりしてくる。隣に座るだけなんだけど、密着してるからね。

正直ちょっと熱いんだよね。お互いの体温が触れ合うからね。

でも、正直嫌じゃない…俺も物心ついてから人と密着したのは初めてだけど、悪くないな。

良く考えると、この有紀はその生活をずーっと続けてたわけだ。

ナンパされてウンザリしてたぐらいだから結構声は掛かったみたいだけども、正直俺とか有紀は「人と接する」事は苦手だし…いや、有紀にいたっては俺以上にダメだしね。まあ、そんな俺達は体を触れるのも触れられるのもやっぱり好きじゃないわけで。

けど、やっぱり心を許してる間柄だとそういう「嫌だ」っていう感情がないんだなって改めて思わされる。

ただあれだね、こういう良い雰囲気なんだけど話してる内容が台無しだなって思わなくもない。

「修司の烈炎の剣は常用するには効率が良くないね。戦闘は修司の世界で言うテニスとかのイメージだよ。お互いに打ち合って相手のミスや動きが一瞬遅れたところを見極めて仕留める。けど烈炎の剣は修司の限界が早まるから堅実な動きをするモンスターが相手だと逆に不利になっちゃうよね。」

2人の肩・腕が密着するぐらい密着して座ってて、カップルそのものって雰囲気なのに会話内容は戦いの話なんだよね。いいのか、それで。

ただ、この有紀…元々俺はキャスタータイプだと思ってたけど、本来は自己強化魔術をガッツリ使って接近戦闘するタイプだった。勿論上級魔術もその上の最上級魔術も使えるわけだから、キャスターとしても動けるらしいけどね。

先日の有紀の戦いを見ると、接近戦しつつ罠のように魔術を配置して相手を追い込んでいくような戦い方だった。あれは接近戦で相手の防御を崩して設置した魔術で追い込み、仕留めるという流れを組み立てての戦いだったわけだ。

ゴリ押せるところはゴリ押しで、そうじゃないところは戦術を組み立てて進めて行く。これは俺も理解しているところではあるが、烈炎の剣は確かに常時魔力をガンガン使ってしまい、戦闘可能時間が減少する…。オンオフ切り替えて消耗抑えてはいるけど、格上を相手にするときには消耗量をもっと抑えたい。そうなると頻繁には使えない…。

その一方で「脅威」として警戒させて相手の選択肢を制御しておきたいというのもある。「頻繁に使えない」と思わせるよりは「いつ使ってくるか分からない」という印象を残しておきたい…。

「うーん、どうしたものか…。」

「あ!!良い事考えたよ。私達もう『エンドレス・ソウル』の一員でしょう?翡翠の付き添いに戦士タイプみたいな男女居たから聞いてみよう。」

有紀が提案する。けどそれ…「私からは話しかけないから修司よろしく」という副音声が聞こえてきたんだけど?

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