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第6話「空を飛ぶこと」

「くしゅんっ」

 突然、寒気を感じてくしゃみをした。寒気を感じたからなのか、くしゃみをしたなのかはわからないが、目が覚めてしまった。

 結局、彼には寝ない、って言ったのに眠ってしまった。まあ、でも眠気に抗えなかったのだから仕方がない、と自分に言い聞かせる。

 それから、ゆっくりと上体だけを起こして周りを確認してみる。

 今の時刻は昼を少し過ぎたくらいだと思う。まだお昼ごはんは食べてないけどそんなにお腹は空いてない。少し喉が渇いてはいるけど。

 あと、彼の姿は見えなかった。どこかに行ったんだろうか。だったらちょうどいい、今ここから飛び降りてしまえばいい。

 そう思った。だけど、もう少しよく周りを見てみると私の横で彼が横になって眠っていた。どうやら、彼も私が寝ている間に眠気と戦って負けてしまったらしい。もしかしたら、何もすることがなかったからそのまま身を委ねてしまったのかもしれないけど。

 今ここで飛び降りてしまおうか、という思いがよぎった。だけど、もしかしたら、寝たふりをしてるかもしれない、と思ったのでやめた。私がくしゃみをしてしまったからその時に起きてしまってるかもしれない。

 でも、そうなると私はすることがなくなってしまう。仕方なく私は彼の寝顔を眺めてみることにした。

 こうして彼が瞳を閉じていると日本人にしか見えない。だけど、彼の瞼の下には青色の瞳があることを知っている。

 そういえば、彼は死にたいと思ったことがある、と言っていた。

 その原因は彼のその日本人とは違う特徴的な瞳のせいなんだろうか。周りと違うといじめられるなんてよくあることだから。

 でも、それが原因だと一概に言えるわけではない。私が死にたいと思ったその理由はいじめられたからではなく生きているのがつまらない、と思ったからだ。

 だから、どうして彼が昔、死にたいと思っていたのか、というのはわからない。それを知りたいなら、彼に聞いてみるしかないんだと思う。

 ちょっと、聞いてみたいかな、って思う。他の人は死ぬ事に関してどんなことを思ってるんだろう、というのを知りたい。たぶん、それが死のうと思っている今の私が唯一知りたいことだろう。

 彼は静かに眠っている。ううん、本当に寝てるのかどうかはわからない。だけど、少なくとも私には寝ているように見える。

 少しだけ、彼に興味が湧いてきたような気がする。昔の彼が今の私と同じようなことを思っていたのを知ったから。

 内側に向いていた意識を再び外側に向けて、彼の顔を凝視する。人の顔を見ただけでその人の考え方とかわかんないかな、とか現実から離れたことを考えながら。

 と、そうしていたら彼の瞳が突然開いた。

「……お前は、俺の寝顔なんか見て面白いのか?」

 彼が体を起こしてから最初に発したのはそんな不機嫌そうな声だった。

「面白いとは、思いませんね」

「じゃあ、なんで見てたんだよ」

「あなたが何を思ってここにいるのかな、って思ってたんです。私はいてほしくないって言ったのになんでどこかに行かなかったんだろう、って」

 嘘を言う。彼が何を思っているのか、というのは考えてたけど、それは別のことに対してのことだ。

「だから、言っただろ。俺はこの場所が気に入ってるんだ。変な奴がいてもどこかに行きたいって思わないくらいにな」

 彼が面倒くさそうに返した言葉には少しの毒が混ざっていた。まあ、このくらいの毒なら気にならないからいいんだけど。

「そうなんですか」

 私は適当に頷き返す。そして、そのまま会話は止まってしまう。

 ずっと彼の顔を見ていたい気はしないから顔をそらして海の方を見る。

 今日は昨日は姿の見えなかった海鳥の姿が見えた。と言っても、ここから結構離れた場所を飛んでいるから影が見えるだけだ。

 私は、空を飛んでみたい、と思ったことがある。飛行機とかパラグライダーとかそういう人間が創り出したものを使うんじゃなくて背中から生える翼を使って飛びたいと思った。

 確か、一番その思いが強かったのは小学校の中学年くらいの時だったと思う。あの時は心の底から何で自分は飛べないんだろう、と思っていた。本当に純粋だったんだと思う。世の中にはどうしようもないものがある、っていうことに気が付けないくらいに。

 けど、結局成長していくうちにどうしようもないものがあるんだ、っていうことに気が付いていった。そして、今では翼で飛びたいけど、絶対に無理だ、と思っている。

 人は飛べない。だから、高い所から飛び降りてしまえば絶対に重力に逆らうことはできずに落下していき、下に叩きつけられてしまう。

 たぶん、私が飛び降り自殺を選んだのは最後の最後に私の願いを完全に否定するためなのかもしれない。自力で空を飛びたい、というそんな願いを。

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