第10章:夜明け作戦(他人の過去話)
話は少しブレますが、今回は私こと的場の回想ではないのでご勘弁ください。
デイブ部長が昔に関わった事件の話になります。
ではお楽しみください。
「以上でブリーフィングを終了する。質問はないな?4時間後にA装備を整え、C格納庫へ集合しろ」
そう言って、40代の中佐はノートPCを閉じた。それと同時に席から全員が立ち上がって、作戦会議室から出た。
「ディーン・フォルグレン大尉?」
そう言われて、呼び止められた30歳のディーンは振り返った。話しかけてきたのは年齢は同い年だがディーンよりも在隊歴の長い下士官のアレックス・ラトル軍曹だった。
ディーンは今回の作戦で現場に降り立って前線指揮を行う士官でアレックスは補佐する参謀的立場をしている。
「よろしくお願いします。無事に帰ってあのオーストラリア人の奢りでBBQでも行きましょう」
「え、まじかよ」
そう横にいた、二人と迷彩服の柄の違う大柄の人物はノートに作戦内容を整理していたが、それを聞いて立ち上がった。
「なんだよ、デイブ。ダメなのか?」
そうディーンが言うと、
「ダメじゃねーけど香浜に引っ越すのに金がいるんだよ」
そう彼、ディーンと同世代のぐらいであろうデイヴィッド・マクレガー中尉は口をへの字にしてちょっと拗ねるような表情を見せた。
それを見たディーンはこう言った。
「いいじゃないか。黙って警官でもしてれば金にはこまんねーだろ」
「もー働きたくないよ」
デイブはそう言って、席から立ち上がり部屋を後にした。
ディーンはその彼を見送った後、今回の任務で起こりうることを頭の中で巡らせてみた。
今回の任務は元は英国領だった香浜行政自治区に反日本政府勢力のテロリストグループにより極秘裏に局地戦闘用の新型工作機体が持ち込まれるという情報を事前に受け、教えられてはいないが色々な利権からか英国がそれを極秘裏に海の藻屑にするという話になっている。
民間のタンカーを装って、現在は香浜付近の公海上を航行しているようだ。日本軍の情報筋によると籍不明の潜水艦が少し離れた場所からそのタンカーを護衛しているようで容易には近づけないようになっているようだ。
ディーン率いるA班の任務はその工作機体の破壊とその機体にあるブラックボックスの回収が任務とされている。
敵の数は18人。武装は衛星写真より判明しているのはAK-74で6名の武装警備員がいることだけだ。
格納されている場所は大まかに検討はついている、なんせ割と大型の工作機体だそうで、見つけるのは容易だろうと踏んでいる。
タンカーの地図はすでに頭に中に入れている、SASだけでも十分な作戦ではあるのだが、お上の都合かどうかなのか海兵隊のSBSとオーストラリア陸軍のSASRが安全確保要員としてで構えている。
一方の日本は英国との返還合意による条約によって香浜沖での軍事作戦行動が取れないということで、遠巻きに沿岸警備隊のクルーザーを配置しているだけだ。
任務はそこまで難しい事もない、武装警備員もテロリストグループが極秘裏に集めた素人集団である事は調べが付いているし、遭遇したとしても数の上でSBSとSASRの支援もあるのでそこまで恐れる事もない。
色々考えを巡らせながらも、ディーンはふと毎回実家のリバプールにいる家族のことヘレフォードの妻と子供の事を思い浮かべた。
恐怖はいつもつきまとう。だが、それに打ち勝つだけの勇気はいつも備えている。
「なーなーディーン。よかったら、一緒に香浜にでも移住しません?」
そう部屋の外からデイブの声が聞こえたので、ディーンは扉をあけて目の前にいたデイブにこう答えた。
「まー考えておくよ。ヘレフォードも嫌いではないが好きでもないからさ」
ーーーーー
タンカーの上はとても静かに感じた、聞こえるのはエンジン音と雨の音だけだ。人の気配もあまり感じない。ハンドサインで各自に装備と準備を整えるようにディーンは指示を送った。
海をのぞき込むと、SASを送り込んだ高速ボートが離れていくのを確認することができた。
我々の音は出してはいけない、まだ船に味方はA班の4人のみだ。別のポジションからSBSとSASRが乗り込んでくる。それまではあまりドンパチをしても負け試合になるのが見えているからだ。
持ち込んだ銃はサイレンサーをつけてMP5サブマシンガンとP226だけだ、そのほかは救命胴衣にスタングレネードといったところだろう。
格納庫までの所要時間はおおよそ3分。
それまでに接敵がなければ、ほんのすぐに終わる任務だ。
先頭を行くポイントマンのロイを先頭にメカニックのジョン、リーダーのディーン、リアセキュリティーのアレックスと続いた。このチームで閉所での作戦経験は豊富だったため、素早くなめらからに何事もないように歩くように他から見ると見えているだろうと感じられた。
工作機体の入った格納室に接敵することなく、近づくことができた。
無線機からはSASRのチームが外にいる敵を次々と制圧し、SBSが操舵室を奪い完全に外が安全で船の主導権も握ったことを知ることができた。
音をたてないようにゆっくりと扉を開けると、中は大きな倉庫のようになっていてコンテナで迷路のようになっていた。ここのコンテナの配置までは聞いていないし、情報になかった。
ディーンは慎重に4人で進むことを決断し、隊列を組みなおし進んでいくことにした。速度は落ちるが、確実に進むことを選んだのだ。
突然、ロイがしゃがみ込んだ。この行動は接敵だ。
二発銃声が倉庫の中に響き渡って、日本語の叫び声が響き渡った。
ロイはその見つけた敵を仕留めたようだったが、4人のテロリストが銃をこちらに向けているのがわかり、ディーンは隊列を崩して横線になるように指示を出した。敵の放った弾丸がディーンの耳元をかすったのを感じたが、銃撃戦はそれで終わってしまって、4人の敵は数秒で制圧されてしまった。
周りを確認し、安全であることを確認してディーンはこの船に乗ってから初めて声を出した。
「ケガはないか」
それぞれ、Noと声を出して答えた。声を出したのは確認された武装された敵が全員いなくなったのを確信したからだ。だが、まだ潜伏している敵はいないとは限らないでの隊列を組みなおしてコンテナを縫うように足を進め、やっとのことで布がかぶされている目的の工作機体に接触することができた。
人型の工作機体の大きさはざっと3mほどだろう。詳しくは聞いていないが、全地形型の特殊作戦行動用の最新のAIを搭載した。セルウスと呼ばれるタイプのものらしい。
ジョンが手慣れた感じで、コックピットのハッチを開けて、中から少し大きめの黄色いUSBメモリーのようなものを取り出して、それを3人に見せた。
ディーンはブラックボックスと聞いていたから黒い箱だと思っていたが、今回のものはUSBメモリーのようなものだとは事前に聞かされはしていた、なので少しばかり何か宝箱を探しに来ていたつもりでいたのが裏切られた気分になった。
回収が済んだことを無線で伝え、すぐさま引き上げることにした。
ディーンは工作機体の足元にある無造作に落ちていたフロッピーディスクを手に手に取った。
大学の第二外国語以来の日本語だから思い出すのと漢字に苦労をしたが、この工作機体に関する重要な情報が入っていることが読めないが判断することができた。それも持ち帰っておこうと思い。ポケットの中に入れ込んだ。
その時だった、ギシギシという音を鳴らして大きく揺れた。
しかし、その音は船とは関係ない音だったようで、機械の起動音が聞こえた瞬間にセルウスの近くにいたジョンの悲鳴が聞こえた後に何かにぶつかる音がディーンの耳の中に入り込んできた。
振り返るとそこには、電源が入って起動しているセルウスが立ち上がっていた。
「危険排除。敵の武装を確認。攻撃を開始します」
そう大きな機械音が聞こえ、ついてあるカメラがディーンの方に向いた。機械ではあったが、明らかにこちらを攻撃する意図があるように感覚的にディーンは感じた。
大声でこう指示を出した。
「おい、逃げるぞ!奴に勝てる武装は今ない!ジョンを運び出して甲板まで上がるいいな!」
「了解」と残りの隊員が言った後にジョンが痛そうに立ち上がった。どうやら怪我は浅いようだ。アレックスがそばにつきながら動き出した。
ディーンとロイはセルウスに向かって、牽制するために銃をセミオートで数発撃ち込んだ。
「あーも!9mmだと軍の装甲は抜けねー!!」
ロイはそう少々苛立ったような声で叫んだが、ディーンは冷静にこう言った。
「足の関節部を狙って打て。コックピットに人がいないんだそこしかない」
関節部を攻撃し始めると徐々にセルウスの歩く速度が遅くなり始めた。
連携は取れる部隊だったので、徐々に攻撃はしながらも、距離を稼ぎながら後退することができたが部隊の移動速度が遅いため出口まではまだ遠いーーー
「リロード!」
ディーンはそう言って、弾倉を最後のものに入れ替えた。
しかし、セルウスは動きがぎこちなくはなっていたが、ゆっくりとした速度でこちらに近づきつつあった。
怪我をして速度が遅くなったジョンがいるせいか、
思うような速度で後退が出来ずにいた。
そろそろ弾が切れる。
「くたばりやがれ!このクソ野郎!」
そうアレックスが叫びながら、MP5の弾を全て打ち切って、拳銃を構えた。
するとその時だったーー
「おーい。何手こずってんだよ!全員伏せてろ〜!」
どことなくデイブの声が聞こえた。セルウスに何かが当たった音がしたのでディーンは衝撃に備えるように全員に指示を送ってた。
セルウスの上半身部分から爆破は起こり、セルウスの足が止まった。
そして崩れるように倒れこんだ。
「あぶねーじゃねか!?」
そう、ロイが叫ぶと別ルートからきたのか、デイブ率いるSASRの部隊が入り込んできた。
「まーいーって話じゃねーですか」
「めちゃくちゃだよ」
ディーンはそう言って、ほっと胸を撫で下ろした。
ーーーー
無事に今回も基地に戻ることができたが、厄介ごとがやってきた。
日本軍の取り調べにあった。疲れた身体には苦だが割と丁寧な聞き取りやすい英語での取り調べだったのでよかった。
取り調べの担当官の名前はシライシという老けた男で来年に定年退職をするらしく、私が持ち帰ったフロッピーディスクに付いてこう説明をした。
「これはすべてのセルウスに搭載されてる補助AIの元になったソフトで、これには詳しく言えないバグがあるらしくその捜査をしてる真っ最中」
らしく、提出を求められたので提出をした。
そして、一言付け加えられた。
「あのセルウスの暴走に関しては極秘裏にして欲しい」とのことだったーー
ーーーーー
「フォルグレン局長!」
そろそろ定年の年を迎えるディーンは慌て部屋の入ってきた部下が息を荒げてオフィスに入ってきたのに驚くこともなく平然としていた。
「セルウスの連続暴走事件の首謀者が洗い出されました!!」
「そうか。調べ続けた結果があったなぁ」
ディーンはそう言って、香浜のビル郡を見ながら手元にあった調査資料を手に取った。
「デイブが気づいてるだろうかな?」
ディーンはそうふと警備部長のデイブをふと思い浮かべた。
一連のセルウス暴走事件は自衛軍の一部が失踪した警察官僚のクーデター事件計画を使った香浜への内政干渉を強めるための茶番舞台のようだ。
現警察力では対応できない軍用セルウスの暴走事件を起こして、香浜地域での軍事行動をできるようにしたいという思惑が自衛軍にあるようだ。
分かっているのはそれだけで、
それに何のメリットがあるかまではわかっていない。
「あまり詮索する箱でもなかったかもしれないが...
この住み着いた香浜を守らないといけない」
ディーンはため息をついて、内線電話に手を置いた。
To be continued....