第1話:変電所立篭
こんにちは的場です。
現場に向かって行き往々と士気が最高潮に高ぶった部下を引き連れて香浜の夜景をパトカーで爆走して来たのはいいのだが....
場所はSAR基地のある中環区から、おおよそ15分。郊外地域になる新地区にある街から外れた場所の変電所だ。
現場に着いた時に今回の現場は予想以上に面倒なことが起こってしまった。
それが何だって?
それが酷いのなんの
剛山がパイロットを勤める。SU-21がエンジン系のトラブルを起こしてしまって行動できなくなってしまったのだ。
PTUのレッカー車をお借りして帰署するように命令をしたのだが
「隊長ぉぉぉぉぉぉ!!!!戦わせてくださぁぁぁい」
と巨体をぶり回して駄々をこねていた。桜井と相楽の若い二人に手伝ってもらったが宥めるのに少し体力を要した。
PTUのレッカー車に運ばれて行く、多脚戦車をうっすら涙を浮かべながら、剛山は見送っていた。
そうそう、このSU-21は燃費も悪いこともさておき、3世代前の旧式戦車のため、パーツは香浜に無ければ本土の国防省にしかないという良くも悪くも面倒臭い奴なんだ。
AIのOS自体は最新鋭のものなのだが、肝心の外装部分が無いという。よくいう、中身はいい奴なんだがなぁという人と評価しても間違いはない。
しかもだが、最新鋭のセルウス機体やそのパーツの予算申請を出しても一向に通してくれないという、痛い現実もある。
そんなこともあって、多分今回の故障も応急処置のみで根本の修理はできないだろうと感じられる。
「もぉー全くですよ」
そう、桜井はため息をついた。
今回対処するパイロットは新人の桜井一人になるからだ。きっと、仕事が難しくなったのが面倒なのだろうと感じられた。
「まぁ、まぁ。桜井君。相楽巡査長含めた支援班もいることだし。相手はこの前の演習で戦った軍用とは違うから大丈夫、大丈夫」
桜井はパイロットとしての腕は天才レベルと言えるぐらい確かだ。実戦経験は今回で3回目になるにだが、先月に本土で行われた警視庁と陸上自衛軍の合同工作機械対策訓練でドッグファイトで敵機体であるSU-21の最新機体でかつ軍用仕様のSU-30を撃破するという快挙を挙げているからだ。
勝てた理由はいろいろあるが、敵機が無人で補助AIのみの操縦で旧式のOSを使用して、こちらが最新のAIをOSを使用しているのと暇を持て余してはセルウス対策の訓練をやっていたことが撃破という結果を生んだのだろう。
私は桜井の肩を軽く揉んで緊張をほぐしてやろうとした。
少して桜井は一つ大きな深呼吸をして、私にアイコンタクトをして自信に満ちた顔をして頷いてコックピットに戻った。
現場は街はずれにある変電施設ですでに先着していたPTUにより包囲されており、逃走機体は既にこの施設内に潜伏しているらしい。
犯行に使われた工作機体は日本製のKouzinという工事用の物で人型の全長3m程の小型機のレイバーというのはわかっていた。武装はない、いたって普通の工作機体というのは追跡中していたパトカーのドライブレコーダーから確認はできている。
武装は無いとはいえ、暴れる工作機体を鎮圧するには香浜警察が持っている通常装備では対処は難しい。ましてや、一般パトロール警官は拳銃も装備していないし持ってる警棒やスタンガン、催涙スプレーで対処できるもんでも無い。
過去に勇猛果敢にも工作機体犯罪を鎮圧するために警棒一本で犯人を検挙した事例もあるが、鎮圧出来ずに受傷事故の方が多い。
ま、その警棒一本でで倒した強者が剛山なのだが、死の狭間を彷徨うような重傷を負ったとの話だ。
警察署単位で銃器を扱えるERTというアメリカ警察でいえばSWATのような部隊は存在するが彼らは対人部隊であって工作機体に関する知識や訓練はしていないし、唯一対抗できる武器として軍用小銃であるL85A2という旧宗主国からのお古の銃ぐらいだ。その銃なら機械を壊すまで撃ちまくるか、最悪コックピットにいる犯人を黙らせて工作機械を止める事は出来るだろう。
極力は犯人を検挙するのが、我々警察のお仕事なので、そのようなことはお国が許さないので我々SARが工作機体同士で殴り合って鎮圧するか話し合いによって平和的に解決するというのが通常となっている。
残念なことに、ロボットバトル物を想像されていたかもしれないが、この香浜を含め世界各国での工作機体での戦闘...特にドッグファイトと言われる近接戦はほぼ無い。だいたいがお話し合いで解決してしまっている。
事実、戦場であっても工作機体同士のぶつかり合いは皆無でロケットランチャーやミサイルの撃ち合いだ。なんともロマンもかけらもない事実だ。
だが、実際に起こっているものなど殆どがロマンなんて感じられない。美化して聞こえる近接戦闘ももはや喧嘩そのもの。
抑え込んだところに支援班による狙撃で機械部を破壊して停止させて検挙という大前提の戦闘プロトコルが一応組まれてはいる。
「で、小型のKouzinってことはこの変電所内にも潜伏可能って事か...」
私は壊された変電所のフェンスを見てふと、あることを感じた。それは建物内SU-21では少し進入路が狭いというところだ。入れるところまで入ってあとはマンパワーでKouzinを検挙しなければならないようだ。
「隊長。この変電所の地図をダウンロードしました。ご覧ください」
そう、言って相楽巡査長は私にタブレットを手渡した。地図上では作業用に工作機体が通るための通用廊下が用意されており、道は一方通行だった。要は、犯人がKouzinを破棄して徒歩で逃げてない限りは、機体ごと変電所内にある程度予想のつくところに潜伏できるということだ。
変電所周辺は完全武装のPTUと所轄ERTが包囲しており、人一人この変電所から抜け出すことはできないようだ。
変電所は点検時以外は無人の建物であり、人質の情報もない。包囲して広報車で呼びかけているが、立て篭もった犯人からの要求などの返答はなし。
「桜井巡査はSU-21でそのほか、強行犯、支援班は防暴装備で入るか。いつもの寄ってたかってで行こう」
ーー了解
そう、各人から声が聞こえた。
防暴装備は簡単に言えば、対暴動用装備のことで全身プロテクターを身につけて、小型工作機体なので安全策を取った上で桜井巡査を中心に数で寄ってたかってかって大作戦を行おうというわけだ。
プロテクターを身につけた強行班7名と支援班3名は手にL85A2を装備して、突入準備を整えた。
私は、プロテクターを着て護身用に隊長専用の防暴装備に備わっている、グロック17という自動拳銃を手に取り弾倉を銃底から差し込み初弾を手動で装填した。
それと同時に部下たち全員もL85A2に初弾を手動で装填した。ガチャリとほぼ同時に音がなり場の雰囲気が一変した。
「各員、装弾に不良はないな。さて、通路は一本道だ。一応だがクリアリングを行なって、サーチアンドデストロイということで検索して犯行機体を探そう。見つけても撃つなよ...
まずは交渉だ」
「Yes Sir!!!!」
そう図太い大きな剛山の返事が聞こえた。すでに興奮気味なのか鼻息が荒い。
「よし。スタッグを組んで侵入する」
スタッグは隊列という意味だ。
一つ言い忘れたような気がするが、一応なんだが香浜警察内では数少ない近接戦闘、森林戦、山岳戦などの軍事的な作戦行動を触りではあるが訓練している部隊の一つだ。他にこのようなことを行うのは対テロ部隊のSDUと言う特殊部隊とPTUぐらいだろう。
私は手で合図を出し、変電所内にSU-21を先頭に部隊を変電所内へ進めて行った。
変電所内は作業用の電灯が光って廊下を照らしてはいたがどこか薄暗さがあった。どこに犯行機体や犯人が潜伏しているかわからないが、所々機体を擦った跡や犯行機体の部品と思われる金属片やプラスチック片が転がっていた。
スタッグを組んで各員で周囲を警戒して道を進めていった。
考え過ぎかもしれないが、手榴弾を使ったブービートラップのことや、機体から降りた犯人が武装して建物内に潜伏している可能性も考えながら部隊を進めた。
先頭を行く、剛山が止まりハンドサインを送ってきた。
犯行機体を発見したようだ、電灯の影になって見えにくくはなっていたが人型のボロボロになった工作機体が横たわっていた。
私はハンドサインで部下たちに、周囲を取り囲みように指示をして変電所内の他の場所も検索かけるように指示をした。
犯行機体のコックピットは固く閉じられているようで、乗り捨てて逃げた痕跡は見当たらなかったが念のためを考えて部下達を犯人狩りに向かわせた。
残ったSU-21の桜井と完全武装で小銃を構える剛山が犯行機体を挟み込むように構えた。
「警察だ今すぐ開けろ!!Opet the door!!」
拳銃を構えながら私は犯行機体のコックピットの扉に向かって叫んだ。
しかし、中に人がいるのであろうが反応がないし、動く気配はない。
ボロボロの機体だったため途中で意識を失って、今中で気絶でもしているのだろうか?
中を見れないので何なのかは判断がつかなかった。
剛山を近くに呼び扉を開けるので、中を警戒するように伝えた。落ち着いた剛山が近づいてきて扉の前に立ち銃を構えた。
剛山のいいところは戦闘狂であるが、いざという時は常に冷静で上司がいれば確実に命令を聞き入れるところだ。非常に落ち着いた呼吸で、鼻息の荒さも無くなっている。
きっと、正反対に場数が少ない桜井は緊張しているだろうと感じられる。
無線からは、検索に向かった部下からクリアーの声が聞きこえた。外の部隊から抜け出したなどの情報は一切出てこない。
どうやら、この中に犯人はいるのは確実のようだ。
私は大きく息を吸って。ハンドサインで三秒で扉を開けることを支持した。
工作機体には大体なのだが、非常用解放ボタンやレバーが付いており外から開けることが可能になっている。中からロックが掛けられるものは特注品で軍や警察にしか納品されていない。
労災事故時の救出用とされているが、我々に取っては確実にパイロットを逮捕するためのツールのようなものだ。
Kouzinにも例外なくその装置は備わっている。非常に分かりにくくはあるが、扉についているボタンだ。それをゆっくりと押した。
ロックが解除される音が聞こえ私はカウントをした。
「1、2、3」
手動で扉を開けた。私はコックピット内に銃を構えた。
「あれ、いない?」
思わず声に出してしまったが、狭い一人が座れる広さのコックピット内には誰もいなく。椅子の上にノートPCが乗っているだけであった。ノートPCは開かれていて、画面になにかの文字の羅列がされていた。
何かのソフトそ立ち上げているようだが、何か関係はあるのだろうかそんな疑問はあった。
銃をホルスターへ納めて、フラッシュライトを取り出して、コックピット内を検索した。
『隊長?誰もいないですよね...でも、これって遠隔操作ができる仕様の機体ではありませんし、コックピットに人がいないなんておかしくないですか?』
そう桜井が無線を飛ばしてきた。
確かにそうなんだ、流通しているレイバータイプの工作機体は遠隔操作ができるものは自走できない仕様の物が殆どで、ましてや人為的操作を必要とする工作機体には高度な操作とプロムラミングが必要でそう簡単に遠隔操作仕様にはできない筈なんだが。
セルフAIでの行動を組み込むことが出来なくはないが、話を聞く限り強盗を行ったのちに逃走して逃げるという操作はそう簡単には出来ないはず。
そうなると、犯人は逃げたのか?
よくよく探ると、コックピット内は真新しく新品を意味するように透明の保護カバーを掛けられていた。計器にも同じくカバーがかけられており、臭いも新車と同じものを感じ取れた。
詳しくは見えなかったが、詳しくは見ることは難しいが犯人のものらしいぱっと見では体毛等も見当たらない真新しい工作機体のコックピットであった。
唯一不自然なのは座席の上に乗っているノートPCのみだ。
変だ、私はそう思えた。
もしもこの機体が新品の物であるならば、強盗を行なった上で逃走してこの場に逃げるという行動はあまりにも考え難い。このノートPCがキーになっているかもしれないが、よくよく見ればこのPCはオンライではなくオフラインでネットには繋がっていいない、完全なスタンドアローンという状態だった。
もしも考えこのPCでAIを操作していたとしても、行動な行動をさせるには容量が足らないようにも感じられた。
まー色々と考えはしたものの...
ここから先はSARの仕事では無いので声を張って指示を出した。
「おいーみんな!刑事課に引継ぐから現場保存して出るぞ」
部隊を引き揚げて変電所の前で円陣を組んで、各員の顔色を確認した。
冷静な相楽、疲れた顔色の桜井、興奮気味の剛山。そのほか色々な顔色をしている隊員達。共通しているのは緊張感から解放されて少しはホッとしているのと防暴装備の通気の悪さから少し寒い夜中ではあったが全員汗だくだった点だ。
久々のどんぱちは無かったが実戦という事で、皆疲れているようには感じられた。
「各員。問題ないな?刑事課に引継ぎも終わったことだ。我々は帰るとし....」
その瞬間だった、聞き覚えのないヘリの音が凄い速度で近づいてきて風圧を感じるほどの低空飛行で頭上の上を飛んで行った。
思わず、SARの隊員一同と現場に入ろうとしていた刑事課の刑事達は驚いた顔で見ていたが。
私は驚きながらも何か変な気がしていた。
なぜならそのヘリコプターは暗くて確認し難いようには感じたがOD色に日の丸が書かれてあり横には黒字で“陸上自衛軍”と書かれてあったからだ。
この空域での訓練は確かによくあることらしいのだが、変に低空飛行だったのと...
私自身初めて見る対戦車用の攻撃ヘリだった。
翼にある対地ミサイルだろう二つが火を吹き出したのを確認して。
「おいおい!全員伏せろ!!!」
私がそう大声で叫んだその瞬間にその場にいた全員が地面に伏せた。
気がついたのはそのあと少ししてからだろう。
一瞬の間衝撃による脳震盪で気絶していたように感じられた。
身体を起こし頭を振って、ふと我に返って周りを確認した。
変電所からは火が吹き出ており周囲にはコンクリートの破片が飛び散っていた。
周りを見当たせば、近くにいた刑事課の警察官達がPTU隊員達の介添えで燃え上がる変電所から離れていっていた。
「隊長...」
そう、ぼんやりと声が聞こえて私は振り返るとそこには相楽がいた。
「おい。全員無事か?」
相楽は頷いて答え、歩こうとするが脚が言うことを聞かないようで、彼の肩を借りてその場から離脱した。
「全く爆発には懲り懲りだよ。あの中東以来ウンザリしてんだよ」
思わず私は過去のことを思い出して、愚痴をこぼした。相楽は一瞬首を傾げたが、私がこの話を聞いてほしくないことを察したのか何も言わずに歩き続けた。
PTUの現場指揮本部の車輌に近づいた時だった。そこには武装した。迷彩服を着た完全武装の集団が20人ほど整列していた。前には黒いコートとハットに身を包む同い年ぐらいの中年の男性が不適な笑みを浮かべていた。
迷彩服を着た部隊は香浜警察にはいない。迷彩の柄と持っている銃が日本純国産の25式小銃であるのを見て彼らが何なのか理解できた。
「香浜警察の皆様。ここは日本国政府の陸上自衛軍の関係地域なので。退去していただけますかな?」
男性の顔を見るなり、私はふと過去を思い出し彼が誰かを思い出した。
彼は国内の諜報活動に従事している国防省情報局諜報第5課、通称DI5のシライシという男だったからだ。
なんで、私が彼のような本土の諜報組織の人間を知っているかって、それは次回お話しようと思う。
香浜警察の一団は陸上自衛軍に追い出される形で変電所の近くから追い出された。香浜消防局の消防車も到着したが、陸上自衛軍の兵士が道路を封鎖して、自衛軍の消防車だけを通していた。
現場は半分キレている人と諦めが入っている人と色々な人物がいたが。
私はあまりにも腑に落ちなさすぎて重いため息をついた。
「おかしいぞこれは...何か嫌な予感しかない」
鈍痛で痛い頭と悩ましい痛い頭を抑えながら私は、遠くで燃える変電所をぼんやりと眺めていた。
To be continued....