プロローグ
この世界には多くの国があるが、それらは世界に溢れる光の魔素によって、豊かな自然に囲まれているが、地域によって極端に気候が変化している。
こちらは真夏のように暑いかと思えば、あちらでは真冬のように寒く、そちらでは砂漠のように乾燥していると思えば、向こうではたくさんの雨が降っている。
人々はそれぞれの気候に適した生活を送っていた。しかし、人はいつも何かを欲する貪欲な生き物だ。自分に無いものを相手が持っていると、欲しくて欲しくて堪らなくなる。
──どんな手を使ってでも
長い長い争いが続いた。最初に手を出したのは何処だったか、それすらも今では分からない。只只新たな土地が欲しくて、互いに血を流していた。
そんな長い争いを傍観している者達がいた。
彼らの名は「魔軍」
「魔物」と呼ばれるものが集まり、人間とは違い、地下に広がる闇の魔素が溢れる世界で生きている。彼らの願いはただ1つ
──人間の世界を奪うこと。
魔素は心によって光になったり闇になったりする。
魔軍は待っているのだ。人間の心が淀み、世界に闇の魔素が広がるのを…
遂にその時はやってくる。人間の世界に魔軍が攻めてきた。
長く続く争いによって戦力も気力も尽き始めた人間たちは、魔軍に対抗しようと協力を始めた。ある国は火薬を使い魔物を蹴散らし、ある国は極めた剣術で薙ぎ払い、ある国は魔法を駆使しながら世界を守り、ある国は育てた薬草で人々を助けた。
しかし、それにもいつかは限界がくる。止まらない魔軍の進行、失われていく戦力──人々は絶望した。
誰もがもう駄目だと思ったその時、光り輝く魔素を纏った青年が現れた。
『もう大丈夫だ 』
そう言った青年は誰も見たことのないような威力の魔法を生み出し、次々と魔物達を薙ぎ払った。動きの素早い魔物に距離を縮められても、それを上回る太刀筋で切っていく。
その動き一つ一つに、魔素の輝きがを纏わせている青年を見て誰が言ったのか
『魔素に愛されし者…… 』
そう呼ばれた青年の姿に心撃たれ、奮起した人々は最後の力を振り絞り、遂に魔軍を追い払うことができた。
魔素に愛され、魔物を倒し、人々に希望を与えた青年は、英雄として人々に語り継がれていき、誰もがその英雄に憧れるようになった。
平和を願う英雄の信念に感化された人々は、まず緩衝国としてフェアラートという国を建てた。
国同士の繋がりを保つため、50年に1度、フェアラートから貴族の赤ん坊を1人ずつ各国の王家に預けることにしたのだ。その子供は国の接点と呼ばれ、大切に育てられた後、国同士を繋ぐ外交官として、フェアラートに戻ってくる。
さらに英雄は、闇の魔素の力を抑える聖器を全ての国にあずけた。
どの国が欠けても駄目なのだと、形として人々に示したのだ。
こうして、人々は新たな道を歩み始めた。
もう二度と、あのような悲惨な争いが起こらないように。いつまでも未来が続くように……
──そうして長い年月が流れ、この争いが昔話になった時代…
新たな影が、再び動き出そうとしていた──
まずは昔話からでした。
次から主人公が出てきます。