親友は女になった
確か俺はいつものように授業を受けていたのを覚えている。
よくこんな暑い中授業できるよな、まだ若い先生なのに・・・
あの熱意があるから皆真面目に授業を受けるんだろう、あの不良達ですら授業に出席してるぐらいだもんな・・・
前の席には俺の親友の神城有紀がこれまたクソ真面目にノートを取っている。
有紀は成績も中の上だし良い子キャラだ。
俺は授業も普通に出ているし成績も下の中だけど教師受けは悪くない。
ただ二人とも存在が薄い、見た目がパっとしないのもあるしクラスで発言もしないし・・・
スポーツも特別得意ってわけでもないし、むしろオタク入ってるし。
イジメに合うこともないけどクラスメイトと絡むことも無い、それが俺・・・佐野修司と、神城有紀の立場だ。
そろそろ授業も終わりかな、というときに蜃気楼のような(実際に蜃気楼見たわけじゃないが)歪みが起きた。
そして今俺は薄暗い部屋?の中にいる、有紀と二人で。
ここはどこ?というか他の人はどこに・・・?
「おい、有紀!大丈夫か?」
体をゆすって起こす。
「ん・・・、修司、ボクいつの間にか寝てたみたいだね」
「いやいいんだけど、なんか変な場所に居るんだよ、俺たち・・・」
有紀があたりを見回す。
特に驚いている様子もない。
そういえば薄暗い・・・ということは光源があるわけだ。
ふとその光源を見る。
そこには青白い光を放つクリスタルがあった。
「うわ、大きいな」
つい声がでてしまったが、自分より大きなクリスタルがあればそれはびっくりする、するよね?
初めてこんなの見たわ・・・
「って、あれ?有紀、見てみろよ」
さらに驚いたことに、クリスタルの中に一人の女が・・・自分より年下かな?16歳の俺に対して中学生ぐらいの少女が居た。
変な場所に飛ばされた挙句、でかいクリスタルがあって、さらに女の子がその中に居たら誰だってビビる。
でも有紀はやはり驚いた様子もない、それどころか俺が後ずさったのに対して、逆にクリスタルへ歩き始めた。
「うーん、何で戻ってきちゃったんだろう?」
ん?戻ってきた?こいつも頭おかしくなったのかな?
大丈夫か?と声をかけようとしたら急に有紀が振り向く、それもビビるからやめろよ・・・
「修司、ごめんね?」
クリスタルを背にしている有紀の表情が影で見えないのがまた怖い。
「え?何が・・・?ってか怖えよ」
「ああ、ごめん、薄暗いから軽くホラーだね」
良かった、口調はいつもの普通の有紀だ。
「しかし、俺たちは何でここにいるんだろうな」
「小説とかで見る異世界召喚ってあるでしょ?それが実際に起きて、ボクらはそれに巻き込まれたわけだね」
「有紀、頭大丈夫?元の場所戻ったら医者行こうか?」
「そう言いたくなるのはわかるんだけど、本当なんだよー・・・」
俺も有紀の側に行く、顔が見える・・・いつもと同じ穏やかな顔してる。
「ええっと、まあファンタジーが現実になるっていうのは理解しづらいんだけども、まずここは現実だから、何とかまずはそれを飲み込んでほしい」
有紀の表情や雰囲気は昔から落ち着く、おかげで取り合えず話を飲み込むだけの余裕はできた。
「わかった、俺たちは異世界に召喚されたってことにしておこう。でも、どうして召喚されたのか、そしてここはどこなのか?ってことになるよな」
「うん、実はボクはここを知ってる、というか元居た世界なんだ」
「え?有紀、やっぱり頭おかしいんじゃないか?生まれたときから俺たち一緒にすごしてきたはずだけど?」
こいつとは生まれてからずっと家族ぐるみの付き合いをしてきたんだ。
元居た世界と言われてもやっぱりおかしな子だな、ってなってしまうのは当然だ。
やっぱり突然変な所に来て頭がいかれたのかな・・・
「いや、違うんだよ。確かにボクは向こうで生まれたよ。けど、それはこの世界から向こうに魂だけ移動させたの、小説でいう転生モノだよ。」
うーん・・・割と普通にこんなこと言う子じゃなかったんだけどなあ・・・
なんて思いつつ半信半疑ながらも「そういう仮定」で話を進めないといけない。
「なら、有紀はこの世界の記憶があるってこと?」
ボロを出させるのは可愛そうだが、話の中におかしな点があればツッコミを入れていこう。
「そうだよ、ここは女神達が作った世界『ビーナ』という世界なんだよ。ボクら・・・恐らくクラス全員だと思うけど、何らかの理由で召喚されたんだと思う」
「ん?クラス全員?でも俺たちしか居ないよな?他の人はどこに?」
「うん、だから『ごめんね』なんだ。これだけの大規模な召喚できるのは女神の力じゃないと無理でね、本来なら皆女神の元に呼ばれるはずだったんだよ。」
でも・・・と有紀はこちらを申し訳なさそうに見る。
「さっきも伝えたけど、ボクはこの世界の出身でね。向こうで死んだときにはここに戻るように設定してたから、召喚されたときにここに戻ってきちゃったんだろうね。修司はボクのほうに巻き込まれてしまったんだと思う。」
とりあえず今の所、有紀の話には変な点が見当たらない。
いや、そもそもこんな話自体変な点だけなんだけど・・・。
さらに有紀は続ける。
「ここに居る女の子、これがボクだよ」
・・・有紀、モテないからってついにそんなこと言うのか、大丈夫、俺はお前を見捨てない。
慈しむ目で有紀を見る、あ・・・拗ねた。
「もう!じゃあ証拠見せてあげよう!嘘じゃないんだよ?」
有紀がクリスタルに手を触れる。
その瞬間、クリスタルの淡い光が急激に光を増す。
「うお、まぶしっ」
目が焼けそうになり、思わず覆ってしまう。
覆っても隠し切れないほどの光が落ち着き、クリスタルは光を失う。
唯一の光源を失い、一帯は暗闇になる。
「なんだったんだ・・・?っておい、有紀」
「ちゃんと居るよ、大丈夫」
返事は有紀の声よりも高い声だった。
アイツもあんまり声変わりしてなかったけど、それよりも女の声だ。
さっきまでの流れからして、クリスタルに居た女の子の声だと思うが・・・
うわ、これあれか?俺もモテないから心の中では男でもいいから彼女になってくれ、なんて願望だったりするのか?
「ちょっとまってね、今明かりを・・・」
有紀?が声を出すとすぐに天井付近から光が差し込む。
魔方陣みたいなのも初めて見た。
「ほら、これが本来のボクだよ。」
「ええ・・・」
クリスタルに居た子だ、やっぱり。
もう何がなんだかよくわからないが、取り合えず今までの話を現実とするとこの子は有紀なわけだ。
うん、ぶっちゃけ可愛い。
確かに、有紀が女だったら男には理想的なんだろうな、と思ったことはある。
でもまさか実際に女の子になるとは・・・。
「やっぱり夢か?」
「夢じゃないって!」
つまり、俺は異世界召喚の際に有紀と一緒に「有紀が戻される場所」に飛ばされてしまったわけだ。
もう時間も経ったし、さすがに少しずつ「これは現実」と飲み込むしかなくなってしまった。
いや、でもそうなるとこの有紀?は可愛い女の子なわけだね、やったぜ!