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will~失いたくないもの~  作者: 瑠草
第1章 マストニア
4/9

兄さんと


「懐かしいことを思い出したもんだ。……あ、そうだ。昨夜出来たばかりの新作を動かしてみないと。」


自分の部屋に向かっていると、廊下で仕事をしているはずの兄がなにか見ながら立っていた。

……あぁ、あれは確かずっと昔に魔軍をたった1人で殲滅したっていう英雄が、死ぬ直前に残した言葉を刻んだ石碑…だったか?


「兄さん?」

「うわぁ!!」


予想以上にいい反応をした兄が可笑しくて、つい笑ってしまう。


「何してんの?仕事やってたんじゃなかったっけ?まさか……サボり!?」

「違うって!ちゃんとした休憩中!たまたまこの石碑に目がいってさ。」

「『人が失うことを恐れた時、誰よりも強くそして、誰よりも弱くなる』か。何を失う時なんだろうな。」


この文には不可解な点が多すぎる。そもそも、どうして強くなったり、弱くなったりするのか。一度は考えたが、頭が痛くなったので諦めた。


「レンは、この文についてそんなに考えたことないんだったか。」

「まぁね。よく分からないし。」


そう言い放った俺を見て、兄は何が面白かったのかクスクスと笑った。


「相変わらずだなぁ。……俺はね、よく考えるよ。自分にとって失いたくないものは何だろうって。多分それは、俺の弱点になるだろうから。」

「弱点?」


首をかしげる俺に、兄は続けて言った。


「だってそうだろ?失いたくないもののために、人は必死になって『強く』なる。でも、それを相手に握られたらこちらは何も出来ない……取り返しのつかないことになるかもしれない。だから『弱く』なる。」

「なるほどなぁ……」


自分では想像もできなかった答えに、俺は納得するしかなかった。


「じゃあ、結局兄さんの失いたくないものって何なんだ?」

「今、弱点になるって話をした所だぞ……普通このタイミングで聞くか?」


呆れた顔でいる兄の答えを待つ。

兄はとても立派で尊敬する兄だが、ふとした瞬間に遠い存在のように感じてしまう時がある。何故なのかは分からないが。

弱点を知れば、もっと兄の近くにいけるのかもしれない。そう思って俺は、期待を胸に兄の言葉を待った。


「んー……そうだなぁ…国が一番…かなぁ?」

「……本当に?」

「ホントホント」


嘘だ。目が泳いでる。

本当のことを教えてもらえなかったことはショックだったが、無理やり聞いてもダメなのだろう。

寂しいとか思ってない。これっぽっちも思ってない。


「……まだ、選べないんだ。」

「え?」


兄が何か言った気がしたが、よく聞こえなかったし、何でもないとはぐらかされてしまった。


「そんな事より、レンはどうなんだよ。失いたくないものはないのか?」

「えっとー、それは……」


兄を見る。国王としてみんなの前に立つ時とは違う、子どものようにキラキラした目。俺が赤ん坊の時から変わらず、ずっと傍にいた……


「――っ!兄さんが言わなかったんだから、俺が言うわけないだろ!絶対言わない!というか兄さんだけは死んでも言わない!」

「はぁ!?何で!?」

「何でも!!ほら、まだ仕事残ってるんだろ?早く行けって!」


俺だって立派な男だ。いわば思春期真っ盛りなんだから、素直になんてなれない。

そんなこと言えない、言えるわけがない。

俺はグズグズしている兄を置いて、自分の部屋に向かった。後ろから「おーい」とか、「扱いひどいぞー」とか聞こえるが気にしない。

やる事をさっさと終わらせてしまおう。



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