相棒
次の日、俺はまた城内を歩いていた。昨日できたばかりの機械を使ってみたところ、まだまだ改善点があったので、今日はその調整をする。その為に必要な材料を、ある人から貰いに行くところだ。
城にある、たくさんの歯車がトレードマークの冷たく重たい扉を開けると、そこには薄暗い空間が広がっていた。
「マシュダル、いるか?」
「んん?……その声は殿下かの?……おぉ、やっぱりそうじゃ。」
声がしたと思ったら、少し痩せ気味のゴーグルを着けた老人が出てきた。
彼はマシュダル・トルケミオス。城専属の機械職人で、俺に機械について色々と教えてくれた人だ。
マストニアには国中を走る蒸気機関車があり、マストニアの象徴とされているが、その象徴の整備をしているのがこのマシュダルらしい。
だが、マシュダルは少し伸びた赤茶の髪をボサボサにし、汚れたツナギを着ているので、知らない人が見たらホームレスかなんかだと思われてしまいそうだ。
「やぁマシュダル。相変わらずボロい格好だな。もう少し身なりを整えたらどうだ?」
「余計なお世話じゃよ。私はこの格好が一番落ち着くんじゃからな。城はどうも堅苦しくてのぅ……。ところで、殿下はどうしたんじゃ?何か用があったんじゃないかの?」
おっと、本来の目的を忘れていた。
「そうそう、このリストにある部品が欲しくてさ。この部屋にあるかなと思って。」
「どれどれ……」
少し特殊な部品もあったので、マシュダルが持っているか不安だったが、リストを見たマシュダルの様子を見る限り、大丈夫そうだ。
「このぐらいの部品なら、おそらく用意できるじゃろ。取ってくるから中に入って待っていなさい。」
マシュダルの部屋は、率直にいうと汚い。床にはたくさんの部品や道具が散らばっており、天井から床まで機械で埋め尽くされている。
でも、そんな部屋でも俺にとっては遊園地みたいなものだ。マシュダルがつくった、見たこともない機械達が薄暗い部屋の中で楽しげなリズムを刻み、俺を魅了していく。何度来ても飽きることのない部屋だ。
機械の動く音を楽しんでいると、マシュダルが部品が入っていると思われる袋を持ってきた。
「待たせたのう。ほれ、これで全部じゃから確認しといてくれ。足りない物があったら、いつでも来るんじゃぞ。」
袋を受け取る時、マシュダルの腰に見覚えのない剣が携えられているのに気づいた。
……マシュダルは剣を持っていないはずだが?
「マシュダル、その腰にある剣は何なんだ?」
「むっ、気づいてしまったか。」
「いや、何で気づかないと思ったんだよ。」
ビックリさせようと思ったのにのうと小言を言いながら、マシュダルは1本の剣を取り出した。
いや、もう少し隠す努力しろよ。
「この剣は、殿下に渡そうと思ってわしが作ったんじゃ。鍛治職人にアドバイスをもらいながらの。」
「俺に……?」
「今まで騎士と同じ剣を使っておったじゃろ?もう殿下も15歳、立派な大人の仲間入りじゃ。自分の剣を持っていてもいいじゃろう。ほれ。」
渡された剣は今までよりも少し軽く、柄から刀身にかけて綺麗な装飾があしらわれている。刃先がキラリと光り、その剣の鋭さと、仕事の丁寧さを物語っていた。
「軽くて剣を振りやすい。すっごく使いやすいな!でも、軽くなった分強度とか大丈夫なのか?」
「これは、他とは違う特殊な剣でな、魔素を吸収しやすい“魔石”を使っておってな、魔素を吸収すればするほど強くなるんじゃよ。」
「強くなる剣…か。」
もう一度剣を見てみる。俺の魔素を吸収しているのか、少し温かい。
「なんだか生きているみたいだな…。こんな凄いもの、本当にもらっていいのか?」
「もちろんじゃよ。殿下のために作ったのじゃから、相棒として、大切にしてやってくれ。」
“相棒”――――その言葉を聞いて、胸のあたりがなんだかこそばゆく、でも心地いい気分になった。
「そっか……よろしくな、相棒。ありがとうマシュダル。」