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will~失いたくないもの~  作者: 瑠草
第2章 フェアラート
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目が覚めると


ガタガタと音がする。体が小刻みに揺れる。まるで馬車にでも乗っているみたいだ。そう、あの日のように……


「――――――っハッ!……?馬車に乗っている?でも、俺は確か吊り橋で……夢、だったのか?」


もう森の中ではなかったので、町まであともう少しだろうか。

外の様子が見たくて身体を動かそうとすると、全身に痛みが走った。特に右足が酷い。


「いっ……!……夢じゃ……ないのか。なら、ここはどこだ?」


痛んだ右足を見ると、丁寧に包帯が巻かれており、他に怪我をしたところも手当てされていた。

全く状況が掴めない。頭が混乱して、しばらく動けずにいると、ゆっくりと馬車が止まった。


「おーい、物音がしたんだけど、目が覚めたのかな?」


そういう声とともに、俺のいる荷台に一人の女性が入ってきた。

肩くらいまである少し色素の薄いピンク色の髪を、ふんわりと三つ編みで二つにくくっている。頬には少しソバカスがあり、大きな丸い黄緑色の目と合わせて、活発さが滲み出ている。


「あ!やっと目が覚めたんだね!良かったー。やぁおはよう!名前の知らない誰かさん!」


……うん、予想通りだ。


「あ、あぁ……おはよう。えーっと……」

「私はリンカ。リンカ=アストラスだよ。よろしくね!」

「リンカか。俺はレン=ディオ……」


そこで俺ははたと気づいた。本名を名乗ると、色々とまずいのではないだろうか。名前=家名という形が一般的で、俺のように家名が2つあるのは珍しく、高等貴族か王族ぐらいしかいないのだ。

絶対に怪しまれる。それに俺は一応罪人という事になっているし、仕方ないか……


「俺は、レン=ディオルガンだ。よろしく。えっと……この怪我の手当は、リンカがやってくれたんだよな、ありがとう。」

「ううん、気にしないで!かなり酷い怪我だったから、放っておけなかっただけだから。まさかあんな所に人が倒れてるなんて思わなかったから、ビックリはしたけどね!」


あんな所……?そうか、俺は川に落ちたから、流されて普通は人が通らない所まで行ってしまったのだろう。


「馬車で移動しながらでいいから、俺を見つけた時のことを教えてくれないか?」


リンカの話によると、どうやら俺はマストニアとその真上にある国、ファーラントの境にある川の下流まで流され、ファーラント領に入り込んでしまったらしい。

リンカはフェアラート領に属する商人のようで、川で水を飲もうとやってきた所、倒れていた俺を見つけたらしい。

身元が分からなかったため、一番情報の集まるフェアラートへ行き、俺の情報を探すつもりだったらしい。

リンカが俺を見つけてから数日たっており、あともう少しでフェアラートに着くようだ。


「その……すまなかった。色々と迷惑をかけてしまったみたいで……」

「いいんだって!困った時はお互い様って言うじゃん!それに、只事じゃないって思ったからね。体中傷だらけだったし。……あぁ、そうだ。はいこれ。」


手渡されたのは城でマシュダルから貰った俺の相棒だった。あの日の事が遠い昔のように感じる。……そうか、俺はもうあの城へは帰れないのか。

そう思うと、胸が苦しくなって、気がついたら目から涙が溢れていた。


「あれ……?なんで……」

「ちょちょ、ちょっとレン大丈夫!?え、何?これ、泣くほど見たくないものだった!?ご、ごめん!」

「違う、違うんだ。……そうじゃないから……。」


俺は剣をぎゅっと抱きしめた。魔力を吸収して温かくなった刀身が、心を落ち着かせてくれる。


「……よく分からないけれど、レンにとって大事なものなんだね。川辺で倒れている時も、その剣だけだけは手放さなかったし。」

「……あぁ。すごく、大事なものなんだ。」


ぐぅぅぅぅぅぅぅ


「「……………………」」


豪快な音。どうやら俺の腹かららしい。

雰囲気もぶち壊しだ。数十mぐらいの穴を掘ってもぐりたい。走っている馬もヒヒィィンと鳴いた。……おい、馬鹿にしているのか。


「……ぷっ、アハハハ!!そうだよね、今までずっと眠ってたんだもんね、そりゃお腹も空くよ!大丈夫、美味しい物はすぐ食べられると思うよ。あっち見て!」


そう言ってリンカが指さした方を追って見てみると、そこには、大きな門に立派な城壁で囲われた街が見えた。城門の向こう側には赤・青・緑・黄色……様々な色の屋根の建物や、テントが見える。


「あれが、我らが中立国フェアラート!フェアラート領のど真ん中にあって、いろんな国から商人が集まっている、いわば商業の街!各国の名産品から物珍しい物まで、なんでもそろっているんだよ!……って、そのぐらい知ってるか。」


リンカは少し恥ずかしそうに笑った。自分の国のことだから、つい熱く語ってしまったようだ。でも、その気持ちはすごく分かる。俺もマストニアが大好きだからな。


「あぁ。でも、本で読んだことがあるぐらいで、実際に見るのは初めてだ。」

「そっか、じゃあ入ってすぐは驚いて動けなくなっちゃうかもねぇ。」

「いや、さすがにそれはないだろ。」


そんな事を話しながら、門を通るための列に並ぶ。門番が優秀なのだろう、すぐに俺達の番になった。


「次の者、こちらへ。」


門番は俺達を呼ぶと、片手に持てるほどの大きさの水晶を差し出した。それにリンカが手を当てる。


「さて、入国の目的は?」

「商売のために、他国からの商品の運搬です。」

「所属はどこだ?」

「フェアラートです。」

「なるほど……そちらの少年は?」

「こちらに来る途中で知り合った者です。この国は初めてのようですよ。」

「ふむ……おい!そこの少年!」

「あっ、えっ、はい!?」


完全にリンカに任せていたので、急に俺の方に話が飛んできて驚いてしまい、変な返事をしてしまった。くそ恥ずかしい……

しかし、門番はそんなこと気にも止めないかのように俺に近づき、言った。


「フェアラートへようこそ!」


門番はその厳つい鎧姿には似合わないような、満面の笑みを浮かべていた。




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