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香浜警察物語〜セルウス〜  作者: アーサー・リュウ
4/15

第3話:煮えたぎる鍋


今日は的場です。

今回は私の過去の話をしようと思います。


軍用ヘリが市街地上空を飛んで市街地墜落させようなんて、私にとっては悪夢だ。

そのきっかけになった事件が昔にあって、私が完全な出世コースから外れ香浜警察に島流しになったきっかけでもあります。


15年前 中東某国 港町バンダリ


私的には今日もこの街は暑いというぐらいうだるほど暑い街だった。

砂漠地帯にあるアデン湾に面した人口30万人の港町だ。


オスマン=トルコ帝国の勢力下にあった時代に開かられた貿易港で主にアラブやアフリカやインドと交易を行ってた歴史ある地域だそうだ。


去年まで内戦が続いていて、過激派と政府軍、隣国の政府とで血を流しあっていた危険な地域でもある。


新しくできた警察署の前で日差しに焼かれながら私は迎えの車を待っていた。


なんで、ただの日本のお巡りさんがこんなところにいるかって、

私は諜報組織であるDI6での任を解かれた日に大阪府警に戻ったが、前の能力を買われ、異動願いで出した田舎の駐在警官ではなく、世界中を飛び回る部署に配属された。

相変わらずの不条理は能力があるのに組織に属しているので仕方がないようにも感じはするが。


今回、国連の平和維持活動に参加した日本は、文民警察官を派遣して現地バンダリに文民警察組織を作るというプロジェクトのホストになり凄腕の警察官達を送り込んで日本式の警察組織を作るという任務を請け負った。


その中の一人として私が抜擢され、他には警視庁や千葉県警、福岡県警からの選抜組や警察庁のお偉い方、自衛軍の国家警務隊、香浜警察からと一名づつ派遣された。

一緒に行動を共にする護衛の部隊は国連軍の部隊だ。

主力は街の今は使われてない中心街から少し離れたサッカー場に拠点を置くインド連邦陸軍の歩兵連隊と10km離れた隣の村に駐留する陸上自衛軍のセルウス中隊と遠く離れた安全圏から飛行機や偵察機を飛ばしてくれる中国空軍だ。

我々お巡りさんの拠点は街の中心にある警察署だ。


日本の夏と違うのは常に乾燥している点だ、汗もすぐに肌の上で乾いてしまうらしいのであまり不快感はないが、うだるようなかつ刺すような日差しがジリジリと肌を焼いていた。


「サージ・マトバ!」


そうよくヒングリッシュと呼ばれる、インド訛りの英語で私を呼んだのは護衛を担当してくれるインド陸軍のライフル小隊の少尉であるビルだ。

彼はこっちに向かってくるインド軍の装甲車から身を乗り出して手を振っていた。


なぜか、意気投合して仲良くなってしまった人物だ。

彼は日本のアニメが好きらしく、それで学んだ割と流暢な日本語で話しかけてくれる。

まー、仕事関係で使う用語や単語は英語になりはするが、日英ヒンディーとトリリンガルの彼はある意味すごいなと私は感じている。


彼の車は私の目の前に停車して、ビルは降りてきてニコニコとしながら握手をしてくれた。


「今度、日本の方は別れて行動をすると聞いたのですが、的場さんだけ別行動なんですよね?」


「ええ。郊外にある選挙所の監視任務とそこの警察署の指導に呼ばれてましてね」


思わず、日本語の問いだったので日本語で答えてしまった。

なかなかこう、海外での任務が多いとはいえ、日本語を聞くと日本語で返したくなる性分なのは昔と変わらないようだ。


そう、我々国連平和維持部隊の任務の中には開かれた民主主義に基づく、バンダリの市長選挙の任務も付随している。


バンダリを取り巻く環境はかなり劣悪で、テロ組織や地元ギャングから流れた資金によって汚職と腐敗が進んだ官僚が政治の舵取りをして、民主主義による政治が一切行われていない街でもあった。もちろん、内戦もあってバンダリを含む周辺地域は無政府状態が続いていた。

そのため、貧困や犯罪が蔓延していた。金稼ぎのためにアデン湾を航行する国際貨物船への海賊行為も横行していたし、その海賊のスポンサーにそのギャングやテロ組織が大いに関わっていた。


その環境を綺麗にしてシーレーンの安全確保のために日中印を中心とする国連平和維持部隊が派遣された経緯がある。

一応の名目上でいえば、バンダリを拠点にしているテロ組織が大量破壊兵器を持っているという疑いからだ。はじめに内戦でインド人ジャーナリストが惨殺されたことからインド軍が行動を発したのが発端だ。


一応だが内戦は終結し、テロ組織の解体も進み現地治安維持部隊も編成されて、中央政府がバンダリ市内に拠点を構えたかたちで内戦は終結している。


しかしながら、現実はテロ組織の残党や地元ギャングに反政府勢力の完全な武装解除は済んでいない。

色々な諸問題を抱えて、具沢山な鍋で今すぐにも沸騰し吹きこぼれそうになっている状態が続いている。

だからか、日本警察側はバンダリのことを“煮えたぎる鍋”と呼んでいる。


ちらほらではあるが、諜報員時代の情報収集グセのお陰なのか知りたい情報から知らなくてもよかったと思う情報を収集できている。

ここ数日は不穏な情報が耳に入る事が多い。もしかするとテロ組織の残党勢力がバンダリに集結し始めているらしい。


今日の私の任務は、郊外の村に行ってそこでの投票所の設営と警備の任務がある。

本来であれば、この活動の事実上のリーダーである。警視庁刑事部から出てきた佐伯智明 警視がする任務だったが、彼は市内の警察署での刑事課創設に燃えすぎて市内に残って作業をしたいとかで私が本来の任務を代わりにすることのなった。


「いやいや、暑いですね。的場さん」


「あ、どうも佐伯警視」


色々思いを巡らせていると、ビルとの間に中年の日本のお巡りさんが入り込んできた。彼が佐伯智明だ。


「今日はごめんね。的場君にビルさん〜。どうしても、バンダリの警察署に熱き心を持つ警察官達がいてねー知る限りの日本のノウハウを教えてあげたいんだ」


「いえいえ、佐伯さんの手腕はすごいですよー今度はインド陸軍のMPにも講師で来て欲しいですよ」


ビルはそう笑いながら、褒めの冗談をこぼした。佐伯警視はそれを聞いて笑みを浮かべた。


「ええ、機会があればどこへでも」


佐伯警視と私の年齢は3歳差でしかないが階級は大きな開きがある。私は所謂ノンキャリで巡査部長。彼はキャリア組の警視だ。現場の人間ではないのに現場にどっぷり浸かっていて警視庁では現場から好かれるキャリア組の一人でもあるらしい。

ニコニコして刑事部を引っ張ってはいるが、心の中では燃える正義感の元で仕事をしていると本人は言っていた。本当にこの仕事が好きなのだろうと私は感じている。


そんな私は少し正反対な感じだ。これしかできないから残っているような感じだ。

本当は地域課でだんまりと普通のお巡りさんをしたいのだが...SWATチームを皮切りに警護課、外事課、DI6と普通のお巡りさんが通ることのないエリート街道を通ってしまった結果今に至る。

最初は彼のように仕事大好き燃える人間だったが、今となってはとりあえずぶら下がっているだけの私だ。


「それにしても、的場君。最近バンダリの街の中がへんな雰囲気があるんだが。なんか聞いてないか?警察署内はそうでもないらしいが、あまり見覚えのない難民なのか地方からやって来た人なのかが増えているようらしいけど」


佐伯警視はそう元諜報員としての私の能力を知ってか時折色々情報を聞いてくるが、彼も刑事畑が長いのもあって私と同じぐらい情報収集能力は長けている。私に聞くことに関してはほぼ裏付けを成立させるためだろう。


「ええ、私の知ってる限りでは。テロ組織の残党勢力がバンダリに集結しつつあるらしいという情報はありますよ」


「なりほど、やはりそうなんですね」


佐伯警視はウンウンと頷いていた。多分だがほとんど私が持っている情報を本当だと思えるほどの証拠を集めきれているのだろうと感じられる。


「刑事は足で稼ぐからね〜。私は少し心配だよ。インド軍の皆さんはそう情報あまり聞いてません?」


ビルはそれを聞いて、うーんと困った顔をしてこう言った。


「噂程度なら聞いてます。連隊本隊がバンダリに介入するほどではないと思います。バンダリ市内には政府軍の治安維持部隊、新設された警察に我々を含めた国連軍の部隊も警備に当たってるわけですし、私は安全だと感じますよ」


ビルはそう少し心配そうな顔をしたが、それを見た佐伯警視は笑ってこう言った。



「だと、いいんだけどな....まーインド軍がいれば安心だよ。対戦車兵器も対空兵器もあるんだし。

よし、時間だ的場君。私の代わりに隣村に行って仕事をしてきてくれ」


そう言われて、私とビルは佐伯警視に背中を押されて装甲車に詰め込まれる形で、入れられた。


「そんじゃ。この世界のために働こうぜ、的場巡査部長。世界を平和にできるなんて光栄じゃないか!

警察官最高!俺仕事ジャンキーだなとつくづく思うよ」


手を振っている佐伯警視が小さくなるまで、私は助手席のサイドミラーから彼を見ていた。

彼の中には燃える正義感と仕事に対する情熱を常に感じていた。彼が将来日本警察を引っ張るのなら現場のノンキャリアはきっと誰もが喜ぶだろうと感じる。どっぷり官僚主義に浸かった現在の警察官僚とは少し異色の人物だからだ。


バンダリの街を離れて砂漠を進む装甲車内で、考えたくなかった事態が発生した。

装甲車内の無線がなって、ヒンディー語と英語交じりの無線通信が聞こえた。

DownやOpen fireという単語は聞き取ることができたが詳しい内容は分からなかったが、隣でハンドルを握っていたビルの顔に緊張感があるのを感じた。


「All squad stop vehicles....」


そう、無線のマイクをとって指示を出した。


「やばそうな感じだけどどうかしたの?」


私はそうビルにたづねると、大きく息を吸って答えた。首筋の脈が大きく脈打っているのを見てかなり緊張しているのは感じ取れた。


「バンダリが攻撃された」


彼は詳しく無線の内容を説明してくれたが、私はそれを聞いて脚が恐怖で震えたのと同時になんだかは分からないが、助けに行かないとと自分の中かそう声を出してしまった。


バンダリで何者からの攻撃を受けたそうで、上空で市内警戒を行なっていた中国空軍のヘリが地上から攻撃を受けて撃墜されて市内に落ちたのと同時に、各署の公共施設が武装した民兵によって攻撃されているとのことだった。勿論だが、我々の拠点である警察署も武装民兵に攻撃を受けているということらしい。

同調した民間人が暴動を起こし始めたとの話もあるしい。


ーーーバンダリ市内が戦場になっているーーー


私の護衛についていたビルのライフル小隊が現場に一番近いようで、先遣隊として市内に戻るようにとの指示を受けたようだった。

ビル自身はインド軍内では超がつくぐらいのエリートではあるが、実際のバンダリにやってきたのも政権が安定してからだ、ほかに実戦の経験は浅い。

それがあって、普段以上にも緊張しているようにも感じられる。


「的場さん。行きますね。大丈夫ですか?」


震えを抑えながらそうビルは日本語で聞いてきた。

緊張や恐怖を抑えているのは私はひしひしと感じられた。


私も場面は違えど、このような危険な修羅場はSAWTでもDI6でも経験済みだ。爆弾やロケット弾は初めてではあるが...

私は足元にある鞄の中から、青塗りされた白字でUNと書かれたヘルメットと防弾チョッキを取り出して個人装備として持ってきたMP5サブマシンガンを取り出した。


「自分の身は自分で守りますよ。だから、ビル。心配しないでくださいよ」


私はそうビルの肩を叩いて笑みを浮かべた。

ビルは頷いて、力強く指示を送った。


まさか、自分自身が軍隊に属してもないのに本物の戦争というものを体験するとは思いもしなかった。


現実に起こっている、さっきまで普通だった場所が映画のセットのように非現実のようなものに変わっていた。


さっきまで賑わっていたバザールには人の気配も活気もない、固く閉じられた民家と街に響き渡る銃声だけが強く印象づけた。


警察署が今攻撃を受けているらしい、そこの救助へ向かうのが先決だとインド軍の司令部はビルの部隊と自衛軍のセルウス部隊を急行させた。


「佐伯警視...無事だといいんだけどな」


私はそうふと思ったことが口から流れるかのように発された。


「大丈夫です。我々が助けます!」


切り替わったのだろう、自信に満ち溢れるビルがそう答えてくれた。

するとその時、バザールの端に停車していた車が爆発した。


「RPG!!」


ビルの部下の声が響いたあと、銃撃戦が始まった。

警察署まであと300mーーー

そう、私は戦闘地域に入ったのだ。



To be continued....

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