第5話:ホーネットX2
「えー諸君。聞いての通りだと思うが我々にかなり無理な任務を自衛軍閣下がお与えになられた」
私はそう、ホーネットX2捕獲作戦に参加する面々に向かって現場指揮本部のテント前で円陣を組みながら声をかけた。
「かなり無茶ですよね....こっちも使用できる工作機体は事実一機のみですよ。まだ、US-21は整備中ですし」
そう、心配そうに桜井がそう言ってきた。横では、鼻息荒くしている剛山がL85A2を握ってた。
「まー桜井君には大丈夫無理を強いてもらうかもしれない。なんせ陽動係だからな....
ホーネットX2には機関銃実弾2000発入ってるらしいからな...唯一の救いは対戦車ミサイルを積んでなかった点だろうな」
「流石に、それは無理をさせてませんか?」
剛山がそう後輩の桜井を心配してか、珍しく現場で落ち着いた声で聞いてきた。
「それはないといえば、嘘になる。敵機は有人機とはっきりわかってるが、パイロットのバイタルサインがないとの情報が入ってきた。
要は補助AIとの勝負。だが、SU-21の機動性を使えばロックオンされることないと聞いてる大丈夫だ」
私がそういうと、桜井は私を見つめながら深く頷いた。
「大丈夫です」
彼からはある意味でやり遂げれる自信を感じられた。剛山は心配そうにしているが私はそうは感じられなかった。
私はそれを聞いてこう答えた。部下や同僚を失うのはもう嫌だと思う気持ちがある。
「一応、無理だと思ったら機体を捨てて離脱しろ。これは命令だいいな」
「了解です」
桜井はそう即答し、ヘルメットを被りSU-21のコックピットに乗り込んだ。
それと同時に徒歩支援班と狙撃班は作戦地域に走り出した。
私はふと思い出したことをみんなに伝え忘れて、無線機でこう言った。
「えー隊長から各局。作戦が無事に終了すれば。デイブ・ディレクターが皆にBBQを奢るとのことだ。ではSAR出動。健闘を祈る」
横にいたデイブは私を見て、ほんの一瞬、え?そんなこと言ってないよという顔をしたが右手の親呼びを立ててウィンをして笑みを見せた。
今回の作戦ではSU-21パイロットの桜井が陽動を務めて囮になっている間にホーネットX2の操縦室かエンジン機関に墜落しない程度のダメージを与えて自動帰還装置を発動させて自衛軍の基地に無事に還すという作戦だ。
DI5シライシから聞いた、ホーネットX2の本体のシステムに組み込まれている独立した自動帰還装置を使用した作戦だ。
ホーネットX2がもしもこの前の変電所の工作機体の様にAIの独立行動であったとしても、パイロットに致命的なダメージや作戦行動が不可能な攻撃を受けた場合は物理的に操縦室機能が帰還装置に切り替わるようになっているのを利用したものだ。
パイロット死亡でなぜ帰らないのかは不明だが、離陸後なんらかの外傷でない病的なものでの死亡判定だと補助AIに切り替わるらしい。
尚、予算の都合で燃料切れでの帰還の設定は想定されないとされたため搭載されていないらしく。
私は、ちょっぴり悔しい思いをした。
今回の作戦で自衛軍が出ない理由は多々あるが、大きな要因は返還時に締結している英国との条約から来ている日本本国の法律で自衛軍が香浜市街地で作戦行動が制限されているからだ。
香浜政府が戒厳令を出せばその自衛軍の制限は撤廃されるが、そうなると自衛軍の失態が香浜を中心に世界に発信んされてしまうから、本土から圧力がかかったらしく唯一対応可能な軍隊的組織を持っていた香浜政府は渋々、自衛軍の尻拭いに参加したという経緯があるらしい。
デイブは大きくため息をついて承諾をしたらしい。ということをひたすら車の中で私は聞かされていた。
私は作戦行動を管理するためのVRグラスを手に取りかけた。
龍頭城地域の地図上にホーネットX2の現在位置と各班の状況が目の前に現れ右の端の方に各班長が身につけているウェアラブルカメラの映像が映し出されていた。SU-21の搭載カメラの映像は左の端に写されていた。
私はもう一つあるVRグラスをデイブに手渡して無線とヘッドセットをワイアレス通信につなげた。
「全員通信回線は良好だな?」
私がそう聞くと、桜井、剛山、狙撃班の相楽が良好と答えてきた。
「ホーネットX2は武装が対物ライフルと同等の弾を6000発程度を毎分でぶち込んでくる。話はわかるな?SU-21の装甲でもお陀仏になる弾だってことだ。くれぐれも、気をつけて欲しい」
敵は上空でずっと同じ高度を保ったまま旋回を続けている。SARの徒歩班が装備しているL85A2の射程圏外でもある。作戦としては、狙撃班が持つ対物ライフルOSV-96の改造品だけが唯一、ホーネットX2に有効な打撃力を持った武器だ。
SU-21にも武装は取り付けているが、なんせ元々のモデルが警察用で目立った火器は対人用の7.62mm弾を連射できる機関銃とグレネードランチャーだけだ。接近戦では軍用機よりも補助AIもパイロットも上手ではあるが、遠距離から攻撃されては元も子もない。
要はSU-21は完全な囮で、完璧な射撃姿勢をとった相楽が一撃か二撃で強制帰還装置を発動させる魂胆だ。
一応、究極の手段として剛山率いる徒歩班もいる。彼らの任務は、嫌かもしれないがいざという時に桜井を救出する部隊でもある。
「ホーネットX2のレーダーに捕捉されました!敵接近!」
そう桜井はいうとバックでジグザグに下がった。映像からはわかるが、ホーネットX2は機関銃を連射しながら降下してSU-21に近づいていた。
「直線になるなよ。直線だとヘリに方が早い。ビル陰やアーケードを使って狙撃地点まで追い込め」
事前に龍頭東管区警察とPTUに依頼して龍頭城を封鎖していて正解だと感じられる。
こんな感じで縦横無尽に工作機体を動かすことができないからだ。
すごい速さで建物のが密集した龍頭城の街をSU-21が縫うように進んでいるのが画面から見て取れた。
時折、SU-21からの機関銃の音が聞こえるが、ホーネットX2には当たってはいないようだった。
「当たりません!」
桜井のそういう声が聞こえてきた。息が上がり相当だが緊張しているようにも感じられた。
「よしいいぞ櫻井。撃ってもいいが、当てなくていい。奴を誘い込め」
「了解!」
桜井はそう言って、方向変換をして狭い通路内に入り込んだ。
モニターからわかるがホーネットX2はSU-21に狙いを定めたように追いかけていた。
桜井の通った後の場所に機関銃が撃ち込まれ砂埃が舞い上がっていた。
「こちら相楽。準備完了」
狙撃班の相楽からそう報告が入った。
私は正面に移る立体の地図を確認してこういった。
「よし、予定通りだ。相楽、当てれそうか?」
「ホーネットX2の動きを止めて欲しいです。エンジン部を狙うにも動きすぎて狙えません。
SU-21の機動力に追いつけてないみたいなので、減速する際のホバリングした一瞬を狙います」
相楽の考えていることは私も理解できた。今もだがSU-21の素早さにホーネットX2が追いつけてなく直角に曲がるSU-21を追いかける際に一度急ブレーキをかけて旋回しているのが多く見受けられるからだ。
「よし、2ブロック先の病院跡地で決着させる。相楽!桜井!」
病院跡地は相楽の狙撃ポイントの直線上で約200m先にある一番見えやすい場所だ。相楽の腕とOSV-96なら十分当てられる距離だ。
「隊長!」
桜井の呼び出しが聞こえた後、音が途切れた。
「おい!どうした桜井!!」
私はそう言って桜井の操縦するSU-21のカメラ画像を見た。すると、音声が途切れたことを意味するアイコンが表示さてており、画像が荒くなていた。
荒くはなっていたが、どうやら大きな建物の中に入り込んでようだ。
火を噴くホーネットX2の機関銃が見えていた。
「こちら!剛山!!大変です隊長!奴の動きのパターンが変わりました。
桜井が建物に中に閉じ込められました!出さないように出口を奴が抑えきってます。
補助AIだけでできる動きではないです!」
私はその言葉を聞いて、桜井が入った建物を地図上に表示させた。
建物は廃墟マンションで半分朽ちているようで、工事用の出入り口が3つだけ開けられているようだった。
どうやら、現在SU-21が通れる道は二本だけであとは屋上に逃げる他ないようだ。
中央エントランスの天井が吹き抜けになっており、ホーネットX2は上からも横の扉からも攻撃をしていた。
桜井は狭い建物内を不規則にジグザクにSU-21そ操縦しているが、手詰まりの雰囲気を感じ取れた。
ーー正面装甲被弾ーー
そう、桜井のカメラ画像に表示された。
嫌なことに桜井のSU-21に相手の弾が命中したようだ。
「おい!大丈夫か!桜井!!」
私はおもわず言葉が大声になった。
「大丈夫です。隊長、正面装甲を弾がかすりました。走行に問題なしです!」
音声の回線が復旧したようで桜井からそう落ち着いた声が聞こえてきた。
私は彼の冷静な言葉を聞いて大きく一度深呼吸をして気持ちを切り替えた。
相楽から呼び出しの声が聞こえたのでそれに答えた。
「今、ホーネットX2がビル影の死角にいることを確認できました。500mありますが、装甲の薄いと聞いてる排気部分なら十分有効な攻撃を加えられます。
軍の偵察衛星にアクセスの許可をもらえれば正確な狙撃が可能です」
「うーん軍衛星か....」
私は頭を抱えたがあまり時間がないことも内心分かっていた。
AIの動きが変わったということは今までの想定していたただの補助AIではないことも分かるし、ありえないがパイロットが息を吹き返したのかもしれない....
あとは、DI6のシライシが言っていた前の強盗事件のAIが搭載されている可能性が高くなった。
確かに相楽の経験を聞く上で軍の衛星という言葉が出るだろう。
北海道警のスナイパー時代に稚内での武装工作員侵入事件で彼は軍の衛星からの情報を利用して工作員の武器だけを破壊して生きたまま捕まえた経歴を持つからだ。
だが、今は独立した植民地政府のいち警察組織に所属するものとして、宗主国の軍衛星を使える可能性は低い。
それを物語るかのようにデイブが首を横に振っていた。
一刻一秒も無駄にできない場面が私に迫って来た。
判断が遅れれば、桜井を死なせてしまう。
私は頭を抱えたーーー
To be continued....