初任務へ
あれから数日、謎の文字を解読しようと試みたが、未だに全く進展がない。正直、お手上げ状態だ。
兄ともあまり会っていない。最近は兄がよく城を空けていることが多く、顔を合わせる機会が少ないのだ。まぁ勝手に部屋に入ったこともあって、顔を合わせづらいというのもあるが。
「殿下ー!!レン殿下ー!!」
廊下を歩いていると、後ろから誰かに呼び止められた。
「ん?…あぁ、執事か。どうしたんだ?そんなに慌てて。」
「セレス陛下がお呼びです。王室の間でお待ちになられております。」
「兄さんが?分かった、すぐ行く。」
兄に呼び出されるなんて、初めてだ。一体何を言われるのだろう……説教は嫌だな。
「……視察任務!?」
何故としか言いようがない。王室の間に行き、久しぶりに会った兄から聞いた話は、なんと俺を町の視察に行かせるということだった。
その任務はマストニア領の最北に位置する町、ルノエールの町の様子を見に行ってきて欲しいという内容だった。
「視察って、俺が行く必要があるのか?そういう仕事は、騎士がやるもんじゃないのか?」
「今回の視察は今のマストニア国の状態を見て、どう思っているのか国民の声を聞くことが目的なんだ。国民の本当の声を聞き出さなきゃいけない。騎士なんかが行けば、萎縮して、何も聞けなくなるだろう。俺は、国民の何気ない会話に出てくるマストニアを知りたいんだ。」
兄の言うことは分かる。俺達が知らないこの国の現状を知ることは大事だと思うし、国が治める町一つ一つを大切にする兄は、王として立派だと思う。そんな兄の役に立ちたい。
しかし、俺には懸念すべき問題がまだ残されていた。
「俺……城から出たことすらないのに、いきなり外の街に行って、大丈夫なのか?」
そう、俺は生まれてから城の外に出たことがない。いわゆる箱入り息子っていうやつだ。
まず、国王セレスに弟がいることすら、知る人はほとんどいない。知っているのは、各国の国王や、城で働く一部の人間のみだ。
国の接点は、将来国と国とを繋げる重大な役目を担っているため、国は国の接点をとても大事にしている。国同士の均衡を壊すなら、国の接点を襲うのが一番手っ取り早いと言われるぐらいに。
その為、国の接点は人々に存在を知られないまま、大人になるまで城の中で生きていく。15歳になり大人と認められると、城を出て、少しずつ世界を知っていく。
「たしかに俺はもう15だけど、いきなり最北の町って……もう少し近くてもいいんじゃ……」
「なに弱気になってるんだよ。」
「なっ……!別に弱気になってるわけじゃない!」
「あははっ!まぁお前にとったらどこだって同じ外の世界なんだから、大丈夫だろ。剣の稽古だってちゃんとやってるし、あの辺比較的平和だしさ。なんとかなるって。」
兄は笑顔で俺の頭に手を伸ばしてきた。兄の少し冷たい手が俺の頭を優しく撫でる。
「……っ!子供扱いするなって!」
慌てて兄の手を振り払ったが、兄は特に気にした様子を見せず、ケラケラと笑った。
「わるいわるい!まぁお前なら大丈夫さ。ふらっとやってきた旅人って感じで話を聞いてきてくれよな。」
そんな風に言われたら、やるしかないじゃないか。……やっぱり兄には敵わないな。
「分かった。その任務、完璧にこなしてやるからな!」
俺は覚悟を決めて、俺の全てだった城を出て、マストニア領最北の町、ルシエールへと向かったのだ。
切りが悪いので、今回は少し短めにしました。
早めに次が出せるようにします( *˙ω˙*)و