裏・魔女会
魔女会の本会議は終了した。
が、俺と有紀はエミリーに呼び出され、彼女の部屋へ向かった。
「やあ、来たね。」
ドアを空けるとエミリーと…翡翠の魔女、陽光の魔女に新月の魔女もいた。
「呼び出されたからやってきたけど、何の集まりだ?」
俺も用事が合ったから呼び出されたのは良い。けど、彼女たちは何だろう?
俺の問いかけにエミリーはニヤリと笑う。
「裏・魔女会議さ!」
「正直会議では『関わらない』と言ったけども。修司君の場合は魔女ではないので別にこの方針に従う必要はないよ。」
まあ、そりゃね。寧ろ俺は世界を救うために呼び出された側だったみたいだし。
「エミリー…私は?」
有紀の立場は結構微妙だったりする。
召喚自体は俺と同じ目的だけど、本来は魔女だったわけだからね。
「有紀の場合は私も悩んでいたけど、そうだね。私が打ち出したのは女神達と対立しないために『支配者の間』には関わらない事にする方針だったわけだから、本来ならそこに至るためのダンジョンまではOKにしようと思ったんだよ。」
エミリーはそこから少し険しい顔をする。
「ただ、思った以上に反対派が多いから、もう少し手前にラインをしっかり作っておこうと思う。ギリギリを狙うとそこをギリギリ越えるようなチキンレースしだす子も出てきそうだからね。」
結局有紀が関与できるのは、ダンジョンの中層までという事になった。
「と言われてもダンジョンの中層ってどこか全然わからないんだけど。」
そう、俺も有紀もダンジョンすら分からないわけだから「ここまでだよ」と言われても困っちゃうんだ。
まあ聞いたのもこっちなんだけどね。
ダース王国の王都より少し北に行くと天まで届くかのような塔がそびえ立っている。
この塔は「覇者の塔」と言われる、俺達が挑まなければいけないダンジョンだ。
覇者の塔という名が付いてるが当然過去に一人もこの塔を登頂したものは居ない。
「ランク0でも登頂したことがない、というのは不思議な話だと思うでしょう?」
エミリーが俺の思考を言い当てる。
ランク0というのはランク10・・・通常の人間が到達できるランクで計測できないものに与えられるランクなわけだから、クリアできないというのは考えにくい。
まあ人気の無いダンジョンなんかは未踏破のまま放置されていたり、大昔に踏破されて以来誰も来なかったり・・・というのはあるようだけども。
覇者の塔で登頂したものが現れない理由は非常に簡単だった。
塔は下層・中層・上層に分かれており、中層までは誰でも立ち入りが自由だが、上層へ行くには封印された扉を開放しなければならない。ところが上層を開放するための鍵がないために開放されたことがない、というだけだった。
「なんだ。難易度の問題ではなかったんだな。」
「そう、難易度だけなら誰かしら到達していてもおかしくないんだけどね。そもそも入れない、というわけ。」
その鍵は国王が代々引き継ぐそうだが、その鍵は一度も使われた事がない。
そりゃ当然の話だけども。
塔の名前からして「覇者となることができる」というような噂から名づけられてるのが分かるが、現時点でトップに立っている人間がその座を他の人間に明け渡すような真似をするわけがない。
「つまり、その扉の前までは私も参加可能だけど、そこから先は『魔女勢力』として女神達に排除対象にされかねないから参加不可ってことでいいのかな?」
「有紀の言う通り。それが私が考える譲歩ラインだよ。」
「・・・わかった。それでもいいよ。」
とりあえず、有紀が参加できるラインははっきりした。
「さて、修司君。本題に入ろう。」
え?こっから本題?
「そうだよ、修司君。キミだけが、唯一キミだけが魔女側に居ながらにして女神側に加われる可能性が高いんだよ。」
エミリーがピっと指を俺に突き刺してそう言う。
「今までに女神が召喚するときはちゃんと『残る』か『帰る』かの選択を与えているんだよ。もっとも、こっちでは女神の加護を得て時の英雄となっているケースもあって残る人ばかりだけども。」
なるほど、戻る手段はあるということか・・・もしかしたら帰還手段がある点も女神側が俺達を重宝する理由かもしれない。戻りたい人は他に手段がないから協力せざるを得ないし。
そしてエミリーはその点を利用する。
「女神達はキミ達ヴィルヘルムの人間をこの世界のランク0よりも重宝するし信用している。彼女達からすればヴィルヘルムの異邦人は手懐けやすいわけだね。だからこそ、修司君も女神側に加わる余地も出てくるよね?」
うーん、言われてみればそうだな。俺も還りたいって言えば参加させてもらえる余地はありそうだが・・・。
ただどの道有紀が戻れないんじゃ帰還はあんまり興味がないんだけどね。
ん?待てよ・・・
「ああ、俺が女神側に取り入れば有紀もヴィルヘルムに行けるのか。」
「そういうこと。確かに魔女を向こうに送るのは結構な力を使うはずだけど、女神達なら出来るはずだよ。」
「そっか・・・、私も向こうに行ける可能性が・・・。」
「そういうことだよ有紀。キミの最も望むエンディングに到達できるね。」
エミリーはそこまで考えてくれてたんだな。流石魔女を仕切るだけあるな。
「本当は、魔女の不死性だけでもルールから取り除けるか試して欲しいところだけど・・・そこまでは望まないでおくよ。」
魔女の「永遠の生」は呪いでもある。それを取り除けるだけで彼女達は最も望む「尊厳のある死」を迎えることが出来る。・・・本当にエミリーが俺に望んでいる事はきっとコレだ。
「世界の修復だけでなく魔女の不死性に関するルールを取り除けるか試行する。これがエミリーの望みか。」
俺がボソっと声に出してしまったら、エミリーに気づかれた。目の前に居るからそりゃ当然か。
「よく分かったね修司君!勿論出来るなら試すって程度ででいいんだ。私は魔女の不老不死の特性は除外できない要素だと考えてるからね、残念だけども。」
なるほどね、エミリー自身は「不可能」と考えてもそれで全ての魔女が納得するわけじゃない。なら、実際にやってみてほしいって感じか。
修復ついでに・・・ってことなら女神との対立は生まないだろうしね。




