表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
香浜警察物語〜セルウス〜  作者: アーサー・リュウ
5/15

第4話:警察署へ


私にとって最初で最後であって欲しかった、戦争体験だった。



横にある、黒焦げになった車を背にして私とビルは動くことが出来ないでいた。

ピュンピュンと頭の上を弾丸が通過していくのが感じ取れて改めて日本を離れて危ないところに来たことを実感できた。


DI6での訓練や今までの非正規作戦での経験が活かせたのか、敵の動きが訓練されていない烏合の衆であることはわかっていたが、無理に頭をあげて反撃するのも難しさを感じていた。


なぜかって、それは簡単だ。

屋根の上のRPGを持った敵はビルの部下が上手い具合に倒すことがきたが、彼はいま眉間を撃ち抜かれ道路の真ん中で横になっている。


「あースナイパーだな」


訓練されていない兵士を前面に出して、少し離れたところから精度のいい狙撃銃を装備した訓練された兵士が一人一人狩っていくというテロリストがよく使う戦術をとっているからだ、しかも残念なことにその狙撃手の位置が私やビルや彼の部下も把握できていなかった。


私の知る限りでは、そういうスナイパーが狙うのは防弾装備の少ない骨盤付近や下腹部を狙うのだが.....

的確に動いているヘルメットを被った兵士眉間を撃ち抜く腕を持つスナイパーということは面倒くさいほど凄腕とが嫌でもわかった。


完全に前進ができない状況だ。

しかし、止まっていては数に優位のあるであろう敵側が徐々に押し寄せてくるだろう。


時間を待てば、応援が来ることは来るだろうが、一番早い空からは来ないだろうから、スタジアムにあるインド軍の本隊がくる10分程度は待たないといけないだろうが、その時までに警察署がもつか分からない。


「マトバ!Smoke!」


ビルがそう言って発煙筒をカバンから取り出して火をつけて敵側に投げ込んだ。

徐々に煙が一帯を包み込んだ。タイミングを見計らって、近くにあった建物内に入り込んだ。

遠回しであるが、裏道を通って警察署に向かう考えは悪くないと感じ取れた。


道路が煙に包まれ切ったのがわかり、私とビルと彼の部下も数人は路地へ向かって走り出した。


狭隘な路地は逃げ込むにはもってこいだが、待ち伏せなどがあった場合は厄介だ。

ないとは思うが、一瞬だけブービートラップにも気を使った。

敵の完全な制圧下だと何があるかは分からないのが常だからだ。


警戒しながら路地を進んで行ったすると、警察署から逃げてきたのであろう現地の文民警察官が息を切らせて壁にもたれかかっていた。


彼の話では警察署を襲撃した人数は20数名のことで、警察署が面しているメインストリートの真正面から攻撃を受けているらしい。中国軍のヘリが警察署に墜落して直撃を受けてパニックになっている間にテロリストがやってきたらしい。


負傷者の人数は不明だが、彼もまた弾丸が飛び交う中逃げてきたようだ。混乱の中で何が何だか分からないのだろう...


私は佐伯警視のことを聞こうと思ったが、彼の焦り具合と疲労感から容易に聞き出せないだろうと感じ取れないと判断できた。


そして彼の口から嫌な一言を聞いてしまった。

武装集団は軍事用工作機体を使っていたとのことだった。


ビルが冷や汗をかいて、今までないほど嫌な顔をした。彼の小隊には対戦車攻撃用の装備を持っていないからだ。このまま警察署に進んだとしても、頭を撃ち抜かれた彼以上の損失を出す可能性が考えられたからだろう。


だからといって、黙っていても警察署内に残された人を助け出すこともできない。

無線機の情報ではすでに応援の国連部隊はすでに中心地に入りはしているようだが、ここまで来るのに敵を蹴散らしながらだと時間は大いにかかるだろう。


「とにかく、この建物の安全を確保して敵を引きつけつつ援軍が来るのを待とう」


ビルが出した結論を聞いた、私は頷いて同意した。どうしようもない状態から出した結果だろう。


民家の中に入り込む、勝手に土足で他人の家に入るのは億劫ではあったが、今はどうこう考えているほど気持ちに余裕はここにいる全員なかった。


屋上に上がってそっと顔をしたが、警察署方面から煙が上がっているのは確認できたが細かいところはまでは目視することはできなかった。


30mほど離れた屋上に狙撃銃であるPSG-1を構えているスナイパーを見つけた。格好からしてテロリストの一人だろうと考えられる。

彼はずっと先ほど私たちがいた道路の方向を見続けていた。

どうやら、先ほど狙撃してきたスナイパーであろう。


遠くではあったが彼と目があった。

私は、とっさに手に持っていた銃を構え引き金を引いた。本来当たる可能性は低い距離ではあったが、DI6で撃った弾数が多い結果なのだろうか。

放った二発の弾丸は脳幹と心臓をめがけて飛んでいって彼の身体に当たった。


拳銃弾だと威力もそうはないが確実に人を殺すための射撃を身体が覚えていたようだ。


私にとっては嫌な気しかしない。


「鬼ですね。こんな、距離から確実に当てるなんて」


横にいたビルは驚き半分、恐怖半分と言った顔で私を見つめていた。

その時、壁に穴が開くような弾丸が飛んできたので私とビルは地面に伏せた。


少して、治ったのでまた恐る恐る覗いてみると...


「あれが工作機体かぁ....あれはあれはこっちもまずいな」


私が思わずこぼした独り言にビルが疑問を感じたのか、首を傾げた。


「敵の工作機体が思った以上に大型のものなんですよ。型番はわからないが....重機関銃を取り付けた偵察用戦車並みの武装だ」


「もー動けませんね...マトバさん」


ビルの言葉通りだ、敵の工作機体に対抗できるほどの武装を我々が今持っていない。悔しいがもうこの場所から援軍が来るまで釘付けと言うことになってしまった。


その後の十分程度だったか非常に長い時間を過ごした。その間にビルの率いる小隊の隊員達は多くが負傷したし、建物を中心に動き回り自分の身を守る事に精一杯になった。その間、警察署にいる人々も同じように生きていてくれる事を願っていた。


ーー敵、工作機体が撃破されましたーー

ーー敵勢力、後退します。市街地から撤退を確認しましたーー


そのような、情報が耳に入ってきて私とビルはホッとして、敵が静まったの確認して警戒しながら警察署にビルと一分隊を率いて向かった。


警察署の中は悲惨なものだった。まず、散乱する書類と教えてきた新人の文民警察官達が数人無残な姿で床に横たわっていた。

彼らはこの国、この街のために学び働いていたのにこの結果には私自身としてはあまり心地の良いものには感じられなかったーー


佐伯警視は無事だろうか?

私は彼を探し回った。警察署内の一室で座り込む彼を10分後に発見することができたが、彼の目からは魂が抜けきっていた。理由は分からなくもない。


「本当に一瞬だったな。こんな簡単に無くなるなんてな。この街のために尽力したはずだったと感じるのになんで、彼らはここを壊したんだ...」


佐伯警視はそう言って、座り込んで頭を抱えながら私を見上げていた。


「教えてきた警察官達は、この街の為に尽力していた....なぜ、こうならないといけなかったんだ?

一般人を虐げるギャングやテロリストを優遇しなかったからか?

街の平和を守っていたのにだ。彼らは我々を悪人といって退けた、彼らなりの正義はあるのだろうが、普通の人から笑顔を奪う奴らになぜそれを言われないといけないだ?

なー的場巡査部長、そうは思わないか?

私たちは無力だった...」


佐伯警視は、そうゆっくりと重たい空気で私に尋ねてきた。私はかける言葉に迷いはしたがこう答えた。


「私は私の仕事をするだけです」


「そうか....すまない変なことを聞いてしまった」


佐伯警視はそう言って立ち上がった。

窓から見える。バンダリの景色は変わって街から煙が上がり、銃声が響き渡り、悲鳴と悲しみの叫び声が時折耳に入り込む街に変わっていた。


私はふと唇を噛み締めて、震えていた。

佐伯警視の言いたいことはわからなくもない、遥々遠い地まで平和のために尽力した。作り上げた物がいとも簡単に1日で破壊されて、苦労して積み立てた平和が一瞬にして崩されたからだーー


その後、多くの現地での同僚を失い、日本から一緒に一緒にやってきた警察官達も的場 貴志、佐伯 秀明、雷文 拓海を除いては全員が殉職。

大きな損害を負い、任務失敗という形で現地に残った文民警察組織を残したまま帰国の命令が下った。

情報統制が敷かれ、文民警察活動は世間に知れ渡ることもなく何事もなかったかのような扱いを受けた。


警察組織内では、その傷物三人は口封じと隠すために色々な工作が行われた。二人の行方はあまり聞かなかったが、私は願い通り大阪府のとある田舎駐在所に追いやられた。


私にとって“煮えたぎる鍋事件”は唯一の戦地での経験だった。

あまり思い出したくはない苦い思い出だーー


ーーーー


「あれがホーネットX2か....私たちでどうにかなりますかね」


私はそう、香浜の空白地帯と呼ばれるほとんど人が住んでいない廃墟街となっている旧スラム街の龍頭城の上空を旋回し続ける攻撃ヘリをパトカーのから見ながら言った。

横にいる警備部長のデイブはうーんと悩みつつも、強烈な匂いを放つベジマイトを塗ったトーストを食べながら首を傾げた。

まー私はベジマイトトーストを食べ終えたところではあるのだが....


「やるきゃないよ〜。自衛軍のハイパー鬼パスでしょ?難しいよ」


「デイブさん。一応、作戦は立ててはいるんですがこれでいいですかね」


私はそう言って、大きくため息をついて今から行う任務について考えることにした。



To be continued....

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ